35 / 179
魔王、人間の王に呼ばれる3
しおりを挟む
真っ白な壁、ひびのない大理石の床と、王宮はクリスの城よりも新しいようだ。
クリスたちは赤い絨毯が敷かれた広間に通される。
一段高いところにある玉座に、側近らしき人間に挟まれて、1人の人間の男が座っていた。あれがこの国の王だろう。
人間の王は髪に白いものが混じった壮年の男で、玉座にふんぞり返って座っていた。
こちら、というよりクリスを見る紫色の目は非常に冷たい。
「クリスさん、跪いて」
ルディアがクリスの服を引っ張りながら、小声で注意する。
見ると他の者は皆、跪いている。
クリスもそれに倣って跪いた。
人間の王がこれ見よがしにため息をつく。
「……礼儀も知らん蛮族めが」
人間の王の声には侮蔑と嫌悪が滲んでいた。
クリスの顔がわずかにひきつる。
ヒオン国では王の前に跪く習慣はない。
立ってようが座ってようが気にしないし、具合が悪いなら寝ていても構わない。敬語を使う者も多いが、タメ口でもクリスは気にしない。
人間の礼儀を知らないのは本当だが、蛮族呼ばわりはさすがに怒りたくなる。
「どうやったか知らぬが、聖剣を騙し、正統な持ち主から掠め取るとはな」
どうやら再会した時の勇者と同じく、魔族であるクリスが聖剣を卑怯な手で奪ったと思っているらしい。
「違う!」
王の疑惑に声を上げたのは、クリスではなくシャルルだった。
「俺がこいつがいいと思って選んだんだ!騙されてなんかいねぇ!」
王は眉をしかめる。
「だが、こやつは魔族だ。聖剣にふさわしいとは思えん」
王の考えはもっともだろう。クリス自身、今だになんで選ばれたかわからない。
「魔族とか人間とか関係ねぇ! むしろ今までのどの人間よりも気に入っている!」
「え?」
シャルルの意外な言葉に、クリスは首を傾げた。
何せ戦いには使わなかったり、肉の解体や通りやすくするために草や蔓を切ったりと、あまりそれらしい使い方はしていなかったからだ。
「……そうか」
険しい顔をした王はおもむろに手を上げる。
すると、広間にあるすべての扉から、甲冑を着た多くの兵士たちが雪崩れ込んできた。
クリスはあっという間にたくさんの兵士に囲まれてしまった。兵士たちの槍の穂先はクリスに向けられている。
兵士たちの後方にはローブを纏った者たちが見える。おそらく人間の魔法使いだろう。
「王様!?」
悲鳴を上げたのはルディアだった。
勇者一行を見ると、囲まれてはいないものの、驚いて信じられないように周りを見渡している。
「聖剣シャルルよ」
王がゆっくりと口を開いた。
「そなたがこやつを選んだのはわかった。
だが、聖剣は人間が持つべきなのだ」
「正確には、この国が選んだ人間にね」
王の目がわずかに見開く。
今までほとんど何も言わなかった魔族が発言したからだ。
クリスはあえてにっこりと笑う。
「どんな形であれ、勇者を出したという栄誉が欲しいんでしょ?
だから聖剣に選ばれた僕が邪魔なんだよね」
半ば推測だったが、王の顔がひきつったところを見ると、あながち間違いでもなさそうだ。
本来なら、自分たちが呼んだ異世界の者が勇者となるはずだったのに、シオンがクリスを呼んだせいで思い通りにいかなかったのだろう。
勇者を出すという栄誉がどれほどのものか魔族であるクリスは知らないが、とりあえずこの王が渇望するくらいには重要なものだと考えられる。
まぁ、クリスが魔族だったので、魔族から聖剣を奪還するという大義名分が成り立つのも大きいかもしれないが。
「悪いけど、君のつまらない栄誉のために死ぬつもりはない。こっちはこっちでやるべきこともやりたいこともあるからね」
サーニャやオークたちの待遇改善、ついでに世界滅亡阻止、そしてもとの世界に帰ってからの魔王の仕事などしなければならないことはたくさんある。
「ぶ、無礼な……!」
王の顔は怒りで真っ赤になり、口はわなわなと震えている。
「魔族のくせに聖剣を奪っただけでなく、余のことを愚弄するとは! 皆のもの、こやつを殺せ!」
クリスたちは赤い絨毯が敷かれた広間に通される。
一段高いところにある玉座に、側近らしき人間に挟まれて、1人の人間の男が座っていた。あれがこの国の王だろう。
人間の王は髪に白いものが混じった壮年の男で、玉座にふんぞり返って座っていた。
こちら、というよりクリスを見る紫色の目は非常に冷たい。
「クリスさん、跪いて」
ルディアがクリスの服を引っ張りながら、小声で注意する。
見ると他の者は皆、跪いている。
クリスもそれに倣って跪いた。
人間の王がこれ見よがしにため息をつく。
「……礼儀も知らん蛮族めが」
人間の王の声には侮蔑と嫌悪が滲んでいた。
クリスの顔がわずかにひきつる。
ヒオン国では王の前に跪く習慣はない。
立ってようが座ってようが気にしないし、具合が悪いなら寝ていても構わない。敬語を使う者も多いが、タメ口でもクリスは気にしない。
人間の礼儀を知らないのは本当だが、蛮族呼ばわりはさすがに怒りたくなる。
「どうやったか知らぬが、聖剣を騙し、正統な持ち主から掠め取るとはな」
どうやら再会した時の勇者と同じく、魔族であるクリスが聖剣を卑怯な手で奪ったと思っているらしい。
「違う!」
王の疑惑に声を上げたのは、クリスではなくシャルルだった。
「俺がこいつがいいと思って選んだんだ!騙されてなんかいねぇ!」
王は眉をしかめる。
「だが、こやつは魔族だ。聖剣にふさわしいとは思えん」
王の考えはもっともだろう。クリス自身、今だになんで選ばれたかわからない。
「魔族とか人間とか関係ねぇ! むしろ今までのどの人間よりも気に入っている!」
「え?」
シャルルの意外な言葉に、クリスは首を傾げた。
何せ戦いには使わなかったり、肉の解体や通りやすくするために草や蔓を切ったりと、あまりそれらしい使い方はしていなかったからだ。
「……そうか」
険しい顔をした王はおもむろに手を上げる。
すると、広間にあるすべての扉から、甲冑を着た多くの兵士たちが雪崩れ込んできた。
クリスはあっという間にたくさんの兵士に囲まれてしまった。兵士たちの槍の穂先はクリスに向けられている。
兵士たちの後方にはローブを纏った者たちが見える。おそらく人間の魔法使いだろう。
「王様!?」
悲鳴を上げたのはルディアだった。
勇者一行を見ると、囲まれてはいないものの、驚いて信じられないように周りを見渡している。
「聖剣シャルルよ」
王がゆっくりと口を開いた。
「そなたがこやつを選んだのはわかった。
だが、聖剣は人間が持つべきなのだ」
「正確には、この国が選んだ人間にね」
王の目がわずかに見開く。
今までほとんど何も言わなかった魔族が発言したからだ。
クリスはあえてにっこりと笑う。
「どんな形であれ、勇者を出したという栄誉が欲しいんでしょ?
だから聖剣に選ばれた僕が邪魔なんだよね」
半ば推測だったが、王の顔がひきつったところを見ると、あながち間違いでもなさそうだ。
本来なら、自分たちが呼んだ異世界の者が勇者となるはずだったのに、シオンがクリスを呼んだせいで思い通りにいかなかったのだろう。
勇者を出すという栄誉がどれほどのものか魔族であるクリスは知らないが、とりあえずこの王が渇望するくらいには重要なものだと考えられる。
まぁ、クリスが魔族だったので、魔族から聖剣を奪還するという大義名分が成り立つのも大きいかもしれないが。
「悪いけど、君のつまらない栄誉のために死ぬつもりはない。こっちはこっちでやるべきこともやりたいこともあるからね」
サーニャやオークたちの待遇改善、ついでに世界滅亡阻止、そしてもとの世界に帰ってからの魔王の仕事などしなければならないことはたくさんある。
「ぶ、無礼な……!」
王の顔は怒りで真っ赤になり、口はわなわなと震えている。
「魔族のくせに聖剣を奪っただけでなく、余のことを愚弄するとは! 皆のもの、こやつを殺せ!」
0
お気に入りに追加
114
あなたにおすすめの小説

帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる