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もしもストーリー&ちょっとした小話
10月31日 トリック オア トリートっ!…て長くない?(後編)
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ハロウィン、後編です。
やっとハロウィンっぽくなってきました。
──────────────────
さて、それからあっという間に二週間が経過した。
今日は快晴に恵まれ、綺麗な太陽が顔を見せている。秋晴れである。
町ではジャックオランタンを作って飾ったり、何と仮装している人もちらほらいた。
ジャックオランタンのお陰でいつもはあまり売れない、かぼちゃの農家はウハウハらしい。
マスターはこんなことも見込んでいたのだろうか。
ならば評価を改めなければならないが、多分、 祭 り をやりたかっただけだろう。
マスターはただの祭り好きであるので。
実際のところ、祭りはそういう経済関係も絡んでくるのだ。
そういうのはお金を持っている貴族がお金を落としていかないとあまり意味はない。
何故なら平民は日々の生活でも結構カツカツな世帯は多いため、お祭り事でもお金を多くは使えないのだ。
まぁ、こんな小さな町ではそんなことはほとんど影響しない。変わりはしない。
やっぱり王都でやるくらい大きなものじゃないと駄目だろう。
ハロウィンのイベントの一つ、
『お菓子をくれなきゃいたずらするぞ ~子供たちはギルドに集まれ~』は夕方から行われるようだ。
……雑なネーミングである。
そして今は朝。
夕方まで暇なので何か軽めの依頼を受けようとコノハはギルドを訪れたのだが──
「まぁ!綺麗だわ~コノハちゃん!」
「これでハロウィンを満喫出来るわね!」
(………出来ないよ。ていうか何この状況)
───何故、いわゆる仮装をしているのだろうか。
コノハは思わず遠い目をしてしまった。
──ギルドを尋ねた、までは良かった。
それで、依頼の貼ってあるボードに近づいた時に、
「まぁまぁ居たわよ、姉さんっ」
「えぇえぇ捕まえるわよ、リリーっ」
と、あれよあれよという間にその二人に捕まって、どこかの部屋に連れていかれ、あっという間に着せ替えられて、今に至る。
どうしてこうなった。
姉のマリーと、妹のリリーの話を聞くと、姉妹で服屋を営んでいるらしい。
二人ともそっくりで、若々しく、二十代くらいにみえる。
萌黄色の髪は全く同じで瞳の色がマリーが碧、リリーが紫と、これで身長がマリーの方が高くなければほとんど見分けがつかない。
二人は知る人ぞ知る腕利きの服屋らしく、マスターに頼まれて、コノハの仮装の服を作っていたそうだ。
コノハは二人のことは知らなかったが。
ちなみに今の格好は『不思議の国のアリス』というキャラらしい。
ふわふわと重さを感じさせないような膝上の青と白のスカートが揺れ、でもだからといってシンプルに見せない。
そして映えるように赤いリボンが蝶ネクタイの要領でつけられている。
……無駄に凝っている。
もう一度言う、どうしてこうなった。
これもマスターに頼まれたデザインらしい。
そもそも『不思議の国のアリス』とやらを皆知らない。
知ってるのはマスターだけだったので、そのデザインも考えたらしい。
(………何やってるんだよ、マスター)
ちなみに、マジックボックスなどのいつもの服は全て収納魔法に入れてある。
盗られたらたまったものでは無いので。
恐らく、コノハに言ってしまえば絶対来ないと思ったから、言わなかったのだろう。
朝ギルドに来るのは彼女の日課のようなものなので、今日来ると予想するのは簡単だ。
マスターの予想は当たりだ。
言われてたら絶対来なかった。
コノハが諦めてはぁ、とため息をついたとき、見計らったように扉がノックされる。
マリーの「どうぞ~」と言う声が聞こえたのだろう、それが開く。
「お、やっぱりいい感じになっ……ゴフッ!?」
のこのこやって来たマスターにコノハは全力でマスターをストレートで殴った。
鳩尾に面白いくらいにクリーンヒットした。
その後、鳩尾辺りを擦るマスターは結局部屋に入ってきた。
大分フラフラしているが。
ソファにドカッと座って、「あー、いたたっ」と言ってちらりとコノハをわざとらしく見てくる。
そんなことされても治療魔法を掛ける気なんてさらさら無い。
死なない程度だから大丈夫だろう。
ツーンと、知るかと言わんばかりにコノハがそっぽを向く。
マスターはその様子を見てコノハの魔法を諦めて、その辺にあった布を魔法で濡らして鳩尾に当てて冷やす。
マスターは治療系の魔法は使えないのだ。
そしてはぁ、とため息をついて。
「流石にあれは酷くないか……?」
「酷くない」
コノハに即答されていた。
彼女にとってはこんなの想定外である。
ハロウィンにはお菓子を貰いに来ただけなのだ。
そして思わぬところから援護射撃である。
「そーですわっ!乙女の着替えの部屋に入っちゃだめですっ!」
「いや、ノックしたし」
「そうそう、姉さんの言う通りですわっ!ノックしても、乙女の準備は色々あるのですよっ!殿方は引っ込んで下さりませっ!!」
「一応、俺関係者……」
「「殿方は引っ込んで下さりませっ!!」」
「……はい」
(おお、お姉さんたち息ぴったりっ!)
コノハはすごすご出ていくマスターを見ながらそんなことを思った。
マスターはまだ結婚してないが、したらきっと尻に敷かれるタイプだろう。
「ではっ、次はお化粧ですわっ」
「こちらへどうぞっ」
「──え?まだやるんですかっ!?」
「ええ、勿論ですわよっ!」
その矛先が自分に向いてたじたじのコノハだった。
(あー…今日依頼受けようと思ってたのに…)
今日の予定はまるまる変えなければならないようだ。
◇◆◇
しばらくして今度は部屋の内側から扉が開く。
「おー、どうなっ…………っ!!」
マスターはあの後ずっと待っていたらしく、ガチャと開いた音で気づいてこちらを向く。
その彼の声は途中で不自然に途切れた。
「…えっと、どう……かなぁ?」
出てきたコノハは、『不思議の国のアリス』そのものだった。
ただ、銀髪はそのままにしてあるが。
そもそも、コノハは周りが認める美少女なのである。
本人は全く気付いていないが。
こんなことして周りが見惚れない訳がなかった。
そして、なんだなんだとやって来た冒険者や受付嬢も彼女を見て固まった。
謎の静寂が流れる。
ちなみに、コノハはその時7歳である。
マスターはロリコンではない。多分。
「…………か、可愛いっ!!!」
誰かが言ったのを皮切りにまた喧騒が戻って来た。
コノハは、さっきの謎の静寂に首を傾げ、後ろにいる姉妹は得意気である。
すぐに三人は人に取り囲まれた。
そうして、はっ、と我にかえったマスターは
「イメージ通りだっ!」
と、椅子を蹴っ飛ばすくらいの勢いで叫んだ。
コノハは人が一杯周りにいることにちょっとびっくりして、マスターの叫び声にもっとびっくりした。
そのマスターの言葉を聞いた受付嬢が、一瞬ポカンとして、すぐにすごい剣幕になってマスターに詰め寄った。
「もっと言うことあるでしょう、マスターっ!!」
「え?なんで俺怒られてるの!?」
「女の子がおめかししてたら、まず、誉めなさいっ!これだから結婚出来ないんですよっ!」
「えっ!?」
「ほら、早くっ!」
受付嬢の怒りにビビったのか、空気を読んだのか、多分その両方だが、コノハの周りにあった人垣が割れた。
マスターは受付嬢の剣幕に押されて、コノハの前に立つ。
「………えっと、似合ってるぞ」
「………あ、ありがとう…」
改めて言われたので、周りに言われていたがそれ以上に恥ずかしかった。
顔を赤くして下を向くコノハ。
ガリガリと頭を掻くマスター。
端から見ると、仲のよい父親と娘である。
そのマスターのうしろで、受付嬢は「ふふふ、コノハちゃん可愛いっ!可愛すぎるっ!」と悶えていたのに二人は気づかなかった。
………なんかこれが全てを台無しにしているような気がするのは気のせいだろうか……
「ん、じゃあ、仮装大会出場しろよ、コノハ。もうエントリーはしといたから」
「えっ!?」
唐突のマスターの爆弾発言に、若干まだ赤かった顔は一気に驚いた表情となった。
そう、このハロウィンのメインイベントは、『仮装大会』なのである。
朝から『お菓子をくれなきゃいたずらするぞ』が始まるまで行われるものだ。
そして、お客さんの投票で決まる優勝者には籠一杯のお菓子と子供にお菓子を渡す大役が手に入る。
……後半は興味が無いが、お菓子はいいな、とは思った。
思っただけである。
それにコノハはまだ子供なので、出なくても貰えるからお菓子がほしいだけのコノハは出る必要がない。
ふと、二週間前、マスターがにやりと笑ったことを思い出した。
きっとこの時点でこれを思い付いていたのだろう。
マスターにとっては仮装大会の出場者が多いことは祭りが盛り上がることに、繋がるからだ。
……コノハが出ることを町の住民に期待され、コノハ信仰者が耐え兼ねて、マスターに直談判しに行ったことなど、本人が知ることの無い事実である。
……それに出場者が増えるからではなく、美少女が出る方が祭りは盛り上がるからだ。
「………私を売ったね、マスターっ!!!」
「その方が盛り上がるだろう?」
「…………」
もう、全てを諦めたコノハだった。
出場した仮装大会はコノハが二位と大差を付けてぶっちぎりで優勝した。
その後の『お菓子をくれなきゃいたずらするぞ』では子供が子供にお菓子をあげるという、なんだか謎の光景だったが、コノハは優勝したお陰で大量のお菓子が手に入ったので、そんなことには気づかなかった。
そしてマスターが予想した通り、祭りは例年の比じゃない程に大盛り上がりを見せた。
だが、裏ではコノハを見た人が彼女を攫おうと画策したり、
『お菓子をくれなきゃいたずらするぞ』で子供に混じって貰おうとする大人がいたりと、不穏な動きがあった。
しかし、それを未然に防いだヒーローたちがいた。
「コノハ様を攫おうとするなど、万死に値するっ!!」
※殺してません。
「コノハ様に近づこうとするなど……覚悟は出来てるんだろうなぁ?」
※殺してません。
「お前、コノハ様に何をしようとしてるんだ?……お前など、コノハ様に触れることすら許されてないぞっ!!」
※殺してません。
そんなこんなで、特にトラブルも無く、ハロウィンは無事終わりましたとさ。
……………多分。きっと。
***────────────***
ハロウィン。
元々は秋の収穫を祝い、災いなどの悪霊を追い出すための宗教的な祭り。
今では、その意味はほぼほぼなく、ジャック・オ・ランタンを作ったり、お化けに扮した子供が『トリック オア トリート』と言って、お菓子を貰うような祭りとなっている。
なお、ハロウィンが10月31日である理由は、その夜を夏の終わり、冬の始まり、と考えるからであって、冬は悪霊などが多く出てくる為にこのようなことをしたと考えられている。……悪霊退散っ!!!みたいな。
………と、まぁ、昔読んだ本(題名は覚えてない)から覚えているものを適当に抜粋してみました。
気になる方はネットで調べて下さいませ。
やっとハロウィンっぽくなってきました。
──────────────────
さて、それからあっという間に二週間が経過した。
今日は快晴に恵まれ、綺麗な太陽が顔を見せている。秋晴れである。
町ではジャックオランタンを作って飾ったり、何と仮装している人もちらほらいた。
ジャックオランタンのお陰でいつもはあまり売れない、かぼちゃの農家はウハウハらしい。
マスターはこんなことも見込んでいたのだろうか。
ならば評価を改めなければならないが、多分、 祭 り をやりたかっただけだろう。
マスターはただの祭り好きであるので。
実際のところ、祭りはそういう経済関係も絡んでくるのだ。
そういうのはお金を持っている貴族がお金を落としていかないとあまり意味はない。
何故なら平民は日々の生活でも結構カツカツな世帯は多いため、お祭り事でもお金を多くは使えないのだ。
まぁ、こんな小さな町ではそんなことはほとんど影響しない。変わりはしない。
やっぱり王都でやるくらい大きなものじゃないと駄目だろう。
ハロウィンのイベントの一つ、
『お菓子をくれなきゃいたずらするぞ ~子供たちはギルドに集まれ~』は夕方から行われるようだ。
……雑なネーミングである。
そして今は朝。
夕方まで暇なので何か軽めの依頼を受けようとコノハはギルドを訪れたのだが──
「まぁ!綺麗だわ~コノハちゃん!」
「これでハロウィンを満喫出来るわね!」
(………出来ないよ。ていうか何この状況)
───何故、いわゆる仮装をしているのだろうか。
コノハは思わず遠い目をしてしまった。
──ギルドを尋ねた、までは良かった。
それで、依頼の貼ってあるボードに近づいた時に、
「まぁまぁ居たわよ、姉さんっ」
「えぇえぇ捕まえるわよ、リリーっ」
と、あれよあれよという間にその二人に捕まって、どこかの部屋に連れていかれ、あっという間に着せ替えられて、今に至る。
どうしてこうなった。
姉のマリーと、妹のリリーの話を聞くと、姉妹で服屋を営んでいるらしい。
二人ともそっくりで、若々しく、二十代くらいにみえる。
萌黄色の髪は全く同じで瞳の色がマリーが碧、リリーが紫と、これで身長がマリーの方が高くなければほとんど見分けがつかない。
二人は知る人ぞ知る腕利きの服屋らしく、マスターに頼まれて、コノハの仮装の服を作っていたそうだ。
コノハは二人のことは知らなかったが。
ちなみに今の格好は『不思議の国のアリス』というキャラらしい。
ふわふわと重さを感じさせないような膝上の青と白のスカートが揺れ、でもだからといってシンプルに見せない。
そして映えるように赤いリボンが蝶ネクタイの要領でつけられている。
……無駄に凝っている。
もう一度言う、どうしてこうなった。
これもマスターに頼まれたデザインらしい。
そもそも『不思議の国のアリス』とやらを皆知らない。
知ってるのはマスターだけだったので、そのデザインも考えたらしい。
(………何やってるんだよ、マスター)
ちなみに、マジックボックスなどのいつもの服は全て収納魔法に入れてある。
盗られたらたまったものでは無いので。
恐らく、コノハに言ってしまえば絶対来ないと思ったから、言わなかったのだろう。
朝ギルドに来るのは彼女の日課のようなものなので、今日来ると予想するのは簡単だ。
マスターの予想は当たりだ。
言われてたら絶対来なかった。
コノハが諦めてはぁ、とため息をついたとき、見計らったように扉がノックされる。
マリーの「どうぞ~」と言う声が聞こえたのだろう、それが開く。
「お、やっぱりいい感じになっ……ゴフッ!?」
のこのこやって来たマスターにコノハは全力でマスターをストレートで殴った。
鳩尾に面白いくらいにクリーンヒットした。
その後、鳩尾辺りを擦るマスターは結局部屋に入ってきた。
大分フラフラしているが。
ソファにドカッと座って、「あー、いたたっ」と言ってちらりとコノハをわざとらしく見てくる。
そんなことされても治療魔法を掛ける気なんてさらさら無い。
死なない程度だから大丈夫だろう。
ツーンと、知るかと言わんばかりにコノハがそっぽを向く。
マスターはその様子を見てコノハの魔法を諦めて、その辺にあった布を魔法で濡らして鳩尾に当てて冷やす。
マスターは治療系の魔法は使えないのだ。
そしてはぁ、とため息をついて。
「流石にあれは酷くないか……?」
「酷くない」
コノハに即答されていた。
彼女にとってはこんなの想定外である。
ハロウィンにはお菓子を貰いに来ただけなのだ。
そして思わぬところから援護射撃である。
「そーですわっ!乙女の着替えの部屋に入っちゃだめですっ!」
「いや、ノックしたし」
「そうそう、姉さんの言う通りですわっ!ノックしても、乙女の準備は色々あるのですよっ!殿方は引っ込んで下さりませっ!!」
「一応、俺関係者……」
「「殿方は引っ込んで下さりませっ!!」」
「……はい」
(おお、お姉さんたち息ぴったりっ!)
コノハはすごすご出ていくマスターを見ながらそんなことを思った。
マスターはまだ結婚してないが、したらきっと尻に敷かれるタイプだろう。
「ではっ、次はお化粧ですわっ」
「こちらへどうぞっ」
「──え?まだやるんですかっ!?」
「ええ、勿論ですわよっ!」
その矛先が自分に向いてたじたじのコノハだった。
(あー…今日依頼受けようと思ってたのに…)
今日の予定はまるまる変えなければならないようだ。
◇◆◇
しばらくして今度は部屋の内側から扉が開く。
「おー、どうなっ…………っ!!」
マスターはあの後ずっと待っていたらしく、ガチャと開いた音で気づいてこちらを向く。
その彼の声は途中で不自然に途切れた。
「…えっと、どう……かなぁ?」
出てきたコノハは、『不思議の国のアリス』そのものだった。
ただ、銀髪はそのままにしてあるが。
そもそも、コノハは周りが認める美少女なのである。
本人は全く気付いていないが。
こんなことして周りが見惚れない訳がなかった。
そして、なんだなんだとやって来た冒険者や受付嬢も彼女を見て固まった。
謎の静寂が流れる。
ちなみに、コノハはその時7歳である。
マスターはロリコンではない。多分。
「…………か、可愛いっ!!!」
誰かが言ったのを皮切りにまた喧騒が戻って来た。
コノハは、さっきの謎の静寂に首を傾げ、後ろにいる姉妹は得意気である。
すぐに三人は人に取り囲まれた。
そうして、はっ、と我にかえったマスターは
「イメージ通りだっ!」
と、椅子を蹴っ飛ばすくらいの勢いで叫んだ。
コノハは人が一杯周りにいることにちょっとびっくりして、マスターの叫び声にもっとびっくりした。
そのマスターの言葉を聞いた受付嬢が、一瞬ポカンとして、すぐにすごい剣幕になってマスターに詰め寄った。
「もっと言うことあるでしょう、マスターっ!!」
「え?なんで俺怒られてるの!?」
「女の子がおめかししてたら、まず、誉めなさいっ!これだから結婚出来ないんですよっ!」
「えっ!?」
「ほら、早くっ!」
受付嬢の怒りにビビったのか、空気を読んだのか、多分その両方だが、コノハの周りにあった人垣が割れた。
マスターは受付嬢の剣幕に押されて、コノハの前に立つ。
「………えっと、似合ってるぞ」
「………あ、ありがとう…」
改めて言われたので、周りに言われていたがそれ以上に恥ずかしかった。
顔を赤くして下を向くコノハ。
ガリガリと頭を掻くマスター。
端から見ると、仲のよい父親と娘である。
そのマスターのうしろで、受付嬢は「ふふふ、コノハちゃん可愛いっ!可愛すぎるっ!」と悶えていたのに二人は気づかなかった。
………なんかこれが全てを台無しにしているような気がするのは気のせいだろうか……
「ん、じゃあ、仮装大会出場しろよ、コノハ。もうエントリーはしといたから」
「えっ!?」
唐突のマスターの爆弾発言に、若干まだ赤かった顔は一気に驚いた表情となった。
そう、このハロウィンのメインイベントは、『仮装大会』なのである。
朝から『お菓子をくれなきゃいたずらするぞ』が始まるまで行われるものだ。
そして、お客さんの投票で決まる優勝者には籠一杯のお菓子と子供にお菓子を渡す大役が手に入る。
……後半は興味が無いが、お菓子はいいな、とは思った。
思っただけである。
それにコノハはまだ子供なので、出なくても貰えるからお菓子がほしいだけのコノハは出る必要がない。
ふと、二週間前、マスターがにやりと笑ったことを思い出した。
きっとこの時点でこれを思い付いていたのだろう。
マスターにとっては仮装大会の出場者が多いことは祭りが盛り上がることに、繋がるからだ。
……コノハが出ることを町の住民に期待され、コノハ信仰者が耐え兼ねて、マスターに直談判しに行ったことなど、本人が知ることの無い事実である。
……それに出場者が増えるからではなく、美少女が出る方が祭りは盛り上がるからだ。
「………私を売ったね、マスターっ!!!」
「その方が盛り上がるだろう?」
「…………」
もう、全てを諦めたコノハだった。
出場した仮装大会はコノハが二位と大差を付けてぶっちぎりで優勝した。
その後の『お菓子をくれなきゃいたずらするぞ』では子供が子供にお菓子をあげるという、なんだか謎の光景だったが、コノハは優勝したお陰で大量のお菓子が手に入ったので、そんなことには気づかなかった。
そしてマスターが予想した通り、祭りは例年の比じゃない程に大盛り上がりを見せた。
だが、裏ではコノハを見た人が彼女を攫おうと画策したり、
『お菓子をくれなきゃいたずらするぞ』で子供に混じって貰おうとする大人がいたりと、不穏な動きがあった。
しかし、それを未然に防いだヒーローたちがいた。
「コノハ様を攫おうとするなど、万死に値するっ!!」
※殺してません。
「コノハ様に近づこうとするなど……覚悟は出来てるんだろうなぁ?」
※殺してません。
「お前、コノハ様に何をしようとしてるんだ?……お前など、コノハ様に触れることすら許されてないぞっ!!」
※殺してません。
そんなこんなで、特にトラブルも無く、ハロウィンは無事終わりましたとさ。
……………多分。きっと。
***────────────***
ハロウィン。
元々は秋の収穫を祝い、災いなどの悪霊を追い出すための宗教的な祭り。
今では、その意味はほぼほぼなく、ジャック・オ・ランタンを作ったり、お化けに扮した子供が『トリック オア トリート』と言って、お菓子を貰うような祭りとなっている。
なお、ハロウィンが10月31日である理由は、その夜を夏の終わり、冬の始まり、と考えるからであって、冬は悪霊などが多く出てくる為にこのようなことをしたと考えられている。……悪霊退散っ!!!みたいな。
………と、まぁ、昔読んだ本(題名は覚えてない)から覚えているものを適当に抜粋してみました。
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