48 / 179
魔王、刺される3
しおりを挟む
「そういえば、お前、怪我大丈夫なのか?」
笑いが収まったあと、子どもの1人が聞く。
「それなら、もう治ったよ」
クリスが答えると、また、周りがシンと静かになる。
そして子どもたちがざわざわしだした。
「……あの怪我が?」
「僕は回復魔法が使えるから、あれくらいなら、あっという間に治るよ」
クリスが答えると、ざわめきがさらに大きくなる。
「魔法使えるの!?」
「しかも回復魔法って珍しいんだろ!?」
「何にも言ってなかった……ってことは無詠唱!?」
口々に出てくる言葉に、クリスは圧倒される。
(そっか、人間だと魔法使える方が少数なんだ)
魔族の場合は魔法を使えない方がまれなので忘れていた。
回復魔法も自己回復なら魔族は大抵使えるし、無詠唱も当たり前だが、人間にとつては珍しいのだろう。
「えーと、こう見えても魔法が得意なんだ。そんじょそこらの魔族には負けないよ」
実際に攻撃力という意味ではクリスはどの魔族よりも強い魔法が使える。威力が強過ぎる上に細かいコントロールが下手で、生活で使う魔法はうまくできないが。
リンがクリスをじっと見た。
「……お兄さん、魔王を倒してくれる?」
クリスは困った顔をする。
「……魔王が話し合いもできない奴なら」
えー、と子どもたちから不平不満が上がるが、そこは譲れなかった。
「……まぁ、話し合いができても、何発か殴るくらいはしようかな」
そう付け加えたのは、リンの父のことで少し怒っているからかも知れない。
魔王に勝ってねー、がんばれー、と言われながら、クリスは子どもたちと別れた。
服に血が付いたままだということをすっかり忘れて買い物を再開したため、人々に騒がれたのは、また、別の話。
「あら? その服の血、どうしたの?」
サーニャがクリスの服の血に気がついて聞いてくる。
「まぁ、ちょっとね」
クリスは適当に誤魔化した。
皆の様子を見るために置いていったジョセフが憤っているので、肩に乗せて撫でてなだめる。
「俺より先に、お前に怪我させた奴がいるのか!?」
勇者が驚きながら割り込んできた。
「……君で怪我するつもりはないけど」
ちなみに、この世界に来て、真っ先にクリスに怪我させたのは森の木の枝である。
ただ、油断していたとはいえ、生き物で怪我をさせたのはリンが初めてなので、確かにすごいことかも知れない。
「クリス様ー!」
その時、街の方から誰かが走ってきた。
こちらに向かって来たのは、白に近い金髪に、紫色の瞳の女の子だった。
「メイ!?」
驚くクリスに、メイは体当たりするように抱きついた。
「クリス様、私諦めたくはありません! なので、一緒に行かせてください!」
「……君と結婚するつもりはないけど」
目をキラキラさせるメイに、クリスの顔はひきつる。
「ええ、ですが、それは私が未成年だからでしょう?」
メイは力強い笑みを浮かべる。
「だったら、返事は3年後にお願いします! それなら、問題ないでしょう?」
(強い……)
クリスは彼女の強さを見誤っていた。
メイはクリスが必死になって考えた理由など、吹き飛ばす強さを持っていた。
その後も野宿だとか風呂に入れないとかいろいろ言ってみたが、メイの決心はぴくりともしない。
結局、クリスが根負けし、メイを連れて行くことになった。
こうして、クリスの旅に新たな仲間が加わったのだった。
笑いが収まったあと、子どもの1人が聞く。
「それなら、もう治ったよ」
クリスが答えると、また、周りがシンと静かになる。
そして子どもたちがざわざわしだした。
「……あの怪我が?」
「僕は回復魔法が使えるから、あれくらいなら、あっという間に治るよ」
クリスが答えると、ざわめきがさらに大きくなる。
「魔法使えるの!?」
「しかも回復魔法って珍しいんだろ!?」
「何にも言ってなかった……ってことは無詠唱!?」
口々に出てくる言葉に、クリスは圧倒される。
(そっか、人間だと魔法使える方が少数なんだ)
魔族の場合は魔法を使えない方がまれなので忘れていた。
回復魔法も自己回復なら魔族は大抵使えるし、無詠唱も当たり前だが、人間にとつては珍しいのだろう。
「えーと、こう見えても魔法が得意なんだ。そんじょそこらの魔族には負けないよ」
実際に攻撃力という意味ではクリスはどの魔族よりも強い魔法が使える。威力が強過ぎる上に細かいコントロールが下手で、生活で使う魔法はうまくできないが。
リンがクリスをじっと見た。
「……お兄さん、魔王を倒してくれる?」
クリスは困った顔をする。
「……魔王が話し合いもできない奴なら」
えー、と子どもたちから不平不満が上がるが、そこは譲れなかった。
「……まぁ、話し合いができても、何発か殴るくらいはしようかな」
そう付け加えたのは、リンの父のことで少し怒っているからかも知れない。
魔王に勝ってねー、がんばれー、と言われながら、クリスは子どもたちと別れた。
服に血が付いたままだということをすっかり忘れて買い物を再開したため、人々に騒がれたのは、また、別の話。
「あら? その服の血、どうしたの?」
サーニャがクリスの服の血に気がついて聞いてくる。
「まぁ、ちょっとね」
クリスは適当に誤魔化した。
皆の様子を見るために置いていったジョセフが憤っているので、肩に乗せて撫でてなだめる。
「俺より先に、お前に怪我させた奴がいるのか!?」
勇者が驚きながら割り込んできた。
「……君で怪我するつもりはないけど」
ちなみに、この世界に来て、真っ先にクリスに怪我させたのは森の木の枝である。
ただ、油断していたとはいえ、生き物で怪我をさせたのはリンが初めてなので、確かにすごいことかも知れない。
「クリス様ー!」
その時、街の方から誰かが走ってきた。
こちらに向かって来たのは、白に近い金髪に、紫色の瞳の女の子だった。
「メイ!?」
驚くクリスに、メイは体当たりするように抱きついた。
「クリス様、私諦めたくはありません! なので、一緒に行かせてください!」
「……君と結婚するつもりはないけど」
目をキラキラさせるメイに、クリスの顔はひきつる。
「ええ、ですが、それは私が未成年だからでしょう?」
メイは力強い笑みを浮かべる。
「だったら、返事は3年後にお願いします! それなら、問題ないでしょう?」
(強い……)
クリスは彼女の強さを見誤っていた。
メイはクリスが必死になって考えた理由など、吹き飛ばす強さを持っていた。
その後も野宿だとか風呂に入れないとかいろいろ言ってみたが、メイの決心はぴくりともしない。
結局、クリスが根負けし、メイを連れて行くことになった。
こうして、クリスの旅に新たな仲間が加わったのだった。
0
お気に入りに追加
114
あなたにおすすめの小説

帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。


憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
【完結】虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!
アノマロカリス
恋愛
テルナール子爵令嬢のレオナリアは、幼少の頃から両親に嫌われて自室で過ごしていた。
逆に妹のルーナリアはベタベタと甘やかされて育っていて、我儘に育っていた。
レオナリアは両親には嫌われていたが、曽祖母には好かれていた。
曽祖母からの貰い物を大事にしていたが、妹が欲しいとせがんで来られて拒否すると両親に告げ口をして大事な物をほとんど奪われていた。
レオナリアの事を不憫に思っていた曽祖母は、レオナリアに代々伝わる秘術を伝授した。
その中の秘術の1つの薬学の技術を開花させて、薬品精製で名を知られるまでになり、王室の第三王子との婚約にまでこぎつける事ができた。
それを妬んだルーナリアは捏造計画を企てて、レオナリアを陥れた。
そしてルーナリアは第三王子までもレオナリアから奪い取り、両親からは家を追い出される事になった。
だけど、レオナリアが祖母から与えられた秘術の薬学は数ある中のほんの1つに過ぎなかった。
レオナリアは追い出されてから店を構えて生計を立てて大成功を治める事になるのだけど?
さて、どんなざまぁになるのでしょうか?
今回のHOTランキングは最高3位でした。
応援、有り難うございます。

女神の代わりに異世界漫遊 ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~
大福にゃここ
ファンタジー
目の前に、女神を名乗る女性が立っていた。
麗しい彼女の願いは「自分の代わりに世界を見て欲しい」それだけ。
使命も何もなく、ただ、その世界で楽しく生きていくだけでいいらしい。
厳しい異世界で生き抜く為のスキルも色々と貰い、食いしん坊だけど優しくて可愛い従魔も一緒!
忙しくて自由のない女神の代わりに、異世界を楽しんでこよう♪
13話目くらいから話が動きますので、気長にお付き合いください!
最初はとっつきにくいかもしれませんが、どうか続きを読んでみてくださいね^^
※お気に入り登録や感想がとても励みになっています。 ありがとうございます!
(なかなかお返事書けなくてごめんなさい)
※小説家になろう様にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる