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魔王、再会する
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村を出てから3日後。
クリスたちはまっすぐ、ではなく、やや遠回りしながら魔王の元に向かっていた。
「なんでこんな遠回りするのよ」
「その近道で、君たちが略奪をしていたからでしょ」
サーニャがぶつぶつ言うのを聞いて、クリスはそう返した。
サーニャとオークたちは食糧を得るために、付近の村を襲っていた。
本来なら、ひとつひとつ謝りに向かうところだが、謝る前に人間たちに襲われたり、むしろパニックを起こす可能性が高い。
クリスとしても早く魔王と対面して終わらせたいため、弁明や無駄な争いに時間をかけるより、避けて通った方が早いと思い、遠回りなルートとなった。
それに、魔族とオークたちという構成のため、人間の集落に寄ることは出来ず、徒歩で森の中の道を通らざるを得なかった。
サーニャはまだぶつぶつ呟く。
「うう……やだ……疲れた」
「え、もう?」
サーニャはあまり鍛えてないのか、体力がない。
だが、回復魔法では疲労はほとんど癒せないため、休み休み行くしかなかった。
「私は唯一の女子なのよ!もう少し配慮してもいいんじゃない!?」
「……ミドとラドとシラは女だけど」
「誰よ、それ?」
「……オークだよ」
「女子いたの!?」
サーニャは驚いて、後ろのオークたちを見た。
オーク女子3人は「失礼な」と憮然とし、男たちは笑いをこらえる。
クリスも聞いた時は驚いた。
こちらのオークは男女差があまりないようだ。
「まぁ、でもそろそろお昼だし、一休みしようか」
そう言うと、クリスは立ち止まり、後ろのオークたちに合図する。
「ちょっとここで待ってて」
「どこ行くのよ」
森の中に入ろうとするクリスにサーニャが聞いた。
「何か動物とか狩って来るよ。そろそろ果物も飽きてきたし」
いくらおいしくても、ここ3日ほど果物ばかりだったので、さすがに肉とか食べたい。
サーニャたちはなぜか目を丸くするが、特に文句は言わなかった。
しばらく探すと、そこそこ大きな魔獣を見つける。
毛むくじゃらの狼のような魔獣で、クリスよりも大きく、鋭い牙と爪を持っていた。
「やぁ、こんにちは」
一応、意志疎通できる相手を食べるのは気が引けるため、クリスは声を掛ける。
すると、魔獣はクリスを獲物と認識したのか、襲いかかってきた。
意志疎通不可だと判断したクリスは、魔獣にオークたちに放ったより強い雷魔法をぶつける。
バチッという大きな音とともに、魔獣は体から煙を放ちながら倒れた。
すでに死んでいることを確認すると、重力操作魔法を使い、木々にぶつからないよう気を付けながら、元の場所まで運ぶ。
オークたちは大人しく待っていた。
魔獣を見て歓声を上げるオークたちに笑いかけると、クリスはシャルルを抜こうとする。
「おい、待て。俺でこいつを解体する気か?」
「ダメなのかい?」
「いや、ダメじゃねぇけど……」
口ごもるシャルルを無視して、クリスは魔獣の皮を剥いだ。
ピンク色の肉の部分のみにすると、クリスはサーニャの方を見る。
「サーニャ、悪いけど、これ、焼いてくれない?」
「え、私がやるの!?」
突然指名されたサーニャは驚きの声を上げた。
「あんたがしなさいよ!」
「僕が焼くと、全部灰になるんだよね」
クリスは火の魔法が苦手だった。
どんなに火を小さくしても、何故か全て燃やし尽くしてしまうのだ。
「……わかったわよ!」
せっかくの肉を灰にしては堪らないので、しぶしぶサーニャは魔法で肉を焼き始める。
「うおおぉ!」
しばらく焼いていると、どこかで聞いた声の雄叫びが迫ってくる。
そしてオークたちに向かって剣を振り上げる人影が飛び出してきた。
「危ない!」
クリスはとっさに魔法で結界を作り、剣を防ごうとした。
だが、剣はクリスの結界をやすやすと切り裂く。
「……!」
クリスは驚いたが、思考するよりも早く聖剣を抜き、オークと襲撃者の間に割って入る。
ガキンッと刃と刃がぶつかる音が響く。
間一髪で、クリスはオークたちを凶刃から守ることができた。
腕に力を込め、相手を押し飛ばし、クリスは改めて、襲撃者を見る。
「げっ」
クリスの口からそんなうめき声がでた。
襲撃者は、栗色の髪に目付きの悪い青い瞳をしていた。
「勇者……!」
そう、それは紛れもなく、クリスがこの間城で追い返した勇者だった。
クリスたちはまっすぐ、ではなく、やや遠回りしながら魔王の元に向かっていた。
「なんでこんな遠回りするのよ」
「その近道で、君たちが略奪をしていたからでしょ」
サーニャがぶつぶつ言うのを聞いて、クリスはそう返した。
サーニャとオークたちは食糧を得るために、付近の村を襲っていた。
本来なら、ひとつひとつ謝りに向かうところだが、謝る前に人間たちに襲われたり、むしろパニックを起こす可能性が高い。
クリスとしても早く魔王と対面して終わらせたいため、弁明や無駄な争いに時間をかけるより、避けて通った方が早いと思い、遠回りなルートとなった。
それに、魔族とオークたちという構成のため、人間の集落に寄ることは出来ず、徒歩で森の中の道を通らざるを得なかった。
サーニャはまだぶつぶつ呟く。
「うう……やだ……疲れた」
「え、もう?」
サーニャはあまり鍛えてないのか、体力がない。
だが、回復魔法では疲労はほとんど癒せないため、休み休み行くしかなかった。
「私は唯一の女子なのよ!もう少し配慮してもいいんじゃない!?」
「……ミドとラドとシラは女だけど」
「誰よ、それ?」
「……オークだよ」
「女子いたの!?」
サーニャは驚いて、後ろのオークたちを見た。
オーク女子3人は「失礼な」と憮然とし、男たちは笑いをこらえる。
クリスも聞いた時は驚いた。
こちらのオークは男女差があまりないようだ。
「まぁ、でもそろそろお昼だし、一休みしようか」
そう言うと、クリスは立ち止まり、後ろのオークたちに合図する。
「ちょっとここで待ってて」
「どこ行くのよ」
森の中に入ろうとするクリスにサーニャが聞いた。
「何か動物とか狩って来るよ。そろそろ果物も飽きてきたし」
いくらおいしくても、ここ3日ほど果物ばかりだったので、さすがに肉とか食べたい。
サーニャたちはなぜか目を丸くするが、特に文句は言わなかった。
しばらく探すと、そこそこ大きな魔獣を見つける。
毛むくじゃらの狼のような魔獣で、クリスよりも大きく、鋭い牙と爪を持っていた。
「やぁ、こんにちは」
一応、意志疎通できる相手を食べるのは気が引けるため、クリスは声を掛ける。
すると、魔獣はクリスを獲物と認識したのか、襲いかかってきた。
意志疎通不可だと判断したクリスは、魔獣にオークたちに放ったより強い雷魔法をぶつける。
バチッという大きな音とともに、魔獣は体から煙を放ちながら倒れた。
すでに死んでいることを確認すると、重力操作魔法を使い、木々にぶつからないよう気を付けながら、元の場所まで運ぶ。
オークたちは大人しく待っていた。
魔獣を見て歓声を上げるオークたちに笑いかけると、クリスはシャルルを抜こうとする。
「おい、待て。俺でこいつを解体する気か?」
「ダメなのかい?」
「いや、ダメじゃねぇけど……」
口ごもるシャルルを無視して、クリスは魔獣の皮を剥いだ。
ピンク色の肉の部分のみにすると、クリスはサーニャの方を見る。
「サーニャ、悪いけど、これ、焼いてくれない?」
「え、私がやるの!?」
突然指名されたサーニャは驚きの声を上げた。
「あんたがしなさいよ!」
「僕が焼くと、全部灰になるんだよね」
クリスは火の魔法が苦手だった。
どんなに火を小さくしても、何故か全て燃やし尽くしてしまうのだ。
「……わかったわよ!」
せっかくの肉を灰にしては堪らないので、しぶしぶサーニャは魔法で肉を焼き始める。
「うおおぉ!」
しばらく焼いていると、どこかで聞いた声の雄叫びが迫ってくる。
そしてオークたちに向かって剣を振り上げる人影が飛び出してきた。
「危ない!」
クリスはとっさに魔法で結界を作り、剣を防ごうとした。
だが、剣はクリスの結界をやすやすと切り裂く。
「……!」
クリスは驚いたが、思考するよりも早く聖剣を抜き、オークと襲撃者の間に割って入る。
ガキンッと刃と刃がぶつかる音が響く。
間一髪で、クリスはオークたちを凶刃から守ることができた。
腕に力を込め、相手を押し飛ばし、クリスは改めて、襲撃者を見る。
「げっ」
クリスの口からそんなうめき声がでた。
襲撃者は、栗色の髪に目付きの悪い青い瞳をしていた。
「勇者……!」
そう、それは紛れもなく、クリスがこの間城で追い返した勇者だった。
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