その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

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魔王、歴史を語る2

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 クリスは語り終えると、大きく息を吐く。
 驚きの事実に、一瞬、勇者一同はしんっと静まった。

「……おかしいだろ、それ」

 勇者はボソッと呟いた。
 そしてクリスを睨む。

「さっきからでたらめばっかいうな!」
「でたらめ?」

 クリスは鼻で笑う。

「でたらめじゃないよ。ただの事実だ」
「じゃあ、今までの魔王からの被害はなんだよ!」
「日照りや魔物の被害のことかい?なんでそれを王のせいにするんだい?」
「そう国王様が言っていた!」

 クリスはこれ見よがしにため息をつく。

「本当に王のせいだって調べたのかい?言っとくけど、それは全部、王のせいじゃない」
「じゃあ、誰のせいなんだよ!」
「誰のせいでもないよ。だから、王のせいにされるんだろうね」

 誰のせいでもなく、どうしようもないからこそ、その責任をクリスたち王は押し付けられているのだと思う。

 基本、話し合いをするようにしているクリスだが、人間たちの王とは関わりたくないのでしていない。そういう意味ではこちらにも非があるのだが、それでも理不尽に感じてしまう。

「それはともかく、ではなぜ、2代前の勇者は失踪したのでしょう?」

 ルディアはクリスに聞いた。
 そういえばそういう話だったと、クリスは思い出す。

「正直、わからないけど、魔獣や盗賊にやられたということはないと思う。前の勇者はともかく、前の前の勇者は強かったから」
「そうなんですか?」
「僕が知っている勇者のなかでは一番強かったよ」
「え、あんたいくつよ」

 矢筒を背負った女の疑問に「423」と簡潔に答える。
 驚く勇者たちを無視して、クリスは考えた。

 百年ほど前に来た、前の前の勇者が印象に残っていたのは、彼が強かっただけではない。
 もっともしつこく10回以上も城まで来た上に、1度も窃盗や一般国民への傷害を行わなかったからだ。 

 ルディアが首を傾げる。

「前の勇者はともかくって、前の勇者はどんな方だったのですか?」
「ああ、あいつね……」

 クリスの声には棘が含まれていた。

「家に入って盗みを働いたり、避難していた者たちを襲ったり、挙句の果てには放火までしたから、徹底的に王が叩いたよ。
 強さは前の前の勇者と比べると、かなり弱かったね」

 それはもう遠慮なく、叩きのめすことができた。
 そのおかげか、彼は1度で来なくなった。

「叩いたってことは、魔王と戦ったってことですよね」
「そうだよ。その方が再び来なくなるからね」
「……私たち、戦ってもらえませんでしたが」
「……」

 ルディアの疑問にクリスは目を泳がせる。

「えっと、ちょうどその時、予算とか決める時だったから忙しくてさっさと終わらせたかったんだろうね」
「……つまり、手を抜かれたということですか」

 ルディアの表情が険しくなる。

「……ごめんなさい」

 クリスは耐えきれずに謝る。

「クリスさんが謝る必要ないですよ。悪いのはあの魔王なんですから」

(ごめん、その魔王、僕なんだ)

 心のなかで、クリスは頭を下げた。

「それじゃあ、元の世界に戻ったら、あの魔王、やっつけよう!」
「「おー!」」

 勇者の号令で士気が高まる一行をクリスは冷や汗をかきながら眺める。
 ジョセフがクリスの肩をポンッと慰めるように叩いた。
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