その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

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プロローグ2

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勇者たちを転移魔法で送ったあと、クリスはドカッと椅子に腰かける。

「あー、疲れたー」

 さっきまでの威厳はどこえやら、行儀悪く背もたれにおっかかる姿は一国の王らしくない。

「行儀悪いですよ、クリス様」

 そう言って諫めたのは、白銀の髪に赤い目をした、美しい青年だった。頭の上には魔族の証であるねじくれた角が、口には鋭い牙が生えている。

「だってさあ」
「だってではありません。今、私しかいないとはいえ、仕事中でしょう。まあ、疲れるのもわかりますが……」

 彼は戦闘は専門外なので勇者と対峙している間は別室にいたが、そのやり取りは聞いていのである。

「毎回毎回、一応理由は聞いているけど、濡れ衣ばかり着せられるとほんっとイヤになるよ」

 クリスは愚痴る。

「今回は日照り、前回は洪水、ああ、台風の時もあったな。なんで自然災害を僕のせいにするんだろう? そのうち人間の国の増税や汚職まで僕のせいにしそう」

 だいぶ荒れているな、と側近は思った。
 普段のクリスは仕事中にここまで素になることはない。
 とはいえ、仕事はまだあるため、いつまでも愚痴らせるわけにはいかない。

「さて、避難させた住民たちはどうします?」
「……順に戻ってもらって、盗難や器物損害の被害がある場合は届けるよう指示して。場合によってはこちらで補償する」

 愚痴ったことで少し気が晴れたのか、クリスは座り直して指示を出す。

「勇者の被害をこちらで補償ですか……」
「仕方ない。あれは一種の災害みたいなものだ。対策や避難をしたからといって、完全に防げるものではない」

 素の口調から仕事の口調に戻ったクリスだが、次の側近の言葉で再び口調が崩れた。

「そういえば、今日、勇者相手に手を抜きましたね?」

 ギクッとクリスは固まる。
 側近はため息をついた。

「勇者と戦う時、手を抜くと、しつこさが増すから死なない程度に全力でと言われているでしょう?何やってんですか」
「……仕事が溜まっているから早く終わらせたかっただけだよ」

 時期的に税率や補助金などを決めるときだったのだ。何の生産性もない勇者の相手をするのがもったいない。

「それで襲撃回数が増えたら元も子もないでしょう」
「うー」

 クリスは頭を抱えた。
 1回で諦める勇者の方がまれなのだ。

「……次は気を付ける」
「そうしてください」

 どっちが主従かわからなかったが、幼少の頃から面倒を見てもらっているので、クリスは側近に頭が上がらないところがあった。

「そういえば、新しい菓子屋ができたらしいね」

 このままだとさらに説教が続きそうなので、クリスは話題を変えた。

「ライカがおいしかったって言ってた。次の休みに行こう」

 ライカも昔からお世話になっている側近の一人である。クリスと同じで甘い物が好きなエルフの女性だ。

「そうですね。では、休みが取れるように仕事をしましょう」

 そう言って、側近は魔法でテーブルを引き寄せ、その上にドカッと大量の書類を置く。
 仕事は嫌いではないクリスも目の前の書類の山を目にすると、逃げたくなってくる。

(あー、たまにはどこか遠くへ行きたいな)

 その、一瞬だけよぎった考えが、思わぬ形で叶えられるとは、この時は全く予想していなかった。
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