その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

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魔王、背中を押す3

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「うぁぁ!」

 炎の中に突っ込んだヨハンは悲鳴を上げる。

「ちょっと、あんた、何やってんのよ!?」

 エレナが駆け寄って来て、クリスの胸ぐらを掴んだ。
 障壁の外はごうごうと燃える炎でヨハンの姿は見えない。どう考えても無事だとは思えなかった。

「背中を押しただけだけど?」

 クリスの返答は素っ気ない。

「自分が何やったかわかってるの!? ヨハンが死ぬかもしれないのよ!?」

 激情のあまり目に涙を浮かべるエレナに、クリスはため息をつく。

「僕のやることに文句は言わないって約束だったけど?」
「これが怒らずにいられるわけがないでしょ!」

 クリスの平然とした言いぐさに、怒ったエレナは怒鳴る。
 クリスは頭を掻いた。
 周りを見ると、ルディアは青い顔で口を開けたまま固まっているし、グレイは「え、うそだろ?」とか言いながら青い顔で落ち着きなくキョロキョロしているし、ガルムは真っ赤な顔でこちらを睨んでいた。
 他の人間たちもざわざわしている。

「なぁ、クリス、お前、ちゃんと説明した方がいいんじゃね?」

 シャルルが気まずそうに言った。

 その時、炎の中から、元気な抗議の声が聞こえた。

「そうだ、そうだ! 説明しろ!」
「……え?」

 エレナは声のした方を向く。
 他の人間たちも、同じ方向を見た。

 そこには、焦げ目1つない五体満足のままのヨハンが怒った顔で立っていた。

「ヨ、ヨハン、無事なの!?」

 呆然とした顔のまま、エレナが聞く。

「無事?……ってうおおお!?」

 首を傾げたヨハンに魔法の炎が当たる。

「ヨハン!?」

 たまらず、エレナが悲鳴を上げる。
 だが、炎はヨハンに傷1つつけることができなかった。

「あ、あつ……くない?」

 確かめるように炎に腕を伸ばしながら、ヨハンは首を傾げた。

「どういうことよ!?」

 エレナがクリスに詰めよる。
 クリスはめんどくさそうに息をつく。

「……聖剣の持ち主には魔法が効かないんだよ」

 驚きの情報に、エレナは目を丸くした。

「え、本当、どういうこと!?」
「そのままの意味だよ。
 聖剣の持ち主には魔法が通用しない。特に幻覚とか雷とか、あと……」

 クリスは渦巻く炎に目を向けた。

「炎とか」

 クリスたちが魔法で勇者に対抗しない大きな理由はこれである。使っても無駄なのだ。
 かろうじて実体のある地属性の魔法や植物魔法、水魔法などは勇者にもダメージを与えることができるが、それでも威力は半減するらしい。
 ちなみに、その効果は身につけているものにも適応されるらしく、ヨハンの服も無事である。

「わかった? じゃあ、さっさと倒して来て」

 クリスは障壁の外の勇者に声をかけた。

「え……あ、うん」

 戸惑いつつも、ヨハンは頷く。

「……あんた、ヨハンがあの男を倒せると思っているの?」

 男に向かって行ったヨハンを横目で見ながら、エレナが聞く。
 エレナはまだ、クリスを信用していなかった。
 クリスはあっさりと頷く。

「思ってるよ。彼は典型的な魔族のようだからね。
 それより、そろそろ放してくれないかい?」

 ずっとクリスの胸ぐらを掴んだままだったエレナは、仕方なく放した。
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