37 / 179
魔王、人間の王に呼ばれる5
しおりを挟む
クリスが取り出した黒い物体は遠隔会話器、略して遠話器という。これはペアになっているものを持っている者同士で離れたところからでも会話できる魔道具である。
クリスは手に持っているものとペアである白い遠話器をサーニャに渡していた。
ちなみにクリスがこれをポケットに入れていたのは本当にたまたまである。
クリスのズボンの大きなポケットは空間拡張の魔法が付いていて、ポケットの入口さえ入ればなんでも、いくらでも入れられる。それをいいことにクリスはなんでもかんでも入れて整理せず放っといていた。
この遠話器も何かに必要だったか、なんかでもらったかしたものを入れっぱなしにして忘れていた。
そしてサーニャたちとの連絡手段が必要になり、もしかしてと思って探ってみたら見つけたというわけである。
閑話休題。
「さっきから、人間の奴らがこっちを攻撃してくるんだけど、どうするのよ!」
「あー、やっぱり……」
「やっぱりって何よ!」
「その可能性あると思って結界張ったから」
もし、クリスが聖剣を持っていることを人間の王が気にくわないなら、攻撃される可能性が高いとクリスは思っていたのだ。
だが、サーニャの不満はそこではなかった。
「それならなんでこっちも攻撃できないようにしているのよ!」
クリスの結界は内外双方の攻撃を阻むもので、サーニャたちに、もし攻撃されても結界が破れてないなら、こちらからは攻撃しないように言ってあったのだ。
クリスがサーニャたちの結界の気配をたどる。
確かに攻撃されているが、結界に全く損傷はない。
「結界は無事みたいだね」
「そうだけど」
「じゃあ、そのまま我慢してて」
「はぁ!?」
さらに文句を言おうとするサーニャを黙殺し、クリスは遠話器のスイッチを切る。
「僕の仲間たちは皆無事だよ。もちろん、人質としては誰1人捕まってないよ」
クリスが王に笑いかけると、王の顔はひきつる。
「待て!」
王とクリスの間に口を挟んだのは王の横に控えていた側近の1人で、甲冑を纏って茶色い口髭を生やした壮年の男だった。
男はクリスを睨む。
「貴様は本当に自分が聖剣にふさわしいと思っているのか!?」
「いや、全然」
にべもないクリスの返事に広間に沈黙が漂う。
男が咳払いした。
「ならば聖剣を手放しても良かろう」
「それが……」
「いやだ!」
男の言葉に異をとなえたのは、クリスではなくシャルルだった。
「俺はこいつを気に入ったんだ! 誰が離れるか!」
そうなのだ。
クリスがいくら自分がふさわしくないと説得しても、シャルルは納得してくれない。
強行手段で置いて行こうとしたらあまりにもうるさくわめくので、結局連れて行くことになるのだった。
「うむ、そうか……」
男が何か考え、王に向き合う。
「私が彼と戦い、彼が聖剣にふさわしくないと証明するのはいかがでしょう?」
男の提案に王は目を見開く。
「スザク、お前……」
「彼は魔法で兵士たちを倒しましたが、1度も剣を抜いていません。剣が使えないのであれば、聖剣は無用の長物と化すでしょう。
つまり、聖剣にはふさわしくないと」
「いや、剣の腕は関係ないから」
シャルルが反論したが、スザクは構わず続ける。
「ならば近衛騎士団団長である私が彼と戦い、彼の剣の腕を確かめましょう。
魔王との戦いに置いて、聖剣は欠かせないものですから……」
「なるほどな……」
王の顔は生気を取り戻していた。
「お主、それでは余に、自身が聖剣にふさわしいことを証明してみよ!」
「「えー」」
クリスとシャルルは同時に不満の声を上げた。
「まさか勇者とあろう者が、逃げるなんてことするわけないな」
スザクの嫌味に「そもそも勇者じゃない」と反論したくなったクリスだが、ふと、「ここで圧倒的に勝てば、こいつら、こっちに手を出さなくなるのではないか」という考えが浮かぶ。
「わかった」
かくして、クリスはこの国の近衛騎士団団長と戦うことになった。
クリスは手に持っているものとペアである白い遠話器をサーニャに渡していた。
ちなみにクリスがこれをポケットに入れていたのは本当にたまたまである。
クリスのズボンの大きなポケットは空間拡張の魔法が付いていて、ポケットの入口さえ入ればなんでも、いくらでも入れられる。それをいいことにクリスはなんでもかんでも入れて整理せず放っといていた。
この遠話器も何かに必要だったか、なんかでもらったかしたものを入れっぱなしにして忘れていた。
そしてサーニャたちとの連絡手段が必要になり、もしかしてと思って探ってみたら見つけたというわけである。
閑話休題。
「さっきから、人間の奴らがこっちを攻撃してくるんだけど、どうするのよ!」
「あー、やっぱり……」
「やっぱりって何よ!」
「その可能性あると思って結界張ったから」
もし、クリスが聖剣を持っていることを人間の王が気にくわないなら、攻撃される可能性が高いとクリスは思っていたのだ。
だが、サーニャの不満はそこではなかった。
「それならなんでこっちも攻撃できないようにしているのよ!」
クリスの結界は内外双方の攻撃を阻むもので、サーニャたちに、もし攻撃されても結界が破れてないなら、こちらからは攻撃しないように言ってあったのだ。
クリスがサーニャたちの結界の気配をたどる。
確かに攻撃されているが、結界に全く損傷はない。
「結界は無事みたいだね」
「そうだけど」
「じゃあ、そのまま我慢してて」
「はぁ!?」
さらに文句を言おうとするサーニャを黙殺し、クリスは遠話器のスイッチを切る。
「僕の仲間たちは皆無事だよ。もちろん、人質としては誰1人捕まってないよ」
クリスが王に笑いかけると、王の顔はひきつる。
「待て!」
王とクリスの間に口を挟んだのは王の横に控えていた側近の1人で、甲冑を纏って茶色い口髭を生やした壮年の男だった。
男はクリスを睨む。
「貴様は本当に自分が聖剣にふさわしいと思っているのか!?」
「いや、全然」
にべもないクリスの返事に広間に沈黙が漂う。
男が咳払いした。
「ならば聖剣を手放しても良かろう」
「それが……」
「いやだ!」
男の言葉に異をとなえたのは、クリスではなくシャルルだった。
「俺はこいつを気に入ったんだ! 誰が離れるか!」
そうなのだ。
クリスがいくら自分がふさわしくないと説得しても、シャルルは納得してくれない。
強行手段で置いて行こうとしたらあまりにもうるさくわめくので、結局連れて行くことになるのだった。
「うむ、そうか……」
男が何か考え、王に向き合う。
「私が彼と戦い、彼が聖剣にふさわしくないと証明するのはいかがでしょう?」
男の提案に王は目を見開く。
「スザク、お前……」
「彼は魔法で兵士たちを倒しましたが、1度も剣を抜いていません。剣が使えないのであれば、聖剣は無用の長物と化すでしょう。
つまり、聖剣にはふさわしくないと」
「いや、剣の腕は関係ないから」
シャルルが反論したが、スザクは構わず続ける。
「ならば近衛騎士団団長である私が彼と戦い、彼の剣の腕を確かめましょう。
魔王との戦いに置いて、聖剣は欠かせないものですから……」
「なるほどな……」
王の顔は生気を取り戻していた。
「お主、それでは余に、自身が聖剣にふさわしいことを証明してみよ!」
「「えー」」
クリスとシャルルは同時に不満の声を上げた。
「まさか勇者とあろう者が、逃げるなんてことするわけないな」
スザクの嫌味に「そもそも勇者じゃない」と反論したくなったクリスだが、ふと、「ここで圧倒的に勝てば、こいつら、こっちに手を出さなくなるのではないか」という考えが浮かぶ。
「わかった」
かくして、クリスはこの国の近衛騎士団団長と戦うことになった。
0
お気に入りに追加
114
あなたにおすすめの小説

帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。
長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍3巻発売中ですのでよろしくお願いします。
女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。
お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。
のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。
ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。
拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。
中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。
旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~

【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。
紺
ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」
実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて……
「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」
信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。
微ざまぁあり。

無能と蔑まれた七男、前世は史上最強の魔法使いだった!?
青空一夏
ファンタジー
ケアニー辺境伯爵家の七男カイルは、生まれつき魔法を使えず、家族から蔑まれて育った。しかし、ある日彼の前世の記憶が蘇る――その正体は、かつて世界を支配した史上最強の大魔法使いアーサー。戸惑いながらも、カイルはアーサーの知識と力を身につけていき、次第に自らの道を切り拓く。
魔法を操れぬはずの少年が最強の魔法を駆使し、自分を信じてくれる商店街の仲間のために立ち上げる。やがてそれは貴族社会すら揺るがす存在へと成長していくのだった。こちらは無自覚モテモテの最強青年になっていく、ケアニー辺境伯爵家の七男カイルの物語。
※こちらは「異世界ファンタジー × ラブコメ」要素を兼ね備えた作品です。メインは「異世界ファンタジー」ですが、恋愛要素やコメディ要素も兼ねた「ラブコメ寄りの異世界ファンタジー」になっています。カイルは複数の女性にもてますが、主人公が最終的には選ぶのは一人の女性です。一夫多妻のようなハーレム系の結末ではありませんので、女性の方にも共感できる内容になっています。異世界ファンタジーで男性主人公なので男性向けとしましたが、男女関係なく楽しめる内容を心がけて書いていきたいです。よろしくお願いします。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる