その勇者、実は魔王（改訂版）

魔王、召喚される2

　クリスが目を開けると、そこには大勢の人が集まっていた。

(人間……！)

　集まっていた人々には、魔物や獣人のような身体的な特徴は見られず、魔族やエルフのような強い魔力を感じることもなかった。

「成功だ……！」

　目の前にいた白い髭を生やした目の細い年かさの男が小さく呟く。
　その言葉に周囲の人間たちから歓声が上がった。

(何なんだ、一体……)

　クリスは戸惑った。
　とりあえず肩を確かめるとジョセフは無事だったので、その白い毛を撫でた。

「わしの名はシオン。この村の村長をしている。
　異世界の者よ、お主に頼みたいことがある」

　白い髭の男はクリスにそう声を掛けた。

(異世界？)

　はっとして、クリスは魔力の気配を確かめた。
　ヒオン国では国境に人間は入れないようにしている結界が張っている。それが聖剣などで傷つけられると、クリスに伝わるようになっている。
　だが、今はいつも感じている結界の気配がなかった。
　また、黒い髪は魔族以外には見られないのに、人間たちはクリスを魔族だと気づいていない。それどころか、人間たちのなかにも黒髪の者がちらほらいる。

「……その頼みたいことって何？」

　慌てても仕方がないので、とりあえずそう聞いてみる。

「お主に頼みたいこと、それは……」

　シオンは細い目をカッと見開く。

「勇者となり、魔王を倒してもらいたい！」
「やだ」

　間髪入れずにクリスは答えた。

「な、なぜじゃ」
「いや、だって僕魔族だし」

　帽子を取ってねじくれた山羊のような角を見せると、あちこちから悲鳴が上がる。

「イヤー、魔族よ！」
「助けてー、殺される！」

「……そういうわけで、元の世界に帰してくれない？」

　角を見ただけで恐慌状態になる人々に呆れつつ、クリスはシオンに頼んだ。

「……確かに魔族の勇者など聞いたことはない……じゃが、エルフやドワーフの例はあるし……」

　意外にもシオンは落ち着いてぶつぶつ呟いていた。
　そして決心したようにクリスを見た。

「この近くの聖域に、聖剣が奉られている。それは選ばれた者にしか抜けん。それを試してからでもかまわんか？」
「……わかった」

　どうせ抜けるわけがないと思ったので、クリスは了承した。