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魔王、背中を押す3
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「うぁぁ!」
炎の中に突っ込んだヨハンは悲鳴を上げる。
「ちょっと、あんた、何やってんのよ!?」
エレナが駆け寄って来て、クリスの胸ぐらを掴んだ。
障壁の外はごうごうと燃える炎でヨハンの姿は見えない。どう考えても無事だとは思えなかった。
「背中を押しただけだけど?」
クリスの返答は素っ気ない。
「自分が何やったかわかってるの!? ヨハンが死ぬかもしれないのよ!?」
激情のあまり目に涙を浮かべるエレナに、クリスはため息をつく。
「僕のやることに文句は言わないって約束だったけど?」
「これが怒らずにいられるわけがないでしょ!」
クリスの平然とした言いぐさに、怒ったエレナは怒鳴る。
クリスは頭を掻いた。
周りを見ると、ルディアは青い顔で口を開けたまま固まっているし、グレイは「え、うそだろ?」とか言いながら青い顔で落ち着きなくキョロキョロしているし、ガルムは真っ赤な顔でこちらを睨んでいた。
他の人間たちもざわざわしている。
「なぁ、クリス、お前、ちゃんと説明した方がいいんじゃね?」
シャルルが気まずそうに言った。
その時、炎の中から、元気な抗議の声が聞こえた。
「そうだ、そうだ! 説明しろ!」
「……え?」
エレナは声のした方を向く。
他の人間たちも、同じ方向を見た。
そこには、焦げ目1つない五体満足のままのヨハンが怒った顔で立っていた。
「ヨ、ヨハン、無事なの!?」
呆然とした顔のまま、エレナが聞く。
「無事?……ってうおおお!?」
首を傾げたヨハンに魔法の炎が当たる。
「ヨハン!?」
たまらず、エレナが悲鳴を上げる。
だが、炎はヨハンに傷1つつけることができなかった。
「あ、あつ……くない?」
確かめるように炎に腕を伸ばしながら、ヨハンは首を傾げた。
「どういうことよ!?」
エレナがクリスに詰めよる。
クリスはめんどくさそうに息をつく。
「……聖剣の持ち主には魔法が効かないんだよ」
驚きの情報に、エレナは目を丸くした。
「え、本当、どういうこと!?」
「そのままの意味だよ。
聖剣の持ち主には魔法が通用しない。特に幻覚とか雷とか、あと……」
クリスは渦巻く炎に目を向けた。
「炎とか」
クリスたちが魔法で勇者に対抗しない大きな理由はこれである。使っても無駄なのだ。
かろうじて実体のある地属性の魔法や植物魔法、水魔法などは勇者にもダメージを与えることができるが、それでも威力は半減するらしい。
ちなみに、その効果は身につけているものにも適応されるらしく、ヨハンの服も無事である。
「わかった? じゃあ、さっさと倒して来て」
クリスは障壁の外の勇者に声をかけた。
「え……あ、うん」
戸惑いつつも、ヨハンは頷く。
「……あんた、ヨハンがあの男を倒せると思っているの?」
男に向かって行ったヨハンを横目で見ながら、エレナが聞く。
エレナはまだ、クリスを信用していなかった。
クリスはあっさりと頷く。
「思ってるよ。彼は典型的な魔族のようだからね。
それより、そろそろ放してくれないかい?」
ずっとクリスの胸ぐらを掴んだままだったエレナは、仕方なく放した。
炎の中に突っ込んだヨハンは悲鳴を上げる。
「ちょっと、あんた、何やってんのよ!?」
エレナが駆け寄って来て、クリスの胸ぐらを掴んだ。
障壁の外はごうごうと燃える炎でヨハンの姿は見えない。どう考えても無事だとは思えなかった。
「背中を押しただけだけど?」
クリスの返答は素っ気ない。
「自分が何やったかわかってるの!? ヨハンが死ぬかもしれないのよ!?」
激情のあまり目に涙を浮かべるエレナに、クリスはため息をつく。
「僕のやることに文句は言わないって約束だったけど?」
「これが怒らずにいられるわけがないでしょ!」
クリスの平然とした言いぐさに、怒ったエレナは怒鳴る。
クリスは頭を掻いた。
周りを見ると、ルディアは青い顔で口を開けたまま固まっているし、グレイは「え、うそだろ?」とか言いながら青い顔で落ち着きなくキョロキョロしているし、ガルムは真っ赤な顔でこちらを睨んでいた。
他の人間たちもざわざわしている。
「なぁ、クリス、お前、ちゃんと説明した方がいいんじゃね?」
シャルルが気まずそうに言った。
その時、炎の中から、元気な抗議の声が聞こえた。
「そうだ、そうだ! 説明しろ!」
「……え?」
エレナは声のした方を向く。
他の人間たちも、同じ方向を見た。
そこには、焦げ目1つない五体満足のままのヨハンが怒った顔で立っていた。
「ヨ、ヨハン、無事なの!?」
呆然とした顔のまま、エレナが聞く。
「無事?……ってうおおお!?」
首を傾げたヨハンに魔法の炎が当たる。
「ヨハン!?」
たまらず、エレナが悲鳴を上げる。
だが、炎はヨハンに傷1つつけることができなかった。
「あ、あつ……くない?」
確かめるように炎に腕を伸ばしながら、ヨハンは首を傾げた。
「どういうことよ!?」
エレナがクリスに詰めよる。
クリスはめんどくさそうに息をつく。
「……聖剣の持ち主には魔法が効かないんだよ」
驚きの情報に、エレナは目を丸くした。
「え、本当、どういうこと!?」
「そのままの意味だよ。
聖剣の持ち主には魔法が通用しない。特に幻覚とか雷とか、あと……」
クリスは渦巻く炎に目を向けた。
「炎とか」
クリスたちが魔法で勇者に対抗しない大きな理由はこれである。使っても無駄なのだ。
かろうじて実体のある地属性の魔法や植物魔法、水魔法などは勇者にもダメージを与えることができるが、それでも威力は半減するらしい。
ちなみに、その効果は身につけているものにも適応されるらしく、ヨハンの服も無事である。
「わかった? じゃあ、さっさと倒して来て」
クリスは障壁の外の勇者に声をかけた。
「え……あ、うん」
戸惑いつつも、ヨハンは頷く。
「……あんた、ヨハンがあの男を倒せると思っているの?」
男に向かって行ったヨハンを横目で見ながら、エレナが聞く。
エレナはまだ、クリスを信用していなかった。
クリスはあっさりと頷く。
「思ってるよ。彼は典型的な魔族のようだからね。
それより、そろそろ放してくれないかい?」
ずっとクリスの胸ぐらを掴んだままだったエレナは、仕方なく放した。
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