その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

文字の大きさ
上 下
46 / 179

魔王、刺される

しおりを挟む
 次の日にクリスたちは王宮を出て行った。
 見送りの時、王やスザクたちは「もう二度と来るな」というように渋面を浮かべていた。
 メイは見送りには来なかった。
 昨日の今日で顔を合わせづらいのだろう。仕方がない。

 クリスたちは街に出て買い物をする。
 人間の街であるせいか、ヒオン国のような魔道具は見かけない。
 とりあえず、サーニャやオークたちと話合ったものを買うことにした。
 勇者一行は別行動で買い物をしている。
 屋台で、塩の種類が思ったよりもあって悩んでいると、甲高い声をかけられた。

「あー、昨日、リンに食いもん渡していた奴だ!」

 クリスが顔を向けると、建物の間から小汚ない格好の子どもたちがこちらを見ている。
 おそらくリンは昨日、果物をあげた子どもで、彼らは浮浪児だろう。
 こちらが気がついたことに気づいた子どもが、何人かクリスに駆け寄って来る。

「なーなー、俺らにも食い物ちょうだい!」
「こっちなんて3日も何にも食べてないんだ!」
「リンばっかずるい!」

 服の裾を掴んで食べ物をねだる子どもたちには鬼気迫るものがあって、クリスは圧倒される。

「ちょ、ちょっと待ってて」

 店員が追い払おうとするのを手を上げて抑えて、クリスは急いで塩を買った。
 そしてすぐにその場を離れる。

「えっと、君たち、誰も来ないところに連れて行ってくれない?」

 クリスは子どもたちに頼んだ。



「ここなら誰も来ないぜ!」

 案内してくれた子どもが胸を張る。
 クリスが案内されたのは、ぼろぼろの家の細長い隙間をいくつも通ったところにある小さな空間だった。

「確かに、ここなら大人たちは来なそうだね」

 クリスは体を横にしてギリギリ通れたが、もう少し体格の良い大人なら通れないような細い道以外ここに来る手段はない。

「ちゃんと連れて来たんだから、食い物!」
「食べ物ー!」
「お腹空いたー!」

 子どもたちが合唱のように要求する。

「わかった、わかった。落ち着いて」

 クリスは子どもたちを宥めた。
 そして、大人しくなった子どもたちを見渡す。

「けど、いいかい?これから起こることは、絶対に大人たちにはしゃべらないこと。約束できるかい?」

 はーい、と子どもたちは元気よく返事をする。
 クリスは微笑んでひとつ頷くと、ポケットから、シオンにもらった果物の種をひとつ取り出し、地面に植えた。
 そして手をかざすと、たちまち芽が出て成長し、立派な果実のついた木になる。
 子どもたちはポカンと口を開けて見ていたが、すぐに歓声を上げる。

「スゲー!」
「うまそう!」
「でも、手が届かないよ」

 子どもの1人の声にクリスははっとした。
 確かに、小さな子どもには高い高さである。今までオークやサーニャにしか用意していなかったから、失念していた。

「えっと、棒とかない?」

 子どもたちの1人が走って、どこからか古びた熊手を持って来た。
 それを使って小さな子どもは器用に果実を取る。
 その様子を見てほっとしていると、後ろからパタパタ駆け寄って来る足音がした。
 なんだろう、と思って振り向こうとすると同時に、背中に誰かがぶつかった。
 そして、腰の辺りで燃えるような痛みを感じる。

「え?」

 驚いたクリスがその辺りを触ると、手に真っ赤な自分の血が付いていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

処理中です...