17 / 179
魔王、出発する2
しおりを挟む
意外な事実だった。
「今の魔王になってからしばらく経つが、誰も敵わず、立ち向かった勇気ある者は、皆、亡くなってしまった。それに二つもの国が魔王によって滅ぼされておる」
今度はクリスの方が絶句する。
事態は思ったよりも深刻なようだ。
「だから、わしは誰よりも強く、もっとも聖剣にふさわしい者、お主を召喚した。まぁ、魔族が来たのは意外じゃったがのう」
それどころか、実は魔王なのだが、さすがにそれは言わなかった。
シオンはガバッとクリスに頭を下げる。
「お主に頼みを聞く義理はないとわかっておる。じゃが、魔王を倒してこの世界を救ってほしい」
クリスはため息をつく。
「魔王を倒すかはまだ、決めるつもりはない」
顔を上げたシオンは落胆したようだ。
それに構わず、クリスは続ける。
「別に倒さなくたって世界は救えるかもしれないし、話し合いで解決できるかもしれない。
倒すのはあくまでそれらが全部ダメだった時の最終手段だと思う」
シオンの目に光が宿った。
「それでもいいなら、この世界を救う助けをするけど、どうだい?」
クリスの肩で再びジョセフがペシペシ叩いていたが、黙殺した。
もし、これがヒオン国だったら、クリスは見捨てないし、それで助けられるなら、異世界の者だろうが誰だろうが頭を下げて頼むだろう。
「充分じゃ。ありがとう」
シオンは涙を流した。
その日の昼頃、クリスたちは魔王の元に行くために村を出発した。
その際、シオンはクリスに少なくないお金を渡す。
クリスが固辞すると、村を救い、怪我人を治したお礼だと言って、笑って押し付けた。
村人たちは近づくことはなかったが、逃げ出さずに遠くから見送った。
こうして、魔族2人とネズミに変身している者1匹、オーク12体という、この世界でもっとも奇妙な勇者一行の旅は始まったのだ。
「今の魔王になってからしばらく経つが、誰も敵わず、立ち向かった勇気ある者は、皆、亡くなってしまった。それに二つもの国が魔王によって滅ぼされておる」
今度はクリスの方が絶句する。
事態は思ったよりも深刻なようだ。
「だから、わしは誰よりも強く、もっとも聖剣にふさわしい者、お主を召喚した。まぁ、魔族が来たのは意外じゃったがのう」
それどころか、実は魔王なのだが、さすがにそれは言わなかった。
シオンはガバッとクリスに頭を下げる。
「お主に頼みを聞く義理はないとわかっておる。じゃが、魔王を倒してこの世界を救ってほしい」
クリスはため息をつく。
「魔王を倒すかはまだ、決めるつもりはない」
顔を上げたシオンは落胆したようだ。
それに構わず、クリスは続ける。
「別に倒さなくたって世界は救えるかもしれないし、話し合いで解決できるかもしれない。
倒すのはあくまでそれらが全部ダメだった時の最終手段だと思う」
シオンの目に光が宿った。
「それでもいいなら、この世界を救う助けをするけど、どうだい?」
クリスの肩で再びジョセフがペシペシ叩いていたが、黙殺した。
もし、これがヒオン国だったら、クリスは見捨てないし、それで助けられるなら、異世界の者だろうが誰だろうが頭を下げて頼むだろう。
「充分じゃ。ありがとう」
シオンは涙を流した。
その日の昼頃、クリスたちは魔王の元に行くために村を出発した。
その際、シオンはクリスに少なくないお金を渡す。
クリスが固辞すると、村を救い、怪我人を治したお礼だと言って、笑って押し付けた。
村人たちは近づくことはなかったが、逃げ出さずに遠くから見送った。
こうして、魔族2人とネズミに変身している者1匹、オーク12体という、この世界でもっとも奇妙な勇者一行の旅は始まったのだ。
0
お気に入りに追加
114
あなたにおすすめの小説

帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~
暇人太一
ファンタジー
仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。
ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。
結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。
そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜
むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。
幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。
そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。
故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。
自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。
だが、エアルは知らない。
ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。
遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。
これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる