その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

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魔王、召喚される

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 ヒオン国は魔族や魔物、エルフや獣人などの人間以外の種族が自由で平和に暮らす国である。
 先日、勇者が来て大騒ぎになったが、すでに元の日常を取り戻していた。

 久々の休みの日、クリスはおしのびで街に遊びに来ていた。

 クリスは一般の国民が着るような茶色のズボンに白いシャツ、若草色のカーディガンを着て、赤い帽子をかぶっている。
 仕事の時に身に付けている豪奢な仮面を取ったクリスは黒髪金眼のやや幼い顔立ちをした小柄な魔族の青年となる。

「思ったより被害なかったみたいだね」

 街を眺めてクリスは言った。

「今回の勇者はまっすぐ城に向かいましたから」

 白いネズミに変身して肩に乗っている側近のジョセフが答えた。

 勇者のなかには国民への暴行や窃盗を行う者もいるため、そういった被害がなかったことは喜ばしいことだった。

 クリスは大通りにある馴染みの屋台に近づく。

「ガーラ、一本ちょうだい」

 クリスは屋台で肉を焼いているオークに声を掛けた。

「おや、クゥかい。久しぶりだね」

 クリスはおしのびの時はクゥと名乗っている。王とバレると面倒なことが多いからだ。

「最近、勇者が来て忙しかったからね」

 勇者が来るまでに住民を避難させたり、兵士を配列したりと準備などで前回の時、週に一度の休みが潰れてしまったのだ。

「そういえば、クゥ、城の方は大丈夫だったかい?」

 ガーラは銅貨を受け取りながら聞いてきた。
 クゥは城で文官として働いていることになっている。

「いつも通り、王が追い払ってくれたよ」

 クリスはそう答えると、串を一本受け取って一つをジョセフに与え、残りは口に運んだ。
 塩だけのシンプルな味付けなのに、ガーラの串焼きは自然に頬が緩む程おいしい。
 不思議なのはガーラの何代も前から通っているが、その味がまったく変わっていないことである。

 食べ終わると、屋台に取り付けてあるゴミ箱に串をいれ、歩きだす。
 たしか、新しく菓子屋ができたらしいので訪ねてみようと思った。

(確か、あっちにあるらしいから……あそこを通った方が早いな)

 そう判断し、建物に挟まれた路地を歩いていた時だった。

 突然、足元の地面が光った。

「……!? なに、これ!?」

 クリスがよく使う転移魔法に似ているが、それとは別物だった。

 転移魔法などは中断すると、切断や全く別のところにとばされたりすることがある。足を切断するリスクを承知で飛び上がって離れようとするが、足は地面に縫い付けられたように動かなかった。

 そのままなす術もなく、クリスは光に包まれ、その路地から消えてしまった……。
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