その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

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魔王、背中を押す

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 クリスたちが森の中を魔王の元へ向かって歩いていると、少し離れたところから、もくもくと黒い煙が上がってきた。

「火事?」

 そう呟くと同時にクリスは煙の元へ走り出しそうとする。

「ちょっと、待ちなさいよ!」

 サーニャの呼び止める声に、クリスは不機嫌な顔で振り向く。

「何?」
「あんた、何しに行くつもりなの!?」
「消火とか、周囲の者を避難させたりとか、怪我人の治療とか……」

 当然のように答えるクリスに、サーニャはため息をつく。

「あんたね、そんなことする必要ある?」
「あるでしょ?」
「ないわよ」

 全くわかっていないクリスに、サーニャは断言した。

「燃えているとしても、それは赤の他人、それも人間で、私たちには助ける義理なんてないのよ!」

 クリスはため息をついた。

「わかった」

 クリスの返答にサーニャは満足げな顔をする。

「じゃあ、君たちはここに残ってて」

 サーニャの顔は笑顔のまま、固まった。

「人間だろうが異種族だろうが見捨てる方が後味が悪い」

 クリスはそう言って、再び駆け出す。
 クリスを止められなかったサーニャの肩を、オークのドンファがポンッと叩いた。

「気持ちはわかるが、ああいう御仁だから、わしらも生かされている。諦めた方が良い」

 ドンファはサーニャを諭す。

「……ごめん、何言っているのかわからない」

 サーニャはオークの言葉がわからなかったので、伝わらなかった。



 火事の元に行く途中、少し離れたところから走って来る勇者一行と遭遇する。

「ちょ、お前、なんで来てんだよ!」

 クリスの姿を見た勇者がわめいたが、それを無視してクリスは走る。
 そして着いたのは、ほぼすべての家に火が付いた村だった。

「なに、これ?」

 クリスは絶句した。
 家と家の間にはある程度距離がある。
 それにも関わらず、見渡す限りの家が燃えている。
 人々は炎から逃れようと走り回っていて、消火どころではないようだ。
 何より、家につけられている炎からは強い魔力を感じた。

「グハハハハッ! 逃げろ逃げろー!」

 下品な高笑いしながら、赤黒い髪に暗い黄色の目をした角の生えた男が、逃げ惑う人々に向かって、火球を放つ。

「ひっ!」

 ひきつった悲鳴を上げて、標的になった人間は火球から身を守ろうと踞る。
 だが、火球は途中で折れ曲がって、その人間に向かって真っ直ぐ飛んで来た。

「ガハハハハッ!」

 男は愚かな人間を嘲笑う。
 だが、炎が人間にあと少しで迫る時、火球はバンッと何かにぶつかって四散した。

「は……?」

 男は一瞬、呆気にとられる。
 だが、すぐにクリスをギロリと睨み付けた。

「なに、やってんだお前?」

 男の火球は、クリスがすんでのところで、築いた障壁によって阻まれたのだ。

「それは、こっちのセリフだよ」

 クリスは男に負けないくらい冷ややかな目で見返した。
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