その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

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魔王、聖剣を抜く

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 シオンに案内され、クリスは聖域に着いた。

 聖域は古い遺跡のようなところで、蔦の絡まった白い石の台に大きな赤い石の付いた一本の剣が刺さっている。あれが聖剣だろう。

 クリスは眉をしかめた。
 その聖剣から感じる力は、クリスがよく知っている、クリスがいた世界の聖剣に似ている。
 つまり、魔力と相反する力だ。
 ここにいるだけで肌がチリチリとした。

「さあ、抜いてみてくだされ」

 シオンはクリスを促すが、クリスは少々躊躇する。
 クリスは魔族で、魔族は他の種族と比べて魔力が飛び抜けて高い。
 高い魔力を持つクリスが、反対の力を持つこの聖剣にふさわしいとはとうてい思えなかった。

「ほれ、そんな躊躇わずに、一気に抜いてくだされ」

 再びシオンに促され、クリスは怪我することを覚悟して、剣の柄に手を掛ける。
 思ったような痛みはなく、少しほっとした。
 だが、とうてい抜けるとは思えないし、抜く気もなかったので、たいした力も入れず、腕を上に上げる。

 あっさりと、剣は台座から抜けた。

「……は?」
「おお!」

 シオンが歓声を上げるがそれに構わず、クリスは手にした聖剣をまじまじと眺めた。

 そして黙ってそれを、元の台座にそっと突き刺した。

「なぜ、戻す!?」
「いや、何か間違えたみたいで」

 クリスは混乱していた。
 魔王と呼ばれる自分が聖剣を抜くというあり得ないことが起きたのだ。

「間違えでもなんでもない! お主は聖剣に選ばれたのだ!」
「いや、あり得ないって」

 そう言ってもう一度持ち上げると、再びあっさりと抜ける。

(いやいや、ないでしょ……!)

 ふと、ある疑念がわき上がり、クリスは聖剣を再び台座に突き刺すと、シオンに向き合った。

「ちょっと、これ、抜いてみてくれない?」

 ひょっとしたら、実は誰にでも抜けるのかもしれない。

「まだ、疑っておるのか……」

 呆れたように呟き、シオンは剣の柄に手を掛ける。

「ん……ぐぐぐ……」

 たいして力を入れて突き刺したわけではないのに、シオンが体を弓なりにして力一杯引き抜こうとしても、聖剣は抜けなかった。
 ぜーぜーと息を切らしているシオンに演技している様子はない。

 クリスが再び持ち上げると、何の抵抗もなく、抜ける。

「……」

 クリスは黙って、再び台座剣をに戻そうとした。

「いいかげんにしろー!」
「え?」
 
 怒鳴り声は聖剣から聞こえた。

「何度、確かめれば気が済むんだ! お前は確かに魔族だが、俺はお前を選んだんだ! いいかげん認めやがれ!」
「……いや、勇者になりたくないだけなんだけど」
「俺が選んだんだから、もう、お前は勇者なんだよ! さっさと覚悟決めろ!」
「……」

 なんとなくだが、勇者を彷彿とさせる言い方に、クリスは「あっ、これ話通じそうにないな」と遠い目をしていた時だった。

 バタバタとあわただしい足音が近づいてきた。

「親父! 村に魔物が現れた!」 

 白に近い灰色の髪をした壮年の男が、大声で叫びながら聖域に入ってきた。

「シュウ、それは本当か!?」
「オークが十体以上だ! 村の男たちで相手しているが、手も足も出ねえ!」

 クリスはシュウと呼ばれた男に詰めよる。

「オークだけ? 他にはいなかった?」
「……そういえば、空に女が飛んでるって言っていたやつがいたな」

 訝りながらも答えたシュウを後にして、クリスは村に向かって走りだそうとする。

「待て、俺を連れて行け!」

 聖剣が怒鳴ってクリスを呼び止めた。

「使うつもりはないから、持っていかなくていいでしょ」
「使わねえのかよ! いや、それでも連れて行け!」
「……わかったよ」

 口論になると面倒臭そうだし、時間が惜しかったので、クリスはしぶしぶ聖剣を持って村に向かった。
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