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第二章 乗っ取られた国

35 …………………あ。

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 コノハは声の聞こえた方に向かう。
 しばらく音もたてずに走ると人影がいくつか見える。
 
 (見えた)
 
 そこには二人の男と首すじにナイフを向けられ恐怖で固まっている少女。向かい合うように少年が一人。
 少年の方が少女よりも年が上のように見える。
 といっても二人はコノハよりも年上に見えるが。
 
 二人とも桔梗色(紫)の髪をしていて血の繋がりを感じさせた。
 コノハは見つからないように木の影に隠れつつ様子を伺う。
 少年が男に叫んだ。
 
 「妹を返せ!」
 
 男の一人は少女にナイフを突き付け、もう一人は油断なく少年を脅す。
 
 「無理です、ほら、早く一緒に来ないと……」
 
 捕まっている少女の真っ白な肌にさらにナイフが押し付けられ真紅の血が一筋流れる。
 
 「っっ………」
 
 少女は声にならない悲鳴を上げる。
 
 「さぁ、どうします?」
 
 男が少年に聞く。丁寧な言葉遣いであるがやっていることは脅迫だ。
 少年はせめてもの抵抗とキッと男を睨む。
 妹が人質に取られているため動けないのだろう。
 さらに人質を捕まえている方が待てないと言わんばかりにコノハがいるのを知らずに喋り出す。
 
 「ふん。もういいんじゃないか?片方でもあのお方は満足するだろ」
 
 「そういう訳にも…あのお方は二人ともご所望ですから」
 
 「不慮の事故にすればいい。俺たちが殺したのがばれなきゃいいだろ」
 
 「な………」
 
 少年が愕然と呟く。
 だがコノハ的には他のことが引っ掛かった。
 
 (……?)
 
 コノハは二人の会話に出てきた“あのお方”という存在。
 どうやらこいつらのボスのようだとは会話からわかる。
 まぁ正直どうでもいい。
 この期に及んでコノハは全く興味が湧かなかった。
 “あのお方”という表現が少し気をなっただけだ。
 というか。
 
 (助けなきゃ本格的にやばくなってきたなぁ。でも目立ちたくないしなぁ)
 
 今にも男は彼か、妹を殺しそうだし、さっきの大声で危惧していた魔物も近付いて来ている。
 このままほっとけば負傷者は間違いなく出てくるだろう。
 しょうがないので魔法を使うことにする。
 
 作戦はいたって単純。
 
 (『  眠 歌  ねむりうた』)
 
 眠らせるだけ。
 
 だがコノハは甘かった。
 ついいつもの癖で無詠唱で魔法を使ってしまった。
 めんどくさがり屋の彼女が今まで何故無詠唱で魔法を使というと今、彼女の魔力が不安定だからだ。
 無詠唱は普通に詠唱して魔法を唱えるよりはるかに技術が必要。
 それに魔力は魔法の源。
 だから、不安定な状態で使っては駄目だとコノハは今まで声に出していたのだ。
 
 だが色んなことが一気にありすぎてコノハは失念していた。
 
 「………………あ」
 
 気づいた時には既に遅し。
 兄妹だけ残して他、男たちや近付いてくる魔物もろとも眠らせようと考えていたが。
 
 魔法が指定していた範囲よりも大きくなり。
 周りはコノハを残して全員がその場に崩れ落ちた―――――
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