その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

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魔王、弟子をとる?

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 メイが加わり、数日が経つ。
 メイは意外にも、野宿にも質素な食事にも文句を言わなかった。
 サーニャやオークたちのことも初めは警戒しているようだったが、わりとすぐに慣れて、今では談笑するくらい打ち解けた。
 正直、文句の1つでも言ったら、すぐに王宮に帰そうと思っていたクリスのもくろみははずれた。
 メイの国からの追っ手が来るかと思われたが、メイ曰く「追いかけてきたら絶縁しますって置き手紙に書きました」とか言っていたので、大丈夫らしい。
 「あの父親、王として大丈夫なのか?」とクリスは少し心配になる。

「結構いい子なんだし、付き合っちゃえば?」

 サーニャなど、そうクリスに言ってくることがある。
 それに対してクリスは何も言わず、首を横に振る。

 そう、メイはいい子なのだ。
 しょっちゅう引っ付いてくるがいい子なのだ。
 それはクリスも認めている。
 だが、恋愛感情を持てるかというと、そうでない。
 だからクリスは断るしかない。

「ふーん、頑固ね」

 サーニャはつまらないものを見る目でクリスを見た。

 そんなある日、昼の休憩を取っていると、勇者が強張った顔をしてクリスの前に立った。
 ここ数日、勇者は何もして来なかったので、てっきりクリスに勝つことを諦めたのかと思っていたが、違うのかもしれない。

「なんだい?」

 警戒しながら、クリスは聞く。
 なおも思い詰めた表情で勇者は動かない。
 いつもなら、決闘を申し込むなり襲いかかってくるなりするので、クリスは怪訝に思った。
 すると、勇者はいきなり、地面に膝をついて頭を擦りつけた。

「頼む、俺を弟子にしてくれ!」
「……は?」

 あまりに突拍子もない頼みだったので、クリスは反応が遅れた。
 勇者はまだ地面に額をつけている。

「今の俺じゃあ、あの魔王どころか、この世界の魔王も倒せない! だから、俺を弟子にしてくれ!」

 この世界の魔王があの魔王であるクリスより強い可能性もあるのに、なぜか、勇者の中ではクリスの方が強いことになっているようだ。

「……ガルムとかに頼めば?」

 クリスは提案した。
 どう考えてもクリスよりもガルムの方が勇者と親しいし、勇者よりは強い。

「確かにガルムも強い。だが、俺が会ったなかで1番強いのはお前だ! だから、お前の弟子にしてくれ!」

 それに、と勇者は続ける。

「あの魔王はお前よりも強いんだろ? なら、俺は少なくとも、お前よりも強くならなきゃいけない!」

 これについてはクリスは沈黙した。
 実際はクリスが魔王なので、あの魔王と強さは一緒なのだか、それを勇者に言う義理はない。

「頼む!」

 さらに地面に額を擦りつけて、勇者は懇願する。
 クリスはため息を吐いた。
 そして口に出したのは、たった一言。

「やだ」
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