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幕間
幕間 エイプリルフールSS 嘘の日
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「姫様が、倒れた!?」
女の子みんなが好きなおやつ時、第三騎士団の食堂でわいわいとかしましい中、ミーティアから告げられたローイックがガタっと椅子を倒して立ち上がった。
「どうやら走り回っているうちに気分が悪くなったとかで、現在木陰で休んでおられます」
「っていうか、休むなら寝室に戻られるなり医務室に行かれるなりした方が……」
「それで姫様がローイック様をお呼びです」
無表情のミーティアが抑揚のない声で告げる。
「あ、あのなんで私――」
「それで姫様がローイック様をお呼びです」
ローイックの言葉にかぶせるように、棒読みで繰り返された。ローイックの頬も引きつる。
「あっと、あの」
「それで姫様がローイック様をお呼びです」
問答無用らしい。ローイックが「はい、行きます」と返事をすれば、「いつもの場所にいる、との事です。確かにお伝えいたしましたよ」とミーティアが無表情のまま続け、そそくさと食堂から出て行ってしまった。
なんだかよく分からないが呼ばれているのは確からしい。食堂にいる騎士達の視線を集めつつ、ローイックは「いつもの場所」に向かった。
「いつもの場所」とは即ち、二人の逢引の場だ。隠れて会っていたはずがミーティアにバレているとは知らない、あの場所である。
ローイックは小走りでそこに向かうと、腰壁のすぐ近くに白い騎士服姿で寝っ転がっているキャスリーンを見つけた。何かあるとは思いつつも、本当だったら危険だと思ったローイックは駆け寄り、彼女の脇にしゃがみ込んだ。
「姫様、どうしました?」
目を閉じてはいるが、キャスリーンの顔色は特に変わりはない。むしろやや赤い。熱射病にでもなっているのか知れない。額に手を当てるが、高熱はなさそうだった。はて、とおもい医師を呼ぶために立ち上がろうとした。その時、キャスリーンが口を開いた。
「眠れるお姫様は王子様の口づけで起きるのです」
思いっきり棒読みで、何かのセリフのようだった。ローイックはまた引きつった。
「あの、姫様?」
「眠れるお姫様は王子様の口づけで起きるのです」
ミーティアと同じように、台詞を繰り返した。キャスリーンの目は閉じたままだ。
何を企んでいるんだろう?
ローイックが首を傾げていると、キャスリーンの目が開いた。
「……姫様? これはなんのお芝居ですか?」
「今日は何の日か知ってる?」
緋色の瞳がローイックを捕らえた。
「はて? 今日ですか?」
ローイックは考えた。帝国とアーガスは暦に違いはないが、習慣に違いはあるのだ。アーガスでは、今日は特に何もない日だった。では帝国は、と考えたところで「嘘の日」という習慣を思い出した。帝国では今日一日嘘をついても許される日なのだ。勿論、内容が悪質であればそれなりの罰則が待っているのだが。
「嘘の日、ですか?」
「分かってるんじゃない!」
キャスリーンは口を尖らせた。
「で、こんな遊びをしているわけですね。心配して損しましたよ、まったく」
ローイックはため息をつき呆れたが、初めて会ったころのキャスリーンはこんな悪戯をしていたな、と思い出し、思わず頬を緩めた。
「さぁ、起きてください。こんなところで皇女様が寝っ転がってちゃだめです」
途端にキャスリーンが頬を膨らませむくれた。
「なによー、のってくれたっていーじゃなーい。最近はハーヴィーさんが護衛でいるから、二人っきりになる機会が減ってるのにー」
キャスリーンはその場でゴロゴロ転がりながらブーブー文句を言う。とても皇女様と思えない行動だが、これは相手がローイックだからこそ甘えているのだ。少し考え、ローイックはふふっと笑った。
「あーこれは大変だー! 姫様が起きないぞー!」
ローイックも芝居がかった声を上げた。突然の豹変にキャスリーンが「ほぇ」と声を出し、転がりを止めた。ローイックはキャスリーンの頬に手を当て「わーどうすればいーんだー」とわざとらしく叫んだ。「そうかー、目覚めの口づけだー」と言い、ゆっくりと顔を近づけていった。
ローイックを見つめてくるキャスリーンの顔は赤くなっていき、口はもごもごと波うち始めた。キャスリーンの目が次第に潤んでいく。鼻が触れそうなくらいまで顔が近づいていた。
「や、やっぱり、こんなんじゃいやー! 初めてはもっとムードがないとイヤー!」
涙目になったキャスリーンを見て、ローイックは苦笑して顔を離した。
「姫様、起きてください」
「グス、分かったわよ……起きれば良いんでしょ、起きれば」
鼻をすすり上半身を起こしたキャスリーンにローイックは微笑む。すっと顔を近づけ、キャスリーンの頬に唇をあて、チュッと音たてた。ローイックが顔を離すと、ゆでだこの様なキャスリーンが口を開け、石像になっていた。口づけされた頬に手を当て、放心状態になっている。
「お目醒めは如何でしょうかお姫様。でも、初めての時は人がいないところの方が良いですね」
ローイックが後ろを振り返ると、周囲の物陰から「きゃー」という黄色い声が聞こえてきた。第三騎士団の皆だろう。手引きはミーティアだろうか。
「ガサゴソ音がするからバレバレですよ」
ローイックの言葉に皆がニヤニヤしながらぞろぞろと姿を現してくる。
「なななんで皆がいるのよ! 皆には黙ってるって言ったじゃない!」
耳まで赤くしたキャスリーンが指をさし文句を言っている。その覗きの集団の中にいるミーティアはニッコリと笑いながら「今日一日は嘘をついても良い日なので」とうそぶいた。
女の子みんなが好きなおやつ時、第三騎士団の食堂でわいわいとかしましい中、ミーティアから告げられたローイックがガタっと椅子を倒して立ち上がった。
「どうやら走り回っているうちに気分が悪くなったとかで、現在木陰で休んでおられます」
「っていうか、休むなら寝室に戻られるなり医務室に行かれるなりした方が……」
「それで姫様がローイック様をお呼びです」
無表情のミーティアが抑揚のない声で告げる。
「あ、あのなんで私――」
「それで姫様がローイック様をお呼びです」
ローイックの言葉にかぶせるように、棒読みで繰り返された。ローイックの頬も引きつる。
「あっと、あの」
「それで姫様がローイック様をお呼びです」
問答無用らしい。ローイックが「はい、行きます」と返事をすれば、「いつもの場所にいる、との事です。確かにお伝えいたしましたよ」とミーティアが無表情のまま続け、そそくさと食堂から出て行ってしまった。
なんだかよく分からないが呼ばれているのは確からしい。食堂にいる騎士達の視線を集めつつ、ローイックは「いつもの場所」に向かった。
「いつもの場所」とは即ち、二人の逢引の場だ。隠れて会っていたはずがミーティアにバレているとは知らない、あの場所である。
ローイックは小走りでそこに向かうと、腰壁のすぐ近くに白い騎士服姿で寝っ転がっているキャスリーンを見つけた。何かあるとは思いつつも、本当だったら危険だと思ったローイックは駆け寄り、彼女の脇にしゃがみ込んだ。
「姫様、どうしました?」
目を閉じてはいるが、キャスリーンの顔色は特に変わりはない。むしろやや赤い。熱射病にでもなっているのか知れない。額に手を当てるが、高熱はなさそうだった。はて、とおもい医師を呼ぶために立ち上がろうとした。その時、キャスリーンが口を開いた。
「眠れるお姫様は王子様の口づけで起きるのです」
思いっきり棒読みで、何かのセリフのようだった。ローイックはまた引きつった。
「あの、姫様?」
「眠れるお姫様は王子様の口づけで起きるのです」
ミーティアと同じように、台詞を繰り返した。キャスリーンの目は閉じたままだ。
何を企んでいるんだろう?
ローイックが首を傾げていると、キャスリーンの目が開いた。
「……姫様? これはなんのお芝居ですか?」
「今日は何の日か知ってる?」
緋色の瞳がローイックを捕らえた。
「はて? 今日ですか?」
ローイックは考えた。帝国とアーガスは暦に違いはないが、習慣に違いはあるのだ。アーガスでは、今日は特に何もない日だった。では帝国は、と考えたところで「嘘の日」という習慣を思い出した。帝国では今日一日嘘をついても許される日なのだ。勿論、内容が悪質であればそれなりの罰則が待っているのだが。
「嘘の日、ですか?」
「分かってるんじゃない!」
キャスリーンは口を尖らせた。
「で、こんな遊びをしているわけですね。心配して損しましたよ、まったく」
ローイックはため息をつき呆れたが、初めて会ったころのキャスリーンはこんな悪戯をしていたな、と思い出し、思わず頬を緩めた。
「さぁ、起きてください。こんなところで皇女様が寝っ転がってちゃだめです」
途端にキャスリーンが頬を膨らませむくれた。
「なによー、のってくれたっていーじゃなーい。最近はハーヴィーさんが護衛でいるから、二人っきりになる機会が減ってるのにー」
キャスリーンはその場でゴロゴロ転がりながらブーブー文句を言う。とても皇女様と思えない行動だが、これは相手がローイックだからこそ甘えているのだ。少し考え、ローイックはふふっと笑った。
「あーこれは大変だー! 姫様が起きないぞー!」
ローイックも芝居がかった声を上げた。突然の豹変にキャスリーンが「ほぇ」と声を出し、転がりを止めた。ローイックはキャスリーンの頬に手を当て「わーどうすればいーんだー」とわざとらしく叫んだ。「そうかー、目覚めの口づけだー」と言い、ゆっくりと顔を近づけていった。
ローイックを見つめてくるキャスリーンの顔は赤くなっていき、口はもごもごと波うち始めた。キャスリーンの目が次第に潤んでいく。鼻が触れそうなくらいまで顔が近づいていた。
「や、やっぱり、こんなんじゃいやー! 初めてはもっとムードがないとイヤー!」
涙目になったキャスリーンを見て、ローイックは苦笑して顔を離した。
「姫様、起きてください」
「グス、分かったわよ……起きれば良いんでしょ、起きれば」
鼻をすすり上半身を起こしたキャスリーンにローイックは微笑む。すっと顔を近づけ、キャスリーンの頬に唇をあて、チュッと音たてた。ローイックが顔を離すと、ゆでだこの様なキャスリーンが口を開け、石像になっていた。口づけされた頬に手を当て、放心状態になっている。
「お目醒めは如何でしょうかお姫様。でも、初めての時は人がいないところの方が良いですね」
ローイックが後ろを振り返ると、周囲の物陰から「きゃー」という黄色い声が聞こえてきた。第三騎士団の皆だろう。手引きはミーティアだろうか。
「ガサゴソ音がするからバレバレですよ」
ローイックの言葉に皆がニヤニヤしながらぞろぞろと姿を現してくる。
「なななんで皆がいるのよ! 皆には黙ってるって言ったじゃない!」
耳まで赤くしたキャスリーンが指をさし文句を言っている。その覗きの集団の中にいるミーティアはニッコリと笑いながら「今日一日は嘘をついても良い日なので」とうそぶいた。
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