その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

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魔王、再会する

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 村を出てから3日後。

 クリスたちはまっすぐ、ではなく、やや遠回りしながら魔王の元に向かっていた。

「なんでこんな遠回りするのよ」
「その近道で、君たちが略奪をしていたからでしょ」

 サーニャがぶつぶつ言うのを聞いて、クリスはそう返した。

 サーニャとオークたちは食糧を得るために、付近の村を襲っていた。
 本来なら、ひとつひとつ謝りに向かうところだが、謝る前に人間たちに襲われたり、むしろパニックを起こす可能性が高い。
 クリスとしても早く魔王と対面して終わらせたいため、弁明や無駄な争いに時間をかけるより、避けて通った方が早いと思い、遠回りなルートとなった。
 それに、魔族とオークたちという構成のため、人間の集落に寄ることは出来ず、徒歩で森の中の道を通らざるを得なかった。

 サーニャはまだぶつぶつ呟く。

「うう……やだ……疲れた」
「え、もう?」

 サーニャはあまり鍛えてないのか、体力がない。
 だが、回復魔法では疲労はほとんど癒せないため、休み休み行くしかなかった。

「私は唯一の女子なのよ!もう少し配慮してもいいんじゃない!?」
「……ミドとラドとシラは女だけど」
「誰よ、それ?」
「……オークだよ」
「女子いたの!?」

 サーニャは驚いて、後ろのオークたちを見た。
 オーク女子3人は「失礼な」と憮然とし、男たちは笑いをこらえる。
 クリスも聞いた時は驚いた。
 こちらのオークは男女差があまりないようだ。

「まぁ、でもそろそろお昼だし、一休みしようか」

 そう言うと、クリスは立ち止まり、後ろのオークたちに合図する。

「ちょっとここで待ってて」
「どこ行くのよ」

 森の中に入ろうとするクリスにサーニャが聞いた。

「何か動物とか狩って来るよ。そろそろ果物も飽きてきたし」

 いくらおいしくても、ここ3日ほど果物ばかりだったので、さすがに肉とか食べたい。
 サーニャたちはなぜか目を丸くするが、特に文句は言わなかった。
 しばらく探すと、そこそこ大きな魔獣を見つける。
 毛むくじゃらの狼のような魔獣で、クリスよりも大きく、鋭い牙と爪を持っていた。

「やぁ、こんにちは」

 一応、意志疎通できる相手を食べるのは気が引けるため、クリスは声を掛ける。
 すると、魔獣はクリスを獲物と認識したのか、襲いかかってきた。
 意志疎通不可だと判断したクリスは、魔獣にオークたちに放ったより強い雷魔法をぶつける。
 バチッという大きな音とともに、魔獣は体から煙を放ちながら倒れた。
 すでに死んでいることを確認すると、重力操作魔法を使い、木々にぶつからないよう気を付けながら、元の場所まで運ぶ。

 オークたちは大人しく待っていた。
 魔獣を見て歓声を上げるオークたちに笑いかけると、クリスはシャルルを抜こうとする。

「おい、待て。俺でこいつを解体する気か?」
「ダメなのかい?」
「いや、ダメじゃねぇけど……」

 口ごもるシャルルを無視して、クリスは魔獣の皮を剥いだ。
 ピンク色の肉の部分のみにすると、クリスはサーニャの方を見る。

「サーニャ、悪いけど、これ、焼いてくれない?」
「え、私がやるの!?」

 突然指名されたサーニャは驚きの声を上げた。

「あんたがしなさいよ!」
「僕が焼くと、全部灰になるんだよね」

 クリスは火の魔法が苦手だった。
 どんなに火を小さくしても、何故か全て燃やし尽くしてしまうのだ。

「……わかったわよ!」

 せっかくの肉を灰にしては堪らないので、しぶしぶサーニャは魔法で肉を焼き始める。

「うおおぉ!」

 しばらく焼いていると、どこかで聞いた声の雄叫びが迫ってくる。

 そしてオークたちに向かって剣を振り上げる人影が飛び出してきた。

「危ない!」

 クリスはとっさに魔法で結界を作り、剣を防ごうとした。

 だが、剣はクリスの結界をやすやすと切り裂く。

「……!」

 クリスは驚いたが、思考するよりも早く聖剣を抜き、オークと襲撃者の間に割って入る。

 ガキンッと刃と刃がぶつかる音が響く。

 間一髪で、クリスはオークたちを凶刃から守ることができた。

 腕に力を込め、相手を押し飛ばし、クリスは改めて、襲撃者を見る。

「げっ」

 クリスの口からそんなうめき声がでた。

 襲撃者は、栗色の髪に目付きの悪い青い瞳をしていた。

「勇者……!」

 そう、それは紛れもなく、クリスがこの間城で追い返した勇者だった。
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