その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

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魔王、求婚される

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 クリスは呆気に取られた。
 とりあえず落ち着こうと、メイの手を離そうとするが、びくともしない。

「えっと、君、メイ、だっけ?
 僕、なんかとんでもない聞き間違いをしたみたいなんだけど……」
「結婚してください、と申しました」

 満面の笑みでメイが答える。

 聞き間違いじゃなかった。
 というか、聞き間違いであって欲しかった。

「あ、あのさ、僕、魔族なんだけど……」
「愛に種族は関係ありませんわ!」

 とっさに思いついたことを言うが、あっさりと、力強く反論されてしまう。
 種族が愛情に関係ないのはクリスも賛成だった。
 だが、残念ながら、その愛は一方通行なのだ。

「ま、待て! そんなことは許さんぞ!」

 さっきまで蒼白だった王が怒鳴った。
 「もっと言ってやって!」とクリスは心の中で応援する。

「お父様は黙っててください!」
「はい……」

 娘からの強い拒絶に、父親はシュンと大人しくなる。
 父親は娘に弱いというが、この親子も例外ではないようだ。

「えっと、君は王族だよね? 婚約者とかいないのかい?」

 ヒオン国では、とある理由で王族には血筋のこだわりはないが、純血を尊ぶ家系もあるし、人間は特に血統にこだわると聞いたことがある。

「いませんわ。王位は兄が就きますし、私は好きな相手を選んでも良いと父と兄に言われました」

 たぶん、その父と兄は魔族を選ぶと思っていなかったのだろう。

「そもそも、僕らさっき会ったばかりだよね?それでなんでいきなり結婚?」

 よくぞ聞いてくれたとばかりにメイは目を輝かせる。

「先ほど、あなたとスザクが戦っている様子をあちらのテラスから拝見させていただきました」

 手を離すつもりはないのか、メイはその方向に顔を向けた。
 クリスも見ると、2階の辺りに確かにテラスらしきものがある。

「そしてあなたの勇姿に、私は心を奪われたのです」

 頬を赤らめながらメイは言う。

「私はもっとも強い者と結婚したいと思っておりました。
 しかし、いくら強くても、むさ苦しい男とは一緒になりたくないとも思っております。ですが、貴方様は私の理想そのもの」

 そして満面の笑みでクリスを見つめる。

「というわけで、結婚しましょう!」
「ちょっと待って!」

 酔ったように語るメイに、クリスは眉間にシワを寄せながら、待ったをかけた。

「そもそも、僕、結婚に了承してないよ!」
「あら?」

 クリスの言葉にメイは小首を傾げる。

「私は王族です。私と結婚することはあなたにとっても悪いことではないと思いますが?」
「正直、そこは関係ない」

 メイが怪訝な顔をする。

「では、他に好きな方でも?」
「いや、特にいないけど……」

 メイは反対側に首を傾げた。

「では、なぜです?」

 クリスは困った顔をする。

「えーと、君、いくつ?」

 クリスはメイを観察する。
 ルディアが17と言っていたので、それより下だと思う。

「15です」

 クリスは息を吐いた。

「未成年はちょっと……」
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