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もしもストーリー&ちょっとした小話
10月31日 トリック オア トリートっ!…て長くない?(前編)
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※これは本編とは関係ありません。
※コノハのいる世界にハロウィンという行事はありません。
※なお、これは竜が来る前の話です。
※予想外に長くなりました。『ハロウィン』がテーマですが、ハロウィンらしくなってくるのは後編からです。
※ちなみに題名はそこまで関係ありません。
───────────────
「……仮装大会ねぇ」
コノハはマスターに渡されたビラを見ながらそう呟いた。
真夜中をイメージさせる藍の下地にでかでかと、赤く太文字で『ハッピーハロウィン』と書かれている。
マスターはこの手の祭が大好きなので、そろそろ来るかと思っていたが、思っていただけだ。
出たいとかそういうのは全く思っていない。
それに銀髪という珍しい髪を持っている少女にとって、依頼の時に魔法で自分の姿を変えることはよくあることだ。
別人になるくらい、簡単に出来る。
……普通は目の色を変える程度で魔力が切れるが。
別人とかもっての他だが。
閑話休題。
ということでコノハは例によって全く興味が湧かなかった。
………マスターにあの事を言われるまでは。
コノハはハロウィンを町に広めているマスターを魔力探査で見つけだし、ビラを突き返す。
こういう祭事の時、基本的にギルドマスターが実行のトップとなり、仕切るのが通例である為、マスターは町を駆け回って宣伝をしているのだ。
彼はまだハロウィンまで二週間もあるのに、既に吸血鬼の格好をしていた。
気合十分なことは良いことだとは思うが、コノハには関係ない。
ビラを配るのは止めて、長い真っ黒なマントを翻し、コノハの方を見た彼は「やっぱりか」という表情をした。
「私は出ないからね、マスター」
「……そうか、でも残念だなぁ~」
そうわざとらしく語尾を伸ばすマスターにコノハは首をかしげる。
マスターはニヤニヤ意味深に笑い、またコノハが突き返したビラを受けとる気配が無いので一旦手を引っ込めておく。
コノハはキョトンとした顔で聞き返した。
「…何が?」
「お前、『トリック オア トリート』って知ってるか?」
「……とりっく、おあ、とりーと?」
「まさか知らないのかよ……」
去年はハロウィンの時期、長期の依頼が入っていたので、元々この町には居らず、この『ハロウィン』とかいう仮装大会も後々人伝に聞いただけなのでコノハはよく知らなかった。
興味も無かったので、その人の話も大分聞き流した覚えがある。
無論、その人とはマスターのことである。
無言で頭を抱えるマスターに「吸血鬼が頭を抱えてるよ、滑稽だなぁ」と割りと失礼なことを思いつつ、その『とりっく、おあ、とりーと』について聞いてみた。
「……それはなぁ、異国では『お菓子をくれなきゃいたずらするぞ』っていう意味らしい」
「………?お菓子をくれなきゃいたずらしなきゃいけないの?」
「注目はそっちじゃねぇよ。『いたずら』じゃなくて『お菓子』の方な。
子供たちは近所の家を回って、『トリック オア トリート』って言うんだ。そうすると大人はいたずらされたら堪ったものじゃないからって、子供たちにお菓子をあげるっていう、そういう遊びだな」
「何で?」
「そういうものなんだよ。だから子供たちがお化けなんかに仮装しておくんだ。ハロウィンは死者の祭でもあるからな」
へぇ。とコノハは呟いた。
ハロウィンはただの仮装大会では無かったらしい。
そして、マスターがニヤニヤしている理由もわかった。
コノハはため息をついた。
「…私が行けばお菓子が貰えるってことを言いたいんでしょ」
「だってお前、お菓子好きだろう?」
「うん」
「なら、お前もやるんじゃないかなって思って」
まぁ、正直、お菓子をもらえるのであれば行ってもいいかもしれない。
だが、ここはサンチェルド王国の端の町。
そこまで栄えている訳でもないし、お菓子などという、高額の砂糖を大量に使う贅沢品なんて存在するだろうか?
そもそも、あったとしても無料で配るとはどんな贅沢だ。
コノハは依頼ついでに買うことがたまにあったため食べたことがあるに過ぎず、普通、平民の子供が食べられる物じゃない。
お菓子なんて、貴族の食べるものである。
「……ま、ここはお菓子なんて無いがな。いつもなら貰えるのは収穫したものだろう。野菜とか」
「……それ、わざといってるよね?」
「何のことだ?」
『いつもなら』をわざと強調させているマスターにやれやれと思いながら付き合うコノハ。
こういうのは慣れっこなのだ。
気の合うコンビである。
「…いつもなら、って?」
そして、「よくぞ聞いてくれました!」と言わんばかりに──ばかりではなく、本当に言ったが──ドヤ顔でどこかの演劇のように話し出そうというマスターを、
「あ、なが~い前置きはいらないから」
コノハが冷めた目で止めた。
コノハに釘を刺されたマスターが、少し見ためテンションの下がったマスターが、話したことは、それでも長かった。
曰く、
盗賊に襲われている商人の馬車を通りすがりの冒険者が助けた。
すると、商人が砂糖をくれた。
そして、それがマスターに回ってきた。
これだけだと、「はっ?」な話なので、もう少し補足するとすれば、
どうやらその襲われていた商人は、そこそこ裕福だったらしく、砂糖やらなんやらと、平民にとっては贅沢品の数々を、とある貴族に持ってくるよう頼まれていたらしい。
そして、そこを盗賊に狙われて、襲われていた。
その後、冒険者が助けてくれたが、砂糖が入っていたいくつかの樽のひとつが、さっきの争いで相手側の風魔法により、樽としての役目を果たせなくなり、砂糖が半分以上周りにこぼれていた。
他の物はこれまたお高めの魔道具で強度を上げ守っていた為、特に被害はなかったが、その砂糖の樽の魔道具だけが襲撃の際の揺れで、当り所が悪く、壊れてしまっていたところに追い打ちがかかったのだ。
これでは貴族様などには売れないし、助けてくれた恩もあるため、その商人は冒険者にその砂糖の樽を無料で譲ってくれたそうだ。
その冒険者はここの町のギルド──つまりマスターがトップの所を拠点としており、マスターがこの時期になって、ハロウィンだの、お菓子だ、なんだの呟いていたのを思い出し、砂糖がこぼれないよう気をつけながら、急いで持ち帰りマスターに渡した。
と、いうことらしい。
コノハはその話を聞いて、正直絶句した。
有り得ない、と思った。
「……思ったこと言ってもいい?」
「ん?なんだ?」
不思議そうなマスターに、コノハはすぅっと息を吸い込むと、
「商人が砂糖という高級品を例え樽が壊れていたとしてもタダであげるとかおかしくないっ!?なんでっ!?商人って腹黒のケチなお金なんてすこっしも無駄にしたくない、タダであげるとか絶対やだ。な奴らだよっ!?タダとか、彼らが一番嫌うことだよっ!?その商人何なのっ!?善人なのっ!?
それに、冒険者もどうなのっ!?高級品の砂糖をマスターに渡すとか、自分で使えばいいのにっ、なんでっ!?使えないなら、売ればいいのにっ!?お礼なんでしょっ!?なら、自分の物にすればいいのにっ!!善人なのっ!?こっちも善人なのっ!?
──世の中平和だねっ!?
あ、でも、盗賊いる時点で平和じゃないかっ!!」
言うことが多すぎて、はぁはぁと肩で息をするコノハ。
別にコノハに偏見があるわけではない。
商人に優しい人がいるとは知っているし、冒険者に思いやりのある人がいることも知っている。
─だが、ちょっと登場人物が善人過ぎた。
「───とりあえずお前、落ち着け」
マスターが苦笑いでなだめる程、コノハは荒れていた。
彼がこういってからコノハが現実に戻ってくるまで、五分は要した。
その間、二人は周りから奇怪な目で見られていた。
◇◆◇
「───で、その砂糖は?」
やっと戻って来たコノハは、マスターにまずそれを聞いた。
とりあえず、二人は善人なんだと結論付けて脳の隅に追いやった。
マスターは少し疲れた顔を見せたが、そんなことは気にしない。
誰のせいでこんなことになったのかとか考えない。
「知り合いの料理人に頼んでその砂糖を使って、お菓子を作ってもらう予定だ」
彼はギルドマスターという地位故に色々と知り合いが多い。
あるときには、知り合いと言って、どこかの貴族を連れてきたこともあった。
あの時は何かと思った。
やらかしたのかと思って結構焦った。
あのあと、八つ当りのようにマスターと模擬戦をして軽くコテンパンにした。
あの時こんな吸血鬼の格好をしていれば長すぎるマントとか、燃やしてしまったのに。
再び閑話休題。
コノハは今更ながら周りの様子に気づいて、場所変えたいなと思い、マスターをさりげなく促しておく。
その様子は知らない旅人や冒険者たちが遠目から見れば親子のように見えるだろう。
まぁ、二人はいい意味でも悪い意味でも有名人なので住民は無理だが。
コノハは結局受け取られなかったビラを片付けながら横に並ぶマスターに尋ねた。
「それって、タダで貰えるの?」
「勿論。そうに決まってるだろう、『ハロウィン』なんだから」
そう常識のように言うマスターにコノハは呆れ顔を浮かべる。
そして、その格好でニッと笑うのもなんかむかつく。
あ、違う。長すぎるマントがヒラヒラしてて隣で歩きづらいんだ。
コノハはマスターから一歩ほど距離をとって歩き出す。
「……そもそもその『ハロウィン』を聞いたことがいままで無かったんだけど。……『七夕』だってそうだよ?マスター、そういう情報どこか」
「コノハあんなところに串カツがあるぞ食べるか?」
「……………………」
わざとだ。
わざとやってる。
割り込む時は基本聞かれたくないことだ。
マスターは「聞かれる前に話題を強引に変える」をよく使う。
そしてこうなったらどうなっても教えてはくれない。
何度か試したが、結局話を無理矢理逸らされてしまう。
さすが、マスターの地位は伊達じゃない。
だから、探ることは止めた。
めんどくさいし。そこまで知りたい訳でもない。
「………串カツよりも、チキン食べたいな。ドリンクも追加で!」
だが、これくらいは許されるだろう。
コノハはさっきのマスターの笑顔よりもずっと綺麗な笑顔を見せた。
それこそ、ニッコリと。効果音が付きそうなくらいで。
周りが彼女の笑顔を見て男女問わず、顔を赤くする中、当の向けられたマスターはげっそりと生気を吸いとられたような顔をしながら、
「……分かったよ」
嫌々返事をした。
そしてその後、コノハはマスターにチキンとブドウジュース、魔道具を作るための材料、それから結局串カツも買ってもらった。
後半、「これ、コイツの買い出しに付き合わされてないか……」とマスターが言っていたが無視する。
そんなこと無い。
無いったら無いのだ。
そして食べ物はコノハが全て美味しく頂きました。
※コノハのいる世界にハロウィンという行事はありません。
※なお、これは竜が来る前の話です。
※予想外に長くなりました。『ハロウィン』がテーマですが、ハロウィンらしくなってくるのは後編からです。
※ちなみに題名はそこまで関係ありません。
───────────────
「……仮装大会ねぇ」
コノハはマスターに渡されたビラを見ながらそう呟いた。
真夜中をイメージさせる藍の下地にでかでかと、赤く太文字で『ハッピーハロウィン』と書かれている。
マスターはこの手の祭が大好きなので、そろそろ来るかと思っていたが、思っていただけだ。
出たいとかそういうのは全く思っていない。
それに銀髪という珍しい髪を持っている少女にとって、依頼の時に魔法で自分の姿を変えることはよくあることだ。
別人になるくらい、簡単に出来る。
……普通は目の色を変える程度で魔力が切れるが。
別人とかもっての他だが。
閑話休題。
ということでコノハは例によって全く興味が湧かなかった。
………マスターにあの事を言われるまでは。
コノハはハロウィンを町に広めているマスターを魔力探査で見つけだし、ビラを突き返す。
こういう祭事の時、基本的にギルドマスターが実行のトップとなり、仕切るのが通例である為、マスターは町を駆け回って宣伝をしているのだ。
彼はまだハロウィンまで二週間もあるのに、既に吸血鬼の格好をしていた。
気合十分なことは良いことだとは思うが、コノハには関係ない。
ビラを配るのは止めて、長い真っ黒なマントを翻し、コノハの方を見た彼は「やっぱりか」という表情をした。
「私は出ないからね、マスター」
「……そうか、でも残念だなぁ~」
そうわざとらしく語尾を伸ばすマスターにコノハは首をかしげる。
マスターはニヤニヤ意味深に笑い、またコノハが突き返したビラを受けとる気配が無いので一旦手を引っ込めておく。
コノハはキョトンとした顔で聞き返した。
「…何が?」
「お前、『トリック オア トリート』って知ってるか?」
「……とりっく、おあ、とりーと?」
「まさか知らないのかよ……」
去年はハロウィンの時期、長期の依頼が入っていたので、元々この町には居らず、この『ハロウィン』とかいう仮装大会も後々人伝に聞いただけなのでコノハはよく知らなかった。
興味も無かったので、その人の話も大分聞き流した覚えがある。
無論、その人とはマスターのことである。
無言で頭を抱えるマスターに「吸血鬼が頭を抱えてるよ、滑稽だなぁ」と割りと失礼なことを思いつつ、その『とりっく、おあ、とりーと』について聞いてみた。
「……それはなぁ、異国では『お菓子をくれなきゃいたずらするぞ』っていう意味らしい」
「………?お菓子をくれなきゃいたずらしなきゃいけないの?」
「注目はそっちじゃねぇよ。『いたずら』じゃなくて『お菓子』の方な。
子供たちは近所の家を回って、『トリック オア トリート』って言うんだ。そうすると大人はいたずらされたら堪ったものじゃないからって、子供たちにお菓子をあげるっていう、そういう遊びだな」
「何で?」
「そういうものなんだよ。だから子供たちがお化けなんかに仮装しておくんだ。ハロウィンは死者の祭でもあるからな」
へぇ。とコノハは呟いた。
ハロウィンはただの仮装大会では無かったらしい。
そして、マスターがニヤニヤしている理由もわかった。
コノハはため息をついた。
「…私が行けばお菓子が貰えるってことを言いたいんでしょ」
「だってお前、お菓子好きだろう?」
「うん」
「なら、お前もやるんじゃないかなって思って」
まぁ、正直、お菓子をもらえるのであれば行ってもいいかもしれない。
だが、ここはサンチェルド王国の端の町。
そこまで栄えている訳でもないし、お菓子などという、高額の砂糖を大量に使う贅沢品なんて存在するだろうか?
そもそも、あったとしても無料で配るとはどんな贅沢だ。
コノハは依頼ついでに買うことがたまにあったため食べたことがあるに過ぎず、普通、平民の子供が食べられる物じゃない。
お菓子なんて、貴族の食べるものである。
「……ま、ここはお菓子なんて無いがな。いつもなら貰えるのは収穫したものだろう。野菜とか」
「……それ、わざといってるよね?」
「何のことだ?」
『いつもなら』をわざと強調させているマスターにやれやれと思いながら付き合うコノハ。
こういうのは慣れっこなのだ。
気の合うコンビである。
「…いつもなら、って?」
そして、「よくぞ聞いてくれました!」と言わんばかりに──ばかりではなく、本当に言ったが──ドヤ顔でどこかの演劇のように話し出そうというマスターを、
「あ、なが~い前置きはいらないから」
コノハが冷めた目で止めた。
コノハに釘を刺されたマスターが、少し見ためテンションの下がったマスターが、話したことは、それでも長かった。
曰く、
盗賊に襲われている商人の馬車を通りすがりの冒険者が助けた。
すると、商人が砂糖をくれた。
そして、それがマスターに回ってきた。
これだけだと、「はっ?」な話なので、もう少し補足するとすれば、
どうやらその襲われていた商人は、そこそこ裕福だったらしく、砂糖やらなんやらと、平民にとっては贅沢品の数々を、とある貴族に持ってくるよう頼まれていたらしい。
そして、そこを盗賊に狙われて、襲われていた。
その後、冒険者が助けてくれたが、砂糖が入っていたいくつかの樽のひとつが、さっきの争いで相手側の風魔法により、樽としての役目を果たせなくなり、砂糖が半分以上周りにこぼれていた。
他の物はこれまたお高めの魔道具で強度を上げ守っていた為、特に被害はなかったが、その砂糖の樽の魔道具だけが襲撃の際の揺れで、当り所が悪く、壊れてしまっていたところに追い打ちがかかったのだ。
これでは貴族様などには売れないし、助けてくれた恩もあるため、その商人は冒険者にその砂糖の樽を無料で譲ってくれたそうだ。
その冒険者はここの町のギルド──つまりマスターがトップの所を拠点としており、マスターがこの時期になって、ハロウィンだの、お菓子だ、なんだの呟いていたのを思い出し、砂糖がこぼれないよう気をつけながら、急いで持ち帰りマスターに渡した。
と、いうことらしい。
コノハはその話を聞いて、正直絶句した。
有り得ない、と思った。
「……思ったこと言ってもいい?」
「ん?なんだ?」
不思議そうなマスターに、コノハはすぅっと息を吸い込むと、
「商人が砂糖という高級品を例え樽が壊れていたとしてもタダであげるとかおかしくないっ!?なんでっ!?商人って腹黒のケチなお金なんてすこっしも無駄にしたくない、タダであげるとか絶対やだ。な奴らだよっ!?タダとか、彼らが一番嫌うことだよっ!?その商人何なのっ!?善人なのっ!?
それに、冒険者もどうなのっ!?高級品の砂糖をマスターに渡すとか、自分で使えばいいのにっ、なんでっ!?使えないなら、売ればいいのにっ!?お礼なんでしょっ!?なら、自分の物にすればいいのにっ!!善人なのっ!?こっちも善人なのっ!?
──世の中平和だねっ!?
あ、でも、盗賊いる時点で平和じゃないかっ!!」
言うことが多すぎて、はぁはぁと肩で息をするコノハ。
別にコノハに偏見があるわけではない。
商人に優しい人がいるとは知っているし、冒険者に思いやりのある人がいることも知っている。
─だが、ちょっと登場人物が善人過ぎた。
「───とりあえずお前、落ち着け」
マスターが苦笑いでなだめる程、コノハは荒れていた。
彼がこういってからコノハが現実に戻ってくるまで、五分は要した。
その間、二人は周りから奇怪な目で見られていた。
◇◆◇
「───で、その砂糖は?」
やっと戻って来たコノハは、マスターにまずそれを聞いた。
とりあえず、二人は善人なんだと結論付けて脳の隅に追いやった。
マスターは少し疲れた顔を見せたが、そんなことは気にしない。
誰のせいでこんなことになったのかとか考えない。
「知り合いの料理人に頼んでその砂糖を使って、お菓子を作ってもらう予定だ」
彼はギルドマスターという地位故に色々と知り合いが多い。
あるときには、知り合いと言って、どこかの貴族を連れてきたこともあった。
あの時は何かと思った。
やらかしたのかと思って結構焦った。
あのあと、八つ当りのようにマスターと模擬戦をして軽くコテンパンにした。
あの時こんな吸血鬼の格好をしていれば長すぎるマントとか、燃やしてしまったのに。
再び閑話休題。
コノハは今更ながら周りの様子に気づいて、場所変えたいなと思い、マスターをさりげなく促しておく。
その様子は知らない旅人や冒険者たちが遠目から見れば親子のように見えるだろう。
まぁ、二人はいい意味でも悪い意味でも有名人なので住民は無理だが。
コノハは結局受け取られなかったビラを片付けながら横に並ぶマスターに尋ねた。
「それって、タダで貰えるの?」
「勿論。そうに決まってるだろう、『ハロウィン』なんだから」
そう常識のように言うマスターにコノハは呆れ顔を浮かべる。
そして、その格好でニッと笑うのもなんかむかつく。
あ、違う。長すぎるマントがヒラヒラしてて隣で歩きづらいんだ。
コノハはマスターから一歩ほど距離をとって歩き出す。
「……そもそもその『ハロウィン』を聞いたことがいままで無かったんだけど。……『七夕』だってそうだよ?マスター、そういう情報どこか」
「コノハあんなところに串カツがあるぞ食べるか?」
「……………………」
わざとだ。
わざとやってる。
割り込む時は基本聞かれたくないことだ。
マスターは「聞かれる前に話題を強引に変える」をよく使う。
そしてこうなったらどうなっても教えてはくれない。
何度か試したが、結局話を無理矢理逸らされてしまう。
さすが、マスターの地位は伊達じゃない。
だから、探ることは止めた。
めんどくさいし。そこまで知りたい訳でもない。
「………串カツよりも、チキン食べたいな。ドリンクも追加で!」
だが、これくらいは許されるだろう。
コノハはさっきのマスターの笑顔よりもずっと綺麗な笑顔を見せた。
それこそ、ニッコリと。効果音が付きそうなくらいで。
周りが彼女の笑顔を見て男女問わず、顔を赤くする中、当の向けられたマスターはげっそりと生気を吸いとられたような顔をしながら、
「……分かったよ」
嫌々返事をした。
そしてその後、コノハはマスターにチキンとブドウジュース、魔道具を作るための材料、それから結局串カツも買ってもらった。
後半、「これ、コイツの買い出しに付き合わされてないか……」とマスターが言っていたが無視する。
そんなこと無い。
無いったら無いのだ。
そして食べ物はコノハが全て美味しく頂きました。
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