81 / 81
第二章 乗っ取られた国
71 作戦会議 その3
しおりを挟む
「でも、アーシャ……さんの能力って人に使えるのですか?」
「呼びすてで結構ですよ──いえ、この能力は自分にしか使えませんわ」
アーシャの呼び方を一瞬迷い、間が空いてしまったが本人が呼びすてでいいと言うのなら遠慮せず。
確かに人の能力であればまた違うのかも知れない。『洗脳』はコノハの内面を無理矢理変えるものであって、彼女の能力─『姿身』は外見を変えるものだ。
自分の魔力を纏うことは出来ないので自ら姿を変えることは不可能だが、魔法と能力は少し違う。
魔力を使うかそうでないか。
まぁ、それよりも人に使えるかだ。
「じゃあ、無理じゃない?」
使えないなら元も子もない。
そう思ったのだが、アーシャはふるふると首を横に振った。
「出来なくてもやりようはありますわ。──教皇が持っていた『身代わりの魔道具』を使えば」
「……っ、それは……」
怯んだ。
彼女にとっては見たくもない道具だろう。
確かに『身代わり』の魔道具は視界や魔力などを繋げることが出来る。
それこそ、能力だって可能だ。
「あら、もしかして無理かしら?」
ことり、と悪戯気に首を傾げる彼女。
コノハはそれを一瞥して強いな、と思った。
瞳には怯えも後悔も見えない。
これが、貴族というものなのだろうか。
「……出来る、とは思うけど……私が貴女をどうにかするかもしれないよ?」
その瞳を恥じないくらいの強気で返してみたのだが、少し意地悪かも知れない。
そんなことを露知らず彼女は目を細めて笑った。
「ふふっ、そんなことを言う時点で貴女はそんなことをしないでしょう?それにそうしたいなら今まで待つ必要なんて無いもの」
「………分かった」
どうやらコノハは彼女たちに思っている以上の信頼を持っていたらしい。
未だに自分がやった偉大さをよくわかってはいないのだ。
王族を助け、教会に乗り込んで聖女─アーシャを助けた。
前者でもう勲章ものなのに、だ。
……やっぱり彼女はまだ子供なのである。
ここまで言うのであれば、断る理由は無い。それに彼女に協力してもらった方が圧倒的に楽だ。
「……本当にいいのですか?アーシャ」
メリアローズが心配する声色で聞いたが、勿論、と言わんばかりにアーシャが頷いたのを見る。
そういう彼女にも頼み事はしてあるのに、周りに気を配れるそういうところがいいところなのだろう。これは、民衆の支持もありそうである。
そんなことを思いながらマジックボックスから『身代わり』の魔道具を取り出しているときにアーシャがふと思い出したような調子で言った。
「あ、あとコノハ。貴女は私の家の養子になりなさい」
「え?」
内容は予想だにしていなかったことだが。
虚を突かれて手が止まる。
ラピスラズリの瞳を上げ、きょとんとした顔をアーシャに向けた。
いや、可能か不可能かで言えば、コノハは貴族でも無い平民なので可能だが。
何故、そこまで大事になった。
というか、なんで入る必要がある。
「平民だ、って舐められては堪ったものではないでしょう?貴族に取り込まれないようにするためにはそれが必要ですわ。英雄になるのですし」
「………そうなの?」
「ここの貴族は野心が高く、同時に愚かですからね──準備には準備、ですわ」
「でも、そんなこと簡単に───」
養子とか、すごく時間がかかりそうなのだが。
そこで言葉を紡いだのは、アーシャではなく話を沈黙で聞いていたメリアローズだった。
「……出来ます。そういうことはアーシャの家が一番ですし」
「……?」
ちょっと、理解が追い付かない。
何か……アーシャの家が例外なのか?
はてなハークを浮かべているコノハに説明する気はないのか、アーシャがパンっ手を叩いて無理矢理コノハの気を反らす。
「まぁ、そんなことより早くしなければいけないでしょう?ジークは大丈夫なんですよね?」
「………うん。魔道具も傍に置いておくし大丈夫だと思う」
「なら、これからどうすればいいでしょうか?」
頭の切り替えは得意な方だ。
今までの話から最良の方法を探し出す。
ぐるぐると思考の渦に入りながら、どうしてこんなことになったんだっけ?と今さらながらによぎった。……まぁ、もう遅い。
なるようになるしかないだろう。
出てきそうになった溜め息を押し殺し、結論を出す。
「………私がローズを王都まで送る。そこからアーシャと一緒に行ってソルディリア家へ。養子?とかなんとかやってから、あとは王城で合流して王族の説得。……ローズ、遅くなるかも知れないから、先に話通してくれる?」
「分かりました」
「では、作戦開始ですね」
窓から太陽の光が入ってきた。
今日はまだ、始まったばかりである。
「呼びすてで結構ですよ──いえ、この能力は自分にしか使えませんわ」
アーシャの呼び方を一瞬迷い、間が空いてしまったが本人が呼びすてでいいと言うのなら遠慮せず。
確かに人の能力であればまた違うのかも知れない。『洗脳』はコノハの内面を無理矢理変えるものであって、彼女の能力─『姿身』は外見を変えるものだ。
自分の魔力を纏うことは出来ないので自ら姿を変えることは不可能だが、魔法と能力は少し違う。
魔力を使うかそうでないか。
まぁ、それよりも人に使えるかだ。
「じゃあ、無理じゃない?」
使えないなら元も子もない。
そう思ったのだが、アーシャはふるふると首を横に振った。
「出来なくてもやりようはありますわ。──教皇が持っていた『身代わりの魔道具』を使えば」
「……っ、それは……」
怯んだ。
彼女にとっては見たくもない道具だろう。
確かに『身代わり』の魔道具は視界や魔力などを繋げることが出来る。
それこそ、能力だって可能だ。
「あら、もしかして無理かしら?」
ことり、と悪戯気に首を傾げる彼女。
コノハはそれを一瞥して強いな、と思った。
瞳には怯えも後悔も見えない。
これが、貴族というものなのだろうか。
「……出来る、とは思うけど……私が貴女をどうにかするかもしれないよ?」
その瞳を恥じないくらいの強気で返してみたのだが、少し意地悪かも知れない。
そんなことを露知らず彼女は目を細めて笑った。
「ふふっ、そんなことを言う時点で貴女はそんなことをしないでしょう?それにそうしたいなら今まで待つ必要なんて無いもの」
「………分かった」
どうやらコノハは彼女たちに思っている以上の信頼を持っていたらしい。
未だに自分がやった偉大さをよくわかってはいないのだ。
王族を助け、教会に乗り込んで聖女─アーシャを助けた。
前者でもう勲章ものなのに、だ。
……やっぱり彼女はまだ子供なのである。
ここまで言うのであれば、断る理由は無い。それに彼女に協力してもらった方が圧倒的に楽だ。
「……本当にいいのですか?アーシャ」
メリアローズが心配する声色で聞いたが、勿論、と言わんばかりにアーシャが頷いたのを見る。
そういう彼女にも頼み事はしてあるのに、周りに気を配れるそういうところがいいところなのだろう。これは、民衆の支持もありそうである。
そんなことを思いながらマジックボックスから『身代わり』の魔道具を取り出しているときにアーシャがふと思い出したような調子で言った。
「あ、あとコノハ。貴女は私の家の養子になりなさい」
「え?」
内容は予想だにしていなかったことだが。
虚を突かれて手が止まる。
ラピスラズリの瞳を上げ、きょとんとした顔をアーシャに向けた。
いや、可能か不可能かで言えば、コノハは貴族でも無い平民なので可能だが。
何故、そこまで大事になった。
というか、なんで入る必要がある。
「平民だ、って舐められては堪ったものではないでしょう?貴族に取り込まれないようにするためにはそれが必要ですわ。英雄になるのですし」
「………そうなの?」
「ここの貴族は野心が高く、同時に愚かですからね──準備には準備、ですわ」
「でも、そんなこと簡単に───」
養子とか、すごく時間がかかりそうなのだが。
そこで言葉を紡いだのは、アーシャではなく話を沈黙で聞いていたメリアローズだった。
「……出来ます。そういうことはアーシャの家が一番ですし」
「……?」
ちょっと、理解が追い付かない。
何か……アーシャの家が例外なのか?
はてなハークを浮かべているコノハに説明する気はないのか、アーシャがパンっ手を叩いて無理矢理コノハの気を反らす。
「まぁ、そんなことより早くしなければいけないでしょう?ジークは大丈夫なんですよね?」
「………うん。魔道具も傍に置いておくし大丈夫だと思う」
「なら、これからどうすればいいでしょうか?」
頭の切り替えは得意な方だ。
今までの話から最良の方法を探し出す。
ぐるぐると思考の渦に入りながら、どうしてこんなことになったんだっけ?と今さらながらによぎった。……まぁ、もう遅い。
なるようになるしかないだろう。
出てきそうになった溜め息を押し殺し、結論を出す。
「………私がローズを王都まで送る。そこからアーシャと一緒に行ってソルディリア家へ。養子?とかなんとかやってから、あとは王城で合流して王族の説得。……ローズ、遅くなるかも知れないから、先に話通してくれる?」
「分かりました」
「では、作戦開始ですね」
窓から太陽の光が入ってきた。
今日はまだ、始まったばかりである。
0
お気に入りに追加
185
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(8件)
あなたにおすすめの小説


もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
伯爵令嬢の秘密の知識
シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
柊さんよければ番号プリーズです!
招待とか諸々の細かい事は私が何とかするので!
臨時用の雑談ボードを作ったからそこでレイ達との会話出来なくなったら会話しよ
こんにちは!これから読ましてもらいますね!
柊さんの事だからとても面白いよね(プレッシャー)
では、楽しみながら読みますね!
感想ありがとうございます!
うおお……(プレッシャーに押されてる/笑)
プレッシャーかけられても私の語彙力は上がりませんよっ!( ・`д・´)キリッ(笑)
楽しく読んでもらえたらうれしいですっ!