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第二章 乗っ取られた国

65 襲撃[ジークサイド]

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 メリアローズが寝てから一時間と半分くらいが経った。ジークはこの家にあった短剣を自分の近くに置いて椅子に座りながら、一人で教皇を見張っていた。
 妹が眠りの魔法をかけたとはいえ、もし目覚めてしまったら大変だし、こういうとき見張りは絶対に必要だ。
 他の女性(一人子供)に任せるのは男としても、王族としても気が引けたし、まずこれが今出来た人物はジークしかいなかった。
 コノハは子供らしく眠ってしまったし、他の二人に見張りを任せるのは……まぁ、出来なくはないだろうが、彼の面子が立たない。
 
 別にコノハによって強制的とは言えど眠らされていたので眠気はないので、今回のことをコノハが教会から奪った資料を見ながら整理していた。
 
 
 そんなときだった。
 
 「──ぇ、ねぇ、ほんとにここで合ってるのぉ?というかここって家なんてあったぁ?」
 
 外から声が聞こえた。
 間延びした女の声である。
 ジークは弾かれたように顔を上げ、そばに置いていた短剣を手に取り、椅子から立ち上がって臨戦態勢を取ると気配を消し、声のする方へ近づく。
 コノハから結界で家は守られている、とは聞いているため、教皇の見張りだけしていたが人が近づいてくるなら警戒するに越したことはない。
 
 「家は無かったと思いますが……しかし、魔法はここを指しているのですよね?」
 
 今度は違う声。声が太いので男だろう。
 
 「まぁねぇ、教会にも居なかったしぃ?それで時間使っちゃったしぃ。あれ回収するだけなのにぃ」
 
 はぁ、とため息が聞こえる。
 
 「──探知魔法疲れんだよぉ、今日転移魔法一回失敗しちゃったからあんまり魔力余裕無いのに手間かけんなってぇの」
 
 (………転移魔法?)

 転移魔法はまだ誰も完成していないはずだが。
 とジークが疑問に思ったその後すぐに、小さく何かが割れる音がした。
 ジークは直感的に結界が割れた音だと察する。その予想を裏付けるように人の足音が近づいてきた。
 結界が割られたなら、悪意があるのは確定だ。不法侵入である。

 (一、…二、……四人か……)
 
 嫌な汗がにじみ出る。
 ジークは軍に入っていて剣の腕が良いとしても、それはこの歳での話であり精々大人二人にぎりぎり勝てるかくらいだ。

 それが四人。今は真夜中でありそこで出歩くということはそこそこの手練れと簡単に予想は付く。
 対してジークは短剣一本であり、魔法も使えなくは無いが攻撃魔法を室内で使うなどもっての他。いつも自分を守ってくれる防具は存在せず後ろにいる仲間もいない。
 それにもうひとつの部屋には無抵抗……いや、そのうちの二人は襲われる前に目覚めそうだが、それでも三人が寝ている。……教皇も一応プラスしておくなら四人だが。
 それを守りながら戦うのは無理だ。起こすのもそんな時間は無さそうである。勝算はほぼゼロに等しい。
 
 
 だが、それでも。
 
 
 ジークは短剣をしっかり握る。城に置いてきてしまった愛剣とは比べものにならないくらい軽い。
 しかし彼の目には光が合った。意思の強い瞳。
 彼は諦めてなどいなかった。
 
 「お邪魔しまぁ~…うわぁっ!?」
 「うおおおおおっ!!!」
 「セリーヌ様っ!?」
 
 ドアが開いたと同時に一番前にいた女に突進をした。女が驚いた顔をする。
 
 短剣が女の体に触れる前に──
 後ろにいた黒髪の男がいつの間にか前にいて、目に見えない速度で剣を振り、ジークの捨て身の攻撃は綺麗にいなされる。
 それでバランスを崩した彼は男の蹴りを受け身すら取れず、そのまま食らってしまう。
 
 「───がはっ」
 
 ジークは向こうの壁まで吹っ飛ばされ、血を吐く。蹴られた腹が痛くて仕方がない。それに壁に頭をぶつけて軽く脳震盪を起こしてしまっているようだ。
 
 「んー、じゃーそっちの子は頼んだよぉ、。終わったらこっち来てねー」
 
 あの女の声がどこか遠くに聞こえる。
 でも、声がどこから聞こえたかは何となく分かった。


 あれは、教皇の方だ。


 そして唐突に視界が暗くなり、痛かった腹部にさらに追い打ちをかけるように鋭い痛みが走った。自分の命がどんどん減っている感覚がする。
 痛みで一瞬だけ目が開く。ギラギラした剣が視界に入る。その時なにげにジークが見たのは──
 
 (…………!)
 
 「寝ろ」
 
 その記憶を最後に彼の意識は途切れた。
 
 
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