52 / 179
魔王、背中を押す
しおりを挟む
クリスたちが森の中を魔王の元へ向かって歩いていると、少し離れたところから、もくもくと黒い煙が上がってきた。
「火事?」
そう呟くと同時にクリスは煙の元へ走り出しそうとする。
「ちょっと、待ちなさいよ!」
サーニャの呼び止める声に、クリスは不機嫌な顔で振り向く。
「何?」
「あんた、何しに行くつもりなの!?」
「消火とか、周囲の者を避難させたりとか、怪我人の治療とか……」
当然のように答えるクリスに、サーニャはため息をつく。
「あんたね、そんなことする必要ある?」
「あるでしょ?」
「ないわよ」
全くわかっていないクリスに、サーニャは断言した。
「燃えているとしても、それは赤の他人、それも人間で、私たちには助ける義理なんてないのよ!」
クリスはため息をついた。
「わかった」
クリスの返答にサーニャは満足げな顔をする。
「じゃあ、君たちはここに残ってて」
サーニャの顔は笑顔のまま、固まった。
「人間だろうが異種族だろうが見捨てる方が後味が悪い」
クリスはそう言って、再び駆け出す。
クリスを止められなかったサーニャの肩を、オークのドンファがポンッと叩いた。
「気持ちはわかるが、ああいう御仁だから、わしらも生かされている。諦めた方が良い」
ドンファはサーニャを諭す。
「……ごめん、何言っているのかわからない」
サーニャはオークの言葉がわからなかったので、伝わらなかった。
火事の元に行く途中、少し離れたところから走って来る勇者一行と遭遇する。
「ちょ、お前、なんで来てんだよ!」
クリスの姿を見た勇者がわめいたが、それを無視してクリスは走る。
そして着いたのは、ほぼすべての家に火が付いた村だった。
「なに、これ?」
クリスは絶句した。
家と家の間にはある程度距離がある。
それにも関わらず、見渡す限りの家が燃えている。
人々は炎から逃れようと走り回っていて、消火どころではないようだ。
何より、家につけられている炎からは強い魔力を感じた。
「グハハハハッ! 逃げろ逃げろー!」
下品な高笑いしながら、赤黒い髪に暗い黄色の目をした角の生えた男が、逃げ惑う人々に向かって、火球を放つ。
「ひっ!」
ひきつった悲鳴を上げて、標的になった人間は火球から身を守ろうと踞る。
だが、火球は途中で折れ曲がって、その人間に向かって真っ直ぐ飛んで来た。
「ガハハハハッ!」
男は愚かな人間を嘲笑う。
だが、炎が人間にあと少しで迫る時、火球はバンッと何かにぶつかって四散した。
「は……?」
男は一瞬、呆気にとられる。
だが、すぐにクリスをギロリと睨み付けた。
「なに、やってんだお前?」
男の火球は、クリスがすんでのところで、築いた障壁によって阻まれたのだ。
「それは、こっちのセリフだよ」
クリスは男に負けないくらい冷ややかな目で見返した。
「火事?」
そう呟くと同時にクリスは煙の元へ走り出しそうとする。
「ちょっと、待ちなさいよ!」
サーニャの呼び止める声に、クリスは不機嫌な顔で振り向く。
「何?」
「あんた、何しに行くつもりなの!?」
「消火とか、周囲の者を避難させたりとか、怪我人の治療とか……」
当然のように答えるクリスに、サーニャはため息をつく。
「あんたね、そんなことする必要ある?」
「あるでしょ?」
「ないわよ」
全くわかっていないクリスに、サーニャは断言した。
「燃えているとしても、それは赤の他人、それも人間で、私たちには助ける義理なんてないのよ!」
クリスはため息をついた。
「わかった」
クリスの返答にサーニャは満足げな顔をする。
「じゃあ、君たちはここに残ってて」
サーニャの顔は笑顔のまま、固まった。
「人間だろうが異種族だろうが見捨てる方が後味が悪い」
クリスはそう言って、再び駆け出す。
クリスを止められなかったサーニャの肩を、オークのドンファがポンッと叩いた。
「気持ちはわかるが、ああいう御仁だから、わしらも生かされている。諦めた方が良い」
ドンファはサーニャを諭す。
「……ごめん、何言っているのかわからない」
サーニャはオークの言葉がわからなかったので、伝わらなかった。
火事の元に行く途中、少し離れたところから走って来る勇者一行と遭遇する。
「ちょ、お前、なんで来てんだよ!」
クリスの姿を見た勇者がわめいたが、それを無視してクリスは走る。
そして着いたのは、ほぼすべての家に火が付いた村だった。
「なに、これ?」
クリスは絶句した。
家と家の間にはある程度距離がある。
それにも関わらず、見渡す限りの家が燃えている。
人々は炎から逃れようと走り回っていて、消火どころではないようだ。
何より、家につけられている炎からは強い魔力を感じた。
「グハハハハッ! 逃げろ逃げろー!」
下品な高笑いしながら、赤黒い髪に暗い黄色の目をした角の生えた男が、逃げ惑う人々に向かって、火球を放つ。
「ひっ!」
ひきつった悲鳴を上げて、標的になった人間は火球から身を守ろうと踞る。
だが、火球は途中で折れ曲がって、その人間に向かって真っ直ぐ飛んで来た。
「ガハハハハッ!」
男は愚かな人間を嘲笑う。
だが、炎が人間にあと少しで迫る時、火球はバンッと何かにぶつかって四散した。
「は……?」
男は一瞬、呆気にとられる。
だが、すぐにクリスをギロリと睨み付けた。
「なに、やってんだお前?」
男の火球は、クリスがすんでのところで、築いた障壁によって阻まれたのだ。
「それは、こっちのセリフだよ」
クリスは男に負けないくらい冷ややかな目で見返した。
0
お気に入りに追加
114
あなたにおすすめの小説

帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

水しか作れない無能と追放された少年は、砂漠の国で開拓はじめました
水空 葵
ファンタジー
水魔法使いの少年レインは、ある日唐突に冒険者パーティーから追放されてしまった。
沢山の水に恵まれている国ではただのお荷物だという理由で。
けれども、そんな時。見知らぬ少女に隣国へと誘われ、受け入れることに決めるレイン。
そこは水が貴重な砂漠の国で、水に敏感という才能を活かして農地開拓を始めることになった。
そうして新天地へと渡った少年が、頼れる味方を増やしながら国を豊かにしていき――。
※他サイト様でも公開しています
◇2024/5/26 男性向けHOTランキングで3位をいただきました!
本当にありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる