その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

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魔王、出発する

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 クリスは朝日が昇るとともに目が覚めた。サーニャやオークたちはまだ眠っている。彼らを起こさないように、静かにクリスは身なりを整えた。
 いつもはこの後、戦闘の鍛錬をしているが、異世界ではいつも相手してくれている兵士たちはいないため、シャルルを持って素振りをするにとどまる。

「お前、剣使えるのか?」

 シャルルが意外そうに言う。
 クリスは苦笑した。

「だいたいの武器は使えるよ。まぁ、剣が一番鍛練したけど」

 聖剣を使う勇者相手に魔法は不利なため、一通りの武器と体術は学んでいた。

 皆が起きると、クリスは昨日生やした木に手を当て、魔法で果実を作り皆に配る。
 そうして食べていると、シオンから呼び出された。


 通された客間で、クリスとシオンはテーブルを挟んで向かい合って座る。シオンの妻なのか、老婦人がクリスとシオンの前にお茶を置いた。

「まず、礼を言おう。村を守ってたこと、感謝する」

 いきなり頭を下げられてクリスは戸惑う。

「……僕としては普通のことをしただけだから、感謝されるほどのことじゃないよ」

 「普通じゃないって」とシャルルが言っているが、例えクリスじゃなくても、それなりの強さがあるなら、襲われている者を助けただろう。

「じゃが、お主は魔族でこの村を守る義理などないじゃろう?」
「助けるのに義理とか必要なのかい?」

 クリスが首を傾げると、シオンは目を見開き、可笑しそうに笑った。

「なるほど、聖剣に選ばれるだけある。
 ずいぶん変わった御仁のようだ」
「むぅ……」

 この間から変わり者呼ばわり呼ばわりされているクリスは憮然とする。

「それはともかく、お主、魔王の元に行くそうじゃな」

 クリスは素直に頷く。

「魔王を倒すのかね?」
「それは……まだ、決めてない」
「なぜじゃ?」

 シオンは信じられないものを見たような目でクリスを見る。

「僕はそもそも魔王が世界を滅亡させることに半信半疑なんだ。世界を滅亡してどうするのかまったくわからなくて……」

 神話の通りなら、剣はそのために作られたのだろう。
 だが、持ち主が剣と同じ願望を持つとは思えなかった。

「それに……」
「それに?」

 疑問符を付けているシオンに、クリスは寒気がするほど爽やかな笑顔を向ける。

「僕は勇者が嫌いなんだ」

 クリスの言葉に「え!」とシャルルが驚き、シオンは呆気にとられた。

「何もこちら側の話を聞かないし、信じないし、何もしていないのに襲いかかる勇者が僕は嫌い。
 だから、そんな勇者と同じになりたくないから、魔王を倒すかどうか今は決めない」

 クリスの目的はあくまで魔王の配下の待遇改善であり、魔王を倒すことではない。

 もし、こちらの話を全く聞かない暴君で、これからも何もしていない人々を襲うとしたら、倒すかもしれない。
 だが、それはあくまで話し合ってからだ。

「そうか……」

 シオンはため息をつく。
 そして意を決したように顔を上げた。

「実はのう、すでに何人もの勇者が魔王に挑み、敗れておる」
「え……」
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