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魔王、背中を押す
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クリスたちが森の中を魔王の元へ向かって歩いていると、少し離れたところから、もくもくと黒い煙が上がってきた。
「火事?」
そう呟くと同時にクリスは煙の元へ走り出しそうとする。
「ちょっと、待ちなさいよ!」
サーニャの呼び止める声に、クリスは不機嫌な顔で振り向く。
「何?」
「あんた、何しに行くつもりなの!?」
「消火とか、周囲の者を避難させたりとか、怪我人の治療とか……」
当然のように答えるクリスに、サーニャはため息をつく。
「あんたね、そんなことする必要ある?」
「あるでしょ?」
「ないわよ」
全くわかっていないクリスに、サーニャは断言した。
「燃えているとしても、それは赤の他人、それも人間で、私たちには助ける義理なんてないのよ!」
クリスはため息をついた。
「わかった」
クリスの返答にサーニャは満足げな顔をする。
「じゃあ、君たちはここに残ってて」
サーニャの顔は笑顔のまま、固まった。
「人間だろうが異種族だろうが見捨てる方が後味が悪い」
クリスはそう言って、再び駆け出す。
クリスを止められなかったサーニャの肩を、オークのドンファがポンッと叩いた。
「気持ちはわかるが、ああいう御仁だから、わしらも生かされている。諦めた方が良い」
ドンファはサーニャを諭す。
「……ごめん、何言っているのかわからない」
サーニャはオークの言葉がわからなかったので、伝わらなかった。
火事の元に行く途中、少し離れたところから走って来る勇者一行と遭遇する。
「ちょ、お前、なんで来てんだよ!」
クリスの姿を見た勇者がわめいたが、それを無視してクリスは走る。
そして着いたのは、ほぼすべての家に火が付いた村だった。
「なに、これ?」
クリスは絶句した。
家と家の間にはある程度距離がある。
それにも関わらず、見渡す限りの家が燃えている。
人々は炎から逃れようと走り回っていて、消火どころではないようだ。
何より、家につけられている炎からは強い魔力を感じた。
「グハハハハッ! 逃げろ逃げろー!」
下品な高笑いしながら、赤黒い髪に暗い黄色の目をした角の生えた男が、逃げ惑う人々に向かって、火球を放つ。
「ひっ!」
ひきつった悲鳴を上げて、標的になった人間は火球から身を守ろうと踞る。
だが、火球は途中で折れ曲がって、その人間に向かって真っ直ぐ飛んで来た。
「ガハハハハッ!」
男は愚かな人間を嘲笑う。
だが、炎が人間にあと少しで迫る時、火球はバンッと何かにぶつかって四散した。
「は……?」
男は一瞬、呆気にとられる。
だが、すぐにクリスをギロリと睨み付けた。
「なに、やってんだお前?」
男の火球は、クリスがすんでのところで、築いた障壁によって阻まれたのだ。
「それは、こっちのセリフだよ」
クリスは男に負けないくらい冷ややかな目で見返した。
「火事?」
そう呟くと同時にクリスは煙の元へ走り出しそうとする。
「ちょっと、待ちなさいよ!」
サーニャの呼び止める声に、クリスは不機嫌な顔で振り向く。
「何?」
「あんた、何しに行くつもりなの!?」
「消火とか、周囲の者を避難させたりとか、怪我人の治療とか……」
当然のように答えるクリスに、サーニャはため息をつく。
「あんたね、そんなことする必要ある?」
「あるでしょ?」
「ないわよ」
全くわかっていないクリスに、サーニャは断言した。
「燃えているとしても、それは赤の他人、それも人間で、私たちには助ける義理なんてないのよ!」
クリスはため息をついた。
「わかった」
クリスの返答にサーニャは満足げな顔をする。
「じゃあ、君たちはここに残ってて」
サーニャの顔は笑顔のまま、固まった。
「人間だろうが異種族だろうが見捨てる方が後味が悪い」
クリスはそう言って、再び駆け出す。
クリスを止められなかったサーニャの肩を、オークのドンファがポンッと叩いた。
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そして着いたのは、ほぼすべての家に火が付いた村だった。
「なに、これ?」
クリスは絶句した。
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何より、家につけられている炎からは強い魔力を感じた。
「グハハハハッ! 逃げろ逃げろー!」
下品な高笑いしながら、赤黒い髪に暗い黄色の目をした角の生えた男が、逃げ惑う人々に向かって、火球を放つ。
「ひっ!」
ひきつった悲鳴を上げて、標的になった人間は火球から身を守ろうと踞る。
だが、火球は途中で折れ曲がって、その人間に向かって真っ直ぐ飛んで来た。
「ガハハハハッ!」
男は愚かな人間を嘲笑う。
だが、炎が人間にあと少しで迫る時、火球はバンッと何かにぶつかって四散した。
「は……?」
男は一瞬、呆気にとられる。
だが、すぐにクリスをギロリと睨み付けた。
「なに、やってんだお前?」
男の火球は、クリスがすんでのところで、築いた障壁によって阻まれたのだ。
「それは、こっちのセリフだよ」
クリスは男に負けないくらい冷ややかな目で見返した。
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