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プロローグ
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ヒオン国王城の玉座の間。
いつものようにクリスが書類に目を通していると、廊下の方がざわざわと騒がしくなった。
(来たか……)
億劫そうに息をつくと、手に持っていた書類を近くにいた側近に渡す。
すると同時に、広間の扉がバーンと乱暴に開かれた。
「どこだ、魔王!」
そう大声で叫びながら勢いよく入って来たのは人間や獣人でいうと十代後半くらいの栗色の髪で青い瞳の少年である。若干目付きが悪いが、精悍で整った顔立ちをしている。
「ここにいる」
内心、面倒臭いと思いつつ、クリスは返事をした。
「さて、勇者よ、何の用で参った?」
少年と、遅れて入って来た4人の人間にクリスは問う。
「お前を倒すために来た!」
そう言って少年は手にしている聖剣を構えた。
いや、そういうことを聞きたいんじゃないと思うクリスをよそに人間たちはそれぞれの武器を構えて臨戦体勢にはいる。
クリスが椅子から立ち上がると、勇者はクリスに向かって走りだす。
「うぉー!」
雄叫びを上げながら勇ましく魔王に斬りかかろうとした少年が、突然、その勢いのまま、地面に衝突した。
「うごっ!?」
まともに顔面をぶつけたらしく、情けない声を出す勇者に、クリスは容赦なく、先ほど足を引っ掛けたつる草を魔法で操って身動きの取れないようぐるぐる巻きにした。同じように勇者が転んだことで隙ができた4人の仲間も素早くぐるぐる巻きにする。
――こうして、勇者と仲間たちは城に来てからたいした時間も経たないうちに動きを封じられてしまった。
「さて、勇者よ、なぜ私を倒そうとするのだ?」
クリスが聞くと、少年はクリスを睨み付ける。
「お前が世界の平穏を乱そうとするからだ!」
……全く心当たりがない。
「具体的には?」
「北の国では日照りが続いて人々が苦しんでいる! 東の国では魔物の盗賊団が人々を襲ったそうだ! お前のしわざだろ!」
クリスは仕事の時は細かな意匠を凝らした黒い仮面をかぶっている。そのため、呆れた表情を見せずに済んだ。
(何言っているんだ、こいつは……)
クリスは日照りを起こしたことはない。
クリスの魔力なら可能かもしれないが、起こそうと思ったこともない。
それに、国外の、それも遠くの魔物について言われても困る。
他にも勇者はいろいろいい募ったが、どれもクリスやクリスの国に関係のないことばかりだった。
かろうじて関係ありそうなのは国境近くで魔物が出たという話だが、本当に出ただけで被害も何もなかったらしい。
(またか……)
「言いたいことはそれだけか?」
イラつきを押さえながら聞くが、勇者は興奮で息を切らしていた。
「言っておくが、私を倒すことで解決するものはひとつもない」
嘘をつくな、という声が上がるが、クリスは嘘をついていない。
クリスが王となってから二百年ほど経つが、今まで来た勇者の訴えのなかにクリスを倒すことで解決するものはなかった。
もう話しても無駄だと思ったクリスは側近にあるものを持って来させる。
「これをやる」
そう言って勇者の目の前に出したのは黒い髪の束である。
「なんだ、これ?」
「私の髪だ。お前たち人間は勝った証しとして相手の体の一部を持っていくと聞く」
意味がわかっていない勇者にクリス続けた。
「これで私を倒したことにしろと言っている」
「ふざけるな!」
「言っておくが」
もはや苛立ちを隠さず、クリスは勇者を睨み付ける。
「私は人間と争うつもりはないし、お前たちに倒されるつもりはない。だが、お前たちを殺すつもりもないからおとなしく帰れ」
勇者たちのいる地面が光る。
「国の外まで送ってやる。もう、二度と来るな」
顔を真っ赤にした勇者が何か言おうとするが、クリスは構わず、転移魔法を発動させた。
いつものようにクリスが書類に目を通していると、廊下の方がざわざわと騒がしくなった。
(来たか……)
億劫そうに息をつくと、手に持っていた書類を近くにいた側近に渡す。
すると同時に、広間の扉がバーンと乱暴に開かれた。
「どこだ、魔王!」
そう大声で叫びながら勢いよく入って来たのは人間や獣人でいうと十代後半くらいの栗色の髪で青い瞳の少年である。若干目付きが悪いが、精悍で整った顔立ちをしている。
「ここにいる」
内心、面倒臭いと思いつつ、クリスは返事をした。
「さて、勇者よ、何の用で参った?」
少年と、遅れて入って来た4人の人間にクリスは問う。
「お前を倒すために来た!」
そう言って少年は手にしている聖剣を構えた。
いや、そういうことを聞きたいんじゃないと思うクリスをよそに人間たちはそれぞれの武器を構えて臨戦体勢にはいる。
クリスが椅子から立ち上がると、勇者はクリスに向かって走りだす。
「うぉー!」
雄叫びを上げながら勇ましく魔王に斬りかかろうとした少年が、突然、その勢いのまま、地面に衝突した。
「うごっ!?」
まともに顔面をぶつけたらしく、情けない声を出す勇者に、クリスは容赦なく、先ほど足を引っ掛けたつる草を魔法で操って身動きの取れないようぐるぐる巻きにした。同じように勇者が転んだことで隙ができた4人の仲間も素早くぐるぐる巻きにする。
――こうして、勇者と仲間たちは城に来てからたいした時間も経たないうちに動きを封じられてしまった。
「さて、勇者よ、なぜ私を倒そうとするのだ?」
クリスが聞くと、少年はクリスを睨み付ける。
「お前が世界の平穏を乱そうとするからだ!」
……全く心当たりがない。
「具体的には?」
「北の国では日照りが続いて人々が苦しんでいる! 東の国では魔物の盗賊団が人々を襲ったそうだ! お前のしわざだろ!」
クリスは仕事の時は細かな意匠を凝らした黒い仮面をかぶっている。そのため、呆れた表情を見せずに済んだ。
(何言っているんだ、こいつは……)
クリスは日照りを起こしたことはない。
クリスの魔力なら可能かもしれないが、起こそうと思ったこともない。
それに、国外の、それも遠くの魔物について言われても困る。
他にも勇者はいろいろいい募ったが、どれもクリスやクリスの国に関係のないことばかりだった。
かろうじて関係ありそうなのは国境近くで魔物が出たという話だが、本当に出ただけで被害も何もなかったらしい。
(またか……)
「言いたいことはそれだけか?」
イラつきを押さえながら聞くが、勇者は興奮で息を切らしていた。
「言っておくが、私を倒すことで解決するものはひとつもない」
嘘をつくな、という声が上がるが、クリスは嘘をついていない。
クリスが王となってから二百年ほど経つが、今まで来た勇者の訴えのなかにクリスを倒すことで解決するものはなかった。
もう話しても無駄だと思ったクリスは側近にあるものを持って来させる。
「これをやる」
そう言って勇者の目の前に出したのは黒い髪の束である。
「なんだ、これ?」
「私の髪だ。お前たち人間は勝った証しとして相手の体の一部を持っていくと聞く」
意味がわかっていない勇者にクリス続けた。
「これで私を倒したことにしろと言っている」
「ふざけるな!」
「言っておくが」
もはや苛立ちを隠さず、クリスは勇者を睨み付ける。
「私は人間と争うつもりはないし、お前たちに倒されるつもりはない。だが、お前たちを殺すつもりもないからおとなしく帰れ」
勇者たちのいる地面が光る。
「国の外まで送ってやる。もう、二度と来るな」
顔を真っ赤にした勇者が何か言おうとするが、クリスは構わず、転移魔法を発動させた。
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