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第5話 後悔
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私はマンションに帰ると、キャビネットからロイヤルサルートを取出し、ロックアイスを入れたバカラのグラスにそれを注いだ。氷に流れるウイスキーに癒されるひと時。
船乗りの特権は酒とタバコが免税で買えるということだ。
おかげで家のキャビネットにはいつも世界中の珍しい酒が並んでいた。
華絵は酒をあまり飲まない。
酒のコレクションは私の自己満足であり、華絵にはどうでもいいことだった。
そして今、俺はこの酒に救われていた。
結婚して13年、私は華絵に何をしてやれたのだろう?
夫として、私は華絵に何を与えることが出来たのだろう?
華絵は自分の命に替えてでも私を守りたいと、御守まで作ってくれた。
それなのに私は自分の夢ばかりを追い駆け、航海士を続けている。
普通の夫婦なら朝、家を出て仕事に向かい、家に帰って食事をし、お互いに今日あったことを話して頷いたり笑ったり、時には否定したり泣いたり、怒ったりするはずだ。
休日には一緒に出掛け、映画や芝居を観たり、買物をし、美味しい物を食べて「美味しいね」と微笑み合うはずだ。
同じ布団で寝て愛し合い、そして同じ時間の流れの中で愛を深めていく。
だが、私たち夫婦は織姫と彦星のような夫婦だった。
半年離れて生活をし、2か月を共に過ごす生活。
1年で一緒に暮らせるのは僅か6分の1。
それでもまだ、子供がいれば華絵も寂しくはなかったのかもしれない。
娘婿が船乗りだと妻の両親にとっては都合がいいものだ。
生活費は勝手に口座に振り込まれ、かわいい娘と孫と一緒に暮らせるからだ。
「亭主元気で留守がいい」というわけだ。
だが華絵の実家は兄の家族が同居しており、華絵はこのマンションに独りで暮らしていた。
「犬とか猫でも飼ったら?」
「世話が大変だからいらないわ。それに人間よりも先に死んじゃうし」
ペットは飼わなくて良かったのかもしれない。
人間の方が先に死ぬこともあるからだ。
私は結婚などするべきではなかったのだ。
そう後悔をしながらピスタチオを食べた。
自分よりも先に、妻の華絵が死ぬことなど考えもしなかった。
私は今まで何も考えずに好きな船乗りをして生きて来た。
普通、男の俺が先に死ぬのが順序というものではないのか?
そして華絵はまだ30代、あまりにも死ぬには早すぎる。
最愛の妻を見送る心の準備は、私にはまだ出来そうにもなかった。
船乗りは特殊な職業だ。
海の上や海外にいるので、たとえ身内に不幸があってもすぐに駆けつけることは出来ない。
今回、不幸中の幸いだったのは、私が少し早く休暇が取れたことだった。
私はグラスを置いて、そのままソファに横になった。
すべてが夢であればいいと思った。
やがて睡魔が訪れ、私を夢の中に導いてくれた。
船乗りの特権は酒とタバコが免税で買えるということだ。
おかげで家のキャビネットにはいつも世界中の珍しい酒が並んでいた。
華絵は酒をあまり飲まない。
酒のコレクションは私の自己満足であり、華絵にはどうでもいいことだった。
そして今、俺はこの酒に救われていた。
結婚して13年、私は華絵に何をしてやれたのだろう?
夫として、私は華絵に何を与えることが出来たのだろう?
華絵は自分の命に替えてでも私を守りたいと、御守まで作ってくれた。
それなのに私は自分の夢ばかりを追い駆け、航海士を続けている。
普通の夫婦なら朝、家を出て仕事に向かい、家に帰って食事をし、お互いに今日あったことを話して頷いたり笑ったり、時には否定したり泣いたり、怒ったりするはずだ。
休日には一緒に出掛け、映画や芝居を観たり、買物をし、美味しい物を食べて「美味しいね」と微笑み合うはずだ。
同じ布団で寝て愛し合い、そして同じ時間の流れの中で愛を深めていく。
だが、私たち夫婦は織姫と彦星のような夫婦だった。
半年離れて生活をし、2か月を共に過ごす生活。
1年で一緒に暮らせるのは僅か6分の1。
それでもまだ、子供がいれば華絵も寂しくはなかったのかもしれない。
娘婿が船乗りだと妻の両親にとっては都合がいいものだ。
生活費は勝手に口座に振り込まれ、かわいい娘と孫と一緒に暮らせるからだ。
「亭主元気で留守がいい」というわけだ。
だが華絵の実家は兄の家族が同居しており、華絵はこのマンションに独りで暮らしていた。
「犬とか猫でも飼ったら?」
「世話が大変だからいらないわ。それに人間よりも先に死んじゃうし」
ペットは飼わなくて良かったのかもしれない。
人間の方が先に死ぬこともあるからだ。
私は結婚などするべきではなかったのだ。
そう後悔をしながらピスタチオを食べた。
自分よりも先に、妻の華絵が死ぬことなど考えもしなかった。
私は今まで何も考えずに好きな船乗りをして生きて来た。
普通、男の俺が先に死ぬのが順序というものではないのか?
そして華絵はまだ30代、あまりにも死ぬには早すぎる。
最愛の妻を見送る心の準備は、私にはまだ出来そうにもなかった。
船乗りは特殊な職業だ。
海の上や海外にいるので、たとえ身内に不幸があってもすぐに駆けつけることは出来ない。
今回、不幸中の幸いだったのは、私が少し早く休暇が取れたことだった。
私はグラスを置いて、そのままソファに横になった。
すべてが夢であればいいと思った。
やがて睡魔が訪れ、私を夢の中に導いてくれた。
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