その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

文字の大きさ
上 下
34 / 179

魔王、人間の王に呼ばれる2

しおりを挟む
 王宮に向かう際、オークたちをどうするかひと悶着あった。
 オークたちはついて行きたがった。

「魔族のお前さんが人間の城なんかに行ったら、何されるかわからん」

 オークたちの代表であるドンファはそう言って心配していた。

 ドンファの気持ちは嬉しかったし、クリスもそうしたかったが、人間の街にオークたちを連れて行くと大きな騒ぎになりかねない。
 しかし、ここにオークたちを置いて行くと、人間に襲われるかもしれない。

 いろいろ検討した結果、クリスが作った結界の中で待ってもらうことにする。

 クリスが作った結界は、オークたちは出れないし、クリス以外は入れないうえに、攻撃が通らないようにした。もちろん、クリスの意識が失っても消えないように魔石を使う。
 さらに中にオークがいることがバレないように周りの景色と同調させた。

「これなら君たちも安心でしょ」

 クリスは結界について説明すると、カイトにそう言った。

「ええ、そうですね」

 カイトは頷いたが、一瞬だけ眉を寄せる。

 クリスは気付いたがそれについては指摘せず、オークたちと必要なものについて話し合った。

 お金はシオンがくれたものがあるので、王宮に行くついでに買い物をすることにしたからだ。
 ちなみにクリスは自分の国のお金を持っているが、この世界のお金と違ったため、使えそうにない。

 だいたい必要なものを確認し終えたあと、いつ帰れるかわからないので、植物魔法を使って多めに果物を用意し、近場で狩りをして肉を置いて行く。

 サーニャはオークたちと残すことにした。

 角を隠す気もなく、人間を完全に敵視しているサーニャを連れて行くとトラブルを起こしそうだからだ。魔力が強いだけに、ある意味オークたちより危険かもしれない。

 なんとか説得して、お土産を買って来ることで了承してもらった。

 こうしてもろもろの準備を終えたあと、ようやくクリスは騎士団と共に王宮に向かった。
 騎士団に連行されるような形で、クリスは街に入る。なぜか勇者一行もいっしょに。

「なんで君たちも来ているんだい?」
「私たちを呼んだのはここの王様なんです。
 もともと聖剣を抜いたら、報告に向かう予定でした」

 クリスの疑問にルディアが答える。
 つまり聖剣を取りに行ったはずの勇者たちが帰って来ず、不審に思ったここの国の王が、部下に村を訪ねさせてことの経緯を知ったということだろう。

 クリスは街を眺めた。
 石畳の道に、木やレンガでできた建物と、ざっと見たところ、この街とヒオン国の文化に大きな差はないように見える。
 道行く人々の服装もヒオン国とそんなに変わらない。種族が限られているせいか種類は少なそうだが。

 ヒオン国だと、公共の場では胸部と性器を隠していればどんな服装でも自由なので、たまにギリギリまで布地を少なくした者がいるがこの国にはいなそうだ。体質的に服が着れないスライムなどもいないだろう。
 ちなみに胸部を隠すことは始めは女だけだったらしいが、それでは不公平だという意見があり、男にも適用された。

 閑話休題。

 道端に蹲っている子供がいた。

「ちょっと待ってて」

 騎士たちが睨んだり止めたりするがクリスは無視して、子供に近づく。

「君、迷子かい?」

 子供は暗い目でクリスを見て、首を振る。
 服や体は汚れ、頬は痩け、手足は骨の形がわかるほど細い。

 クリスは顔をしかめた。街の様子から飢饉が起きている様子はない。なのに、なぜこの子供はこんなに飢えているのだろう。

「勇者殿、行きましょう」

 カイトが近づき小声で言うが、クリスは無視する。
 クリスは周りを見渡すと、果物を売っている屋台があったので近づく。
 シオンにもらったお金で果物を1つ買い、子供の前に置いた。
 騎士団の方に戻ると、ほとんどの者が怪訝そうな顔をしている。

「なぜ、浮浪児に施しをされたのですか?」
「浮浪児?」
「……家も身寄りもない子供のことです」

 カイトの言葉にクリスは驚いた。

「……孤児院は?」
「残念ながら、対応が追い付いていません」

 クリスの顔が険しくなる。
 ヒオン国では、子供が少ない魔族やエルフが国政に関わるせいか、そういった問題は起きていなかった。
 ここはクリスの国ではないので首を突っ込むのは差し出がましいが、一言打診するくらいならできるだろう。

 そんなことを考えているうちに、王宮に到着した。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

無能と蔑まれた七男、前世は史上最強の魔法使いだった!?

青空一夏
ファンタジー
ケアニー辺境伯爵家の七男カイルは、生まれつき魔法を使えず、家族から蔑まれて育った。しかし、ある日彼の前世の記憶が蘇る――その正体は、かつて世界を支配した史上最強の大魔法使いアーサー。戸惑いながらも、カイルはアーサーの知識と力を身につけていき、次第に自らの道を切り拓く。 魔法を操れぬはずの少年が最強の魔法を駆使し、自分を信じてくれる商店街の仲間のために立ち上げる。やがてそれは貴族社会すら揺るがす存在へと成長していくのだった。こちらは無自覚モテモテの最強青年になっていく、ケアニー辺境伯爵家の七男カイルの物語。 ※こちらは「異世界ファンタジー × ラブコメ」要素を兼ね備えた作品です。メインは「異世界ファンタジー」ですが、恋愛要素やコメディ要素も兼ねた「ラブコメ寄りの異世界ファンタジー」になっています。カイルは複数の女性にもてますが、主人公が最終的には選ぶのは一人の女性です。一夫多妻のようなハーレム系の結末ではありませんので、女性の方にも共感できる内容になっています。異世界ファンタジーで男性主人公なので男性向けとしましたが、男女関係なく楽しめる内容を心がけて書いていきたいです。よろしくお願いします。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

退屈令嬢のフィクサーな日々

ユウキ
恋愛
完璧と評される公爵令嬢のエレノアは、順風満帆な学園生活を送っていたのだが、自身の婚約者がどこぞの女生徒に夢中で有るなどと、宜しくない噂話を耳にする。 直接関わりがなければと放置していたのだが、ある日件の女生徒と遭遇することになる。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...