その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

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魔王、出発する2

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 意外な事実だった。

「今の魔王になってからしばらく経つが、誰も敵わず、立ち向かった勇気ある者は、皆、亡くなってしまった。それに二つもの国が魔王によって滅ぼされておる」

 今度はクリスの方が絶句する。
 事態は思ったよりも深刻なようだ。

「だから、わしは誰よりも強く、もっとも聖剣にふさわしい者、お主を召喚した。まぁ、魔族が来たのは意外じゃったがのう」

 それどころか、実は魔王なのだが、さすがにそれは言わなかった。
 シオンはガバッとクリスに頭を下げる。

「お主に頼みを聞く義理はないとわかっておる。じゃが、魔王を倒してこの世界を救ってほしい」

 クリスはため息をつく。

「魔王を倒すかはまだ、決めるつもりはない」

 顔を上げたシオンは落胆したようだ。
 それに構わず、クリスは続ける。

「別に倒さなくたって世界は救えるかもしれないし、話し合いで解決できるかもしれない。
 倒すのはあくまでそれらが全部ダメだった時の最終手段だと思う」

 シオンの目に光が宿った。

「それでもいいなら、この世界を救う助けをするけど、どうだい?」

 クリスの肩で再びジョセフがペシペシ叩いていたが、黙殺した。
 もし、これがヒオン国だったら、クリスは見捨てないし、それで助けられるなら、異世界の者だろうが誰だろうが頭を下げて頼むだろう。

「充分じゃ。ありがとう」

 シオンは涙を流した。



 その日の昼頃、クリスたちは魔王の元に行くために村を出発した。
 その際、シオンはクリスに少なくないお金を渡す。
 クリスが固辞すると、村を救い、怪我人を治したお礼だと言って、笑って押し付けた。
 村人たちは近づくことはなかったが、逃げ出さずに遠くから見送った。

 こうして、魔族2人とネズミに変身している者1匹、オーク12体という、この世界でもっとも奇妙な勇者一行の旅は始まったのだ。
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