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魔王、刺される
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次の日にクリスたちは王宮を出て行った。
見送りの時、王やスザクたちは「もう二度と来るな」というように渋面を浮かべていた。
メイは見送りには来なかった。
昨日の今日で顔を合わせづらいのだろう。仕方がない。
クリスたちは街に出て買い物をする。
人間の街であるせいか、ヒオン国のような魔道具は見かけない。
とりあえず、サーニャやオークたちと話合ったものを買うことにした。
勇者一行は別行動で買い物をしている。
屋台で、塩の種類が思ったよりもあって悩んでいると、甲高い声をかけられた。
「あー、昨日、リンに食いもん渡していた奴だ!」
クリスが顔を向けると、建物の間から小汚ない格好の子どもたちがこちらを見ている。
おそらくリンは昨日、果物をあげた子どもで、彼らは浮浪児だろう。
こちらが気がついたことに気づいた子どもが、何人かクリスに駆け寄って来る。
「なーなー、俺らにも食い物ちょうだい!」
「こっちなんて3日も何にも食べてないんだ!」
「リンばっかずるい!」
服の裾を掴んで食べ物をねだる子どもたちには鬼気迫るものがあって、クリスは圧倒される。
「ちょ、ちょっと待ってて」
店員が追い払おうとするのを手を上げて抑えて、クリスは急いで塩を買った。
そしてすぐにその場を離れる。
「えっと、君たち、誰も来ないところに連れて行ってくれない?」
クリスは子どもたちに頼んだ。
「ここなら誰も来ないぜ!」
案内してくれた子どもが胸を張る。
クリスが案内されたのは、ぼろぼろの家の細長い隙間をいくつも通ったところにある小さな空間だった。
「確かに、ここなら大人たちは来なそうだね」
クリスは体を横にしてギリギリ通れたが、もう少し体格の良い大人なら通れないような細い道以外ここに来る手段はない。
「ちゃんと連れて来たんだから、食い物!」
「食べ物ー!」
「お腹空いたー!」
子どもたちが合唱のように要求する。
「わかった、わかった。落ち着いて」
クリスは子どもたちを宥めた。
そして、大人しくなった子どもたちを見渡す。
「けど、いいかい?これから起こることは、絶対に大人たちにはしゃべらないこと。約束できるかい?」
はーい、と子どもたちは元気よく返事をする。
クリスは微笑んでひとつ頷くと、ポケットから、シオンにもらった果物の種をひとつ取り出し、地面に植えた。
そして手をかざすと、たちまち芽が出て成長し、立派な果実のついた木になる。
子どもたちはポカンと口を開けて見ていたが、すぐに歓声を上げる。
「スゲー!」
「うまそう!」
「でも、手が届かないよ」
子どもの1人の声にクリスははっとした。
確かに、小さな子どもには高い高さである。今までオークやサーニャにしか用意していなかったから、失念していた。
「えっと、棒とかない?」
子どもたちの1人が走って、どこからか古びた熊手を持って来た。
それを使って小さな子どもは器用に果実を取る。
その様子を見てほっとしていると、後ろからパタパタ駆け寄って来る足音がした。
なんだろう、と思って振り向こうとすると同時に、背中に誰かがぶつかった。
そして、腰の辺りで燃えるような痛みを感じる。
「え?」
驚いたクリスがその辺りを触ると、手に真っ赤な自分の血が付いていた。
見送りの時、王やスザクたちは「もう二度と来るな」というように渋面を浮かべていた。
メイは見送りには来なかった。
昨日の今日で顔を合わせづらいのだろう。仕方がない。
クリスたちは街に出て買い物をする。
人間の街であるせいか、ヒオン国のような魔道具は見かけない。
とりあえず、サーニャやオークたちと話合ったものを買うことにした。
勇者一行は別行動で買い物をしている。
屋台で、塩の種類が思ったよりもあって悩んでいると、甲高い声をかけられた。
「あー、昨日、リンに食いもん渡していた奴だ!」
クリスが顔を向けると、建物の間から小汚ない格好の子どもたちがこちらを見ている。
おそらくリンは昨日、果物をあげた子どもで、彼らは浮浪児だろう。
こちらが気がついたことに気づいた子どもが、何人かクリスに駆け寄って来る。
「なーなー、俺らにも食い物ちょうだい!」
「こっちなんて3日も何にも食べてないんだ!」
「リンばっかずるい!」
服の裾を掴んで食べ物をねだる子どもたちには鬼気迫るものがあって、クリスは圧倒される。
「ちょ、ちょっと待ってて」
店員が追い払おうとするのを手を上げて抑えて、クリスは急いで塩を買った。
そしてすぐにその場を離れる。
「えっと、君たち、誰も来ないところに連れて行ってくれない?」
クリスは子どもたちに頼んだ。
「ここなら誰も来ないぜ!」
案内してくれた子どもが胸を張る。
クリスが案内されたのは、ぼろぼろの家の細長い隙間をいくつも通ったところにある小さな空間だった。
「確かに、ここなら大人たちは来なそうだね」
クリスは体を横にしてギリギリ通れたが、もう少し体格の良い大人なら通れないような細い道以外ここに来る手段はない。
「ちゃんと連れて来たんだから、食い物!」
「食べ物ー!」
「お腹空いたー!」
子どもたちが合唱のように要求する。
「わかった、わかった。落ち着いて」
クリスは子どもたちを宥めた。
そして、大人しくなった子どもたちを見渡す。
「けど、いいかい?これから起こることは、絶対に大人たちにはしゃべらないこと。約束できるかい?」
はーい、と子どもたちは元気よく返事をする。
クリスは微笑んでひとつ頷くと、ポケットから、シオンにもらった果物の種をひとつ取り出し、地面に植えた。
そして手をかざすと、たちまち芽が出て成長し、立派な果実のついた木になる。
子どもたちはポカンと口を開けて見ていたが、すぐに歓声を上げる。
「スゲー!」
「うまそう!」
「でも、手が届かないよ」
子どもの1人の声にクリスははっとした。
確かに、小さな子どもには高い高さである。今までオークやサーニャにしか用意していなかったから、失念していた。
「えっと、棒とかない?」
子どもたちの1人が走って、どこからか古びた熊手を持って来た。
それを使って小さな子どもは器用に果実を取る。
その様子を見てほっとしていると、後ろからパタパタ駆け寄って来る足音がした。
なんだろう、と思って振り向こうとすると同時に、背中に誰かがぶつかった。
そして、腰の辺りで燃えるような痛みを感じる。
「え?」
驚いたクリスがその辺りを触ると、手に真っ赤な自分の血が付いていた。
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