僕は神様

第十五章

強者と弱者

「ハァハァハァ・・・なんだコイツ・・コイツこんなに強かったのか・・ハァハァハァ」

「アブヤマさん！！」

テンがアブヤマに声をかけるが、ジャージの男に殴られ顔面は原型をとどめていなかった。

「テ・・ちゃ・・は・僕・・ま」

アブヤマは這いつくばりながらテンの元へ行こうとする。

一方アブヤマとの戦いでジャージの男は片目を潰され負傷していた。

しかし、テンの元へ行こうとするアブヤマの髪の毛を掴みテンとの距離を引き離した。

「こ・・・この野郎・・」

「やめて！！！あの薬なら明日お金に変えて必ず持って行くわ！だからお願い！もうやめて！！」

テンは男の足にしがみつき泣き叫んだ。

「なんだ・・お前コイツの何なんだ？お前らゴミ溜めの中のウジ虫みたいなもんだろ。身の程も知らず人に世話して貰い、気に入らない事があれば文句を言う。そして追い詰められるとそうやって泣きわめく。・・・お前らウジ虫は何がしたい。・・・お前ら・・コイツも・・アイツも・・」

そう言うと足にしがみつくテンを振り払い、アブヤマを片腕で吊り上げた。

「う・・テ・・ちゃ・・ま・・・も」

「何が守るだよ。どうやってこの状況からコイツを守る。守れない物を守ると言って、何がしたいんだお前らは！」

そう言うとナイフを取り出しアブヤマの左目を刺した。

「ぐあああぁぁぁあああああ！！！」

掴んでいた髪の毛が引きちぎれアブヤマは目を抑えてモガキ暴れた。

「なぁシズドン。お前が俺の左目を潰したんだろうが。何故暴れる。自分は潰されないと思っていたのか？潰されてもこの女を守るのか？言えよ。言えよミライ。コイツを、デーラを守るってな。」

「いや・・・お願い・・・どうか・・なんでもします。・・どうか」

テンが真っ青な顔で小刻みに震えながら言った。

「何でもしますか。・・そうだなぁ・・じゃあ・・・黙って見てろ」

そう言うとモガキ苦しむアブヤマの頭をグイッと持ち上げ持っていたナイフでアブヤマの首を切り裂いた。

アブヤマの首から噴き出る血しぶきで身体中を真っ赤に染めたテンが気の狂った様に泣きわめく。

「・・・ア・・う・・あ・う・・うああああああぁぁぁいやがああああぁ」

「やっぱりなぁ・・・お前らの言う事何て何も信用出来ない。俺は黙って見てろと言ったんだ。ダメだなぁ・・嘘は良くない。守る事も、黙る事も、お前らウジ虫は嘘ばっかりだ。」

そして、ジャージの男はゆっくりとテンの方へ歩き出す。

「周りを見てみろ女。人が目の前で殺されていても、誰もお前を助けようとしないのは何故だか分かるか？アイツらは自分が弱者だと自覚しているからだ。強者と弱者の違いを理解しているからだ。それが分からん奴の先にあるのはいつもこうなるんだよ！」

そしてナイフを振りかざしテンに向かって振り下ろした。

倒れるアブヤマを見つめながら呆然としていたテンが、ソレに気付き咄嗟にその場にあった小石を男に向かって投げつけた。

その石が男の潰れた左目に直撃した。

「グッ・・ぐぁあああああ！」

男はナイフを落とし潰れた目を抑えた。

テンは落ちたナイフをすかさず拾うと男の腹部に刺しその場から走って逃げ出した。

「ぐああああ・・・ふぅうぅぅぅ・・・ふぅぅううぅぅぅ・・・フッ・・クククッ・・」

・・・数日後・・・

「リッキー・・・・ロンだ」

「・・・次だ！次次！！」

街中で麻雀をするリッキーの声が響き渡る。

「お、おいリッキーあれ見ろよ。」

一緒に麻雀をやっていた男がリッキーの後方を指をさして驚いた顔をしている。

「俺を騙そうとしても無駄だ！そいつはロンだ！カーーーッカッカッカッカ！」

「リッキー・・・・・・さん」

か細い声でリッキーの背後から話し掛ける声がする。

「騙されるか！イカサマしようとしても俺の目は誤魔化せんぞ！さぁ！払え！！！カーッカッカッカ！」

「お、おい。リッキー後ろ見ろって。」

その表情を見たリッキーも異変に気付き振り向いた。

「おっ・・・お前はこの前の！・・・いや、その何だ・・場所が分からなくなっちまってな。金だろ？金なら・・ん？・・お、お前その格好どうした。」

「リッキーさん・・・リッキーさん・・・リッキーさん・・」

何度も何度もリッキーの名前を呼び、そこに居たのはテンの姿だった。

全身真っ黒だが、涙で洗い流され目の下だけ白い肌が見えている。

ガリガリに痩せ細りボサボサの髪の毛でゾンビの様に立ち尽くし、そしてその場に崩れ落ちる様に倒れ込んだ。

「お、おい！大丈夫か！」

リッキーはテンに駆け寄り体を揺すった。

「リッキーさん・・・アブヤマさんが・・・うっ・・アブヤマさんが死んじゃた・・うっ・・」

「アブヤマが？ど・・どう言う事だよ。死んだって・・・・どう言う事だよ！！説明しろ！！！」

「ご・・ごめんなさい。・・私のせいで・・・うっ・・」

そう言いながらテンは意識を失った。

「アブヤマが・・アイツが、そんな訳あるか。アイツが！！！」