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魔王、刺される2
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後ろにいたのは、昨日の子どもだった。
目には涙を浮かべ、手には血のついた古いナイフを持っている。
「リン!」
周りの子どもたちは驚いてリンに駆け寄る。
「何してんだよ!」
「この兄ちゃん、食い物くれたんだぞ!」
「うぇーん、ふぇーん!」
怒り出したり泣き出す子どもたちで、その場は一瞬でパニックになる。
「だ、大丈夫だから……」
幸い、怪我は致命傷ではない。
それに、自己回復魔法ですぐに治った。
だが、なぜ刺されたかわからず、自身も混乱しながらも、クリスは子どもたちを宥める。
(ひょっとして、魔族ってバレた?)
クリスが刺される理由としたら、それくらいしか思い浮かばない。
クリスがリンの方を見ると、リンはキッとクリスを睨みつける。
「お前、勇者なんだろ!?」
あんなに騒がしかった子どもたちがしんっと静かになる。
なおも、リンはクリスを睨む。
「お前が、ちゃんと魔王を倒さなかったせいで、父ちゃんは死んだんだ!」
クリスは悟った。
リンの父は魔族、もしくは魔物に殺されたことを。
「なんで、なんで魔王を倒してくれなかったんだよぅ! 父ちゃんを返せ!」
ナイフを落として泣きながら体を叩くリンを、クリスは黙って見ている。
これはただの八つ当たりで、クリスが罪悪感を感じる必要のないことだ。
けど、子どもだし、あまりにもどうしようもないことだから、クリスに当たるのも仕方がない。
他の子どもも似たような経験をした子がいるのか、リンのことを止めず、黙って見ていた。
だが、これだけは言っておかなければと、クリスは泣いて少し落ち着いたリンの両肩を掴む。
「ひっ!?」
何かされるのではと、リンはひきつった悲鳴を上げる。
クリスはリンの目を真剣に見つめて、こう言った。
「君、危ないから、こういうことは次からはするな」
「え?」
リンはポカンとする。
クリスは真剣に怒っていた。
「たまたま僕だったからよかったけど、もし他者を刺すことにためらいのない相手だったら、君、仕返しに刺されて大怪我するよ!
相手によっては殺されることだってあるんだから、こういうことは絶対にしちゃダメだ!」
強い口調だが声を荒げることなく、諭すように怒るクリスに、リンだけでなく周りの子どもたちも呆気にとられる。
「……怒ってないの?」
リンがおずおずと聞いた。
「怒ってるよ」
クリスはカンカンに怒っている。
子どもなのに自分が危険な目に合うかもしれないことをしたのだ。怒らずにはいられなかった。
「そうじゃなくて……」
「? なんだい?」
リンは戸惑って口をもごもごさせる。
リンが何を言いたいのかわからなくて、クリスは首を傾げた。
「お前、変な奴だな」
周りにいた子どもたちの1人がポツリと言った。
「えー……」
クリスは軽くショックを受けた。
最近、変わった奴呼ばわりをよくされるが、子どもから変な奴呼ばわりは結構ダメージがある。
そのクリスの様子がおかしかったのか、誰かがプッと吹き出した。
「クククク……」
「う、ふふふふ……!」
「アハハハハ……!」
その笑い声は徐々に大きく広がり、リンまで巻き込む笑いの合唱になる。
なぜ子どもたちが笑っているかわからないクリスは、そのまま呆気にとられて突っ立っているしかなかった。
目には涙を浮かべ、手には血のついた古いナイフを持っている。
「リン!」
周りの子どもたちは驚いてリンに駆け寄る。
「何してんだよ!」
「この兄ちゃん、食い物くれたんだぞ!」
「うぇーん、ふぇーん!」
怒り出したり泣き出す子どもたちで、その場は一瞬でパニックになる。
「だ、大丈夫だから……」
幸い、怪我は致命傷ではない。
それに、自己回復魔法ですぐに治った。
だが、なぜ刺されたかわからず、自身も混乱しながらも、クリスは子どもたちを宥める。
(ひょっとして、魔族ってバレた?)
クリスが刺される理由としたら、それくらいしか思い浮かばない。
クリスがリンの方を見ると、リンはキッとクリスを睨みつける。
「お前、勇者なんだろ!?」
あんなに騒がしかった子どもたちがしんっと静かになる。
なおも、リンはクリスを睨む。
「お前が、ちゃんと魔王を倒さなかったせいで、父ちゃんは死んだんだ!」
クリスは悟った。
リンの父は魔族、もしくは魔物に殺されたことを。
「なんで、なんで魔王を倒してくれなかったんだよぅ! 父ちゃんを返せ!」
ナイフを落として泣きながら体を叩くリンを、クリスは黙って見ている。
これはただの八つ当たりで、クリスが罪悪感を感じる必要のないことだ。
けど、子どもだし、あまりにもどうしようもないことだから、クリスに当たるのも仕方がない。
他の子どもも似たような経験をした子がいるのか、リンのことを止めず、黙って見ていた。
だが、これだけは言っておかなければと、クリスは泣いて少し落ち着いたリンの両肩を掴む。
「ひっ!?」
何かされるのではと、リンはひきつった悲鳴を上げる。
クリスはリンの目を真剣に見つめて、こう言った。
「君、危ないから、こういうことは次からはするな」
「え?」
リンはポカンとする。
クリスは真剣に怒っていた。
「たまたま僕だったからよかったけど、もし他者を刺すことにためらいのない相手だったら、君、仕返しに刺されて大怪我するよ!
相手によっては殺されることだってあるんだから、こういうことは絶対にしちゃダメだ!」
強い口調だが声を荒げることなく、諭すように怒るクリスに、リンだけでなく周りの子どもたちも呆気にとられる。
「……怒ってないの?」
リンがおずおずと聞いた。
「怒ってるよ」
クリスはカンカンに怒っている。
子どもなのに自分が危険な目に合うかもしれないことをしたのだ。怒らずにはいられなかった。
「そうじゃなくて……」
「? なんだい?」
リンは戸惑って口をもごもごさせる。
リンが何を言いたいのかわからなくて、クリスは首を傾げた。
「お前、変な奴だな」
周りにいた子どもたちの1人がポツリと言った。
「えー……」
クリスは軽くショックを受けた。
最近、変わった奴呼ばわりをよくされるが、子どもから変な奴呼ばわりは結構ダメージがある。
そのクリスの様子がおかしかったのか、誰かがプッと吹き出した。
「クククク……」
「う、ふふふふ……!」
「アハハハハ……!」
その笑い声は徐々に大きく広がり、リンまで巻き込む笑いの合唱になる。
なぜ子どもたちが笑っているかわからないクリスは、そのまま呆気にとられて突っ立っているしかなかった。
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