その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

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魔王、人間の王に呼ばれる3

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 真っ白な壁、ひびのない大理石の床と、王宮はクリスの城よりも新しいようだ。
 クリスたちは赤い絨毯が敷かれた広間に通される。
 一段高いところにある玉座に、側近らしき人間に挟まれて、1人の人間の男が座っていた。あれがこの国の王だろう。
 人間の王は髪に白いものが混じった壮年の男で、玉座にふんぞり返って座っていた。
 こちら、というよりクリスを見る紫色の目は非常に冷たい。

「クリスさん、跪いて」

 ルディアがクリスの服を引っ張りながら、小声で注意する。
 見ると他の者は皆、跪いている。
 クリスもそれに倣って跪いた。
 人間の王がこれ見よがしにため息をつく。

「……礼儀も知らん蛮族めが」

 人間の王の声には侮蔑と嫌悪が滲んでいた。
 クリスの顔がわずかにひきつる。
 ヒオン国では王の前に跪く習慣はない。
 立ってようが座ってようが気にしないし、具合が悪いなら寝ていても構わない。敬語を使う者も多いが、タメ口でもクリスは気にしない。
 人間の礼儀を知らないのは本当だが、蛮族呼ばわりはさすがに怒りたくなる。

「どうやったか知らぬが、聖剣を騙し、正統な持ち主から掠め取るとはな」

 どうやら再会した時の勇者と同じく、魔族であるクリスが聖剣を卑怯な手で奪ったと思っているらしい。

「違う!」

 王の疑惑に声を上げたのは、クリスではなくシャルルだった。

「俺がこいつがいいと思って選んだんだ!騙されてなんかいねぇ!」

 王は眉をしかめる。

「だが、こやつは魔族だ。聖剣にふさわしいとは思えん」

 王の考えはもっともだろう。クリス自身、今だになんで選ばれたかわからない。

「魔族とか人間とか関係ねぇ! むしろ今までのどの人間よりも気に入っている!」
「え?」

 シャルルの意外な言葉に、クリスは首を傾げた。
 何せ戦いには使わなかったり、肉の解体や通りやすくするために草や蔓を切ったりと、あまりそれらしい使い方はしていなかったからだ。

「……そうか」

 険しい顔をした王はおもむろに手を上げる。
 すると、広間にあるすべての扉から、甲冑を着た多くの兵士たちが雪崩れ込んできた。
 クリスはあっという間にたくさんの兵士に囲まれてしまった。兵士たちの槍の穂先はクリスに向けられている。
 兵士たちの後方にはローブを纏った者たちが見える。おそらく人間の魔法使いだろう。

「王様!?」

 悲鳴を上げたのはルディアだった。
 勇者一行を見ると、囲まれてはいないものの、驚いて信じられないように周りを見渡している。

「聖剣シャルルよ」

 王がゆっくりと口を開いた。

「そなたがこやつを選んだのはわかった。
 だが、聖剣は人間が持つべきなのだ」

「正確には、この国が選んだ人間にね」

 王の目がわずかに見開く。
 今までほとんど何も言わなかった魔族が発言したからだ。
 クリスはあえてにっこりと笑う。

「どんな形であれ、勇者を出したという栄誉が欲しいんでしょ?
 だから聖剣に選ばれた僕が邪魔なんだよね」

 半ば推測だったが、王の顔がひきつったところを見ると、あながち間違いでもなさそうだ。
 本来なら、自分たちが呼んだ異世界の者が勇者となるはずだったのに、シオンがクリスを呼んだせいで思い通りにいかなかったのだろう。
 勇者を出すという栄誉がどれほどのものか魔族であるクリスは知らないが、とりあえずこの王が渇望するくらいには重要なものだと考えられる。
 まぁ、クリスが魔族だったので、魔族から聖剣を奪還するという大義名分が成り立つのも大きいかもしれないが。

「悪いけど、君のつまらない栄誉のために死ぬつもりはない。こっちはこっちでやるべきこともやりたいこともあるからね」

 サーニャやオークたちの待遇改善、ついでに世界滅亡阻止、そしてもとの世界に帰ってからの魔王の仕事などしなければならないことはたくさんある。

「ぶ、無礼な……!」

 王の顔は怒りで真っ赤になり、口はわなわなと震えている。

「魔族のくせに聖剣を奪っただけでなく、余のことを愚弄するとは! 皆のもの、こやつを殺せ!」
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