35 / 47
第四章
第13話 姉妹
しおりを挟む
遥が校門を出ると呼び止められた。
「沢村遥だよね?」
「誰?」
「杉田華蓮。杉田の娘よ」
「!」
「ちょっと話しがあるんだけど」
遥と華蓮はマックへ移動した。
「私から誘ったから驕るわね?
何がいい?」
「いいです、自分で払いますから」
「自分で? 私のお父さんのお金の間違いでしょう?」
「違う、私がバイトしたお金です・・・」
遥は蚊の鳴くような声で言った。
「マックシェイクのバニラのSを下さい」
「私はポテトとコーラ、どっちもMサイズで」
ふたりは奥の窓際の席に座った。
「うちのお父さん、あなたたち親子の面倒を看ているんだってね?」
華蓮は親指と細くて長い人差し指でポテトを摘まみ、それを口にした。
「・・・」
「どうなのよ。黙ってないで何とか言いなさいよ」
「お金は借りているだけです。私が働いて必ず返します」
「べつに返してもらわなくてもいいわよ。お父さんはそういう人だから。お父さんの働いたお金だし。
お金はどうでもいいの、人助けだから。
でもね? 父にはもう会わないで欲しいの。
父は私のお父さんだから」
(私のお父さん・・・)
その言葉の重みに遥は打ちのめされた。
遥は返す言葉が見つからなかった。
遥には「はい」とも「イヤです」とも言う勇気がなかった。
「あんなオッサンのどこがいいの?」
「全部です」
「全部? あんたファザコンなの?」
「そうかもしれません。私の父は仕事仕事の毎日で、家にもあまり寄り付きませんでしたから。
私は父親が欲しかったんだと思います。
父は会社経営に失敗して自殺しました。
私には父との良い思い出が殆どありません。
毎日毎日、家には債権者の人たちが押し寄せ、私と母は玄関のチャイムの音が鳴る度に、家の電気を消して布団を被って震えていました。
もう限界でした。
私と母は電車に飛び込んで死のうとしました。
そして電車がホームに入って来た時、あなたのお父さんに母は腕を掴まれました。
生きる希望をあなたのお父さんに与えて貰ったんです」
「そうだったんだ。・・・アンタも苦労したんだね? そんな風には見えないけど」
華蓮は再びポテトを食べた。
そしてストローを咥え、コーラを飲んで言った。
「私はね? ずっと父が嫌いだった。
私の兄もそう。何でだか分かる?
それは父が浮気ばかりして、母と私たちを放っておいたからよ。
父は家族を捨てたんだと思った。
私たちはそんな父をずっと無視していたわ。
あんな人、家族じゃないと思ってた。
この前の記者会見を見るまではね?
でもあの時の父を見て思ったの。やっぱり私たちのお父さんは凄い人なんだって。
自分のことより、みんなのことなんだなあってね?
そしてやっと私たちは家族に戻れた気がした。
あなたたちのことは母から聞いたの。
でもそんな事情があるなんて知らなかった。
お父さんのお金だけが目当てだと思ってた。
でも父は私たち家族の物だから、返して欲しいと思った」
「ごめんなさい」
「どうして謝るの? 好きなんでしょう? お父さんのことが?」
「あなたのお父さんのことが好きです。
私と母がこうして今生きていられるのも、あなたのお父さんのお陰だから。
精神的にも金銭的にも支えて貰っています。
私、そんな大人に会ったことが無かったから。
いい気になってゴメンなさい。
もう、お父さんとは会いません。
もちろん母にもそう伝えます」
華蓮はじっと店の外を眺めていた。
目の前をいろんな人が通り過ぎて行った。
「遥って正直だよね?」
「本当は私も母もあなたのお父さんを諦めたくはありません。
あなたたちから杉田さんを奪おうとは思いません。でも、少しでいい、少しの時間でもいいからあなたのお父さんと一緒に居たかっ・・・」
遥は泣いた。
「じゃあそうすればいいじゃない」
「えっ?」
「あの人は私のお父さんで、遥の「パパ」でいいよ」
(パパ?)
「いいよ、遥なら。
お父さんのファンクラブに入れてあげる。
でも会長は私だよ。分かった?」
「ファンクラブ?」
「お兄ちゃんもいるから遥は3番目ね? 会員番号3番。それでもいい?」
「ありがとう。私何番目でもいい」
「遥。LINE交換しようよ」
「うん」
「それから私のことは「華蓮」でいいからね?」
「わかったわ、華蓮」
「遥はこれから私の妹よ。いいわね?」
「妹?」
「そう。私たち、ダブルファミリーだから」
「ダブルファミリー?」
「後はエロ親父の愛人たちだけだから、もうひとつの家族は遥のところだけよ」
遥と華蓮は笑った。
まるで本当の姉妹のように。
「沢村遥だよね?」
「誰?」
「杉田華蓮。杉田の娘よ」
「!」
「ちょっと話しがあるんだけど」
遥と華蓮はマックへ移動した。
「私から誘ったから驕るわね?
何がいい?」
「いいです、自分で払いますから」
「自分で? 私のお父さんのお金の間違いでしょう?」
「違う、私がバイトしたお金です・・・」
遥は蚊の鳴くような声で言った。
「マックシェイクのバニラのSを下さい」
「私はポテトとコーラ、どっちもMサイズで」
ふたりは奥の窓際の席に座った。
「うちのお父さん、あなたたち親子の面倒を看ているんだってね?」
華蓮は親指と細くて長い人差し指でポテトを摘まみ、それを口にした。
「・・・」
「どうなのよ。黙ってないで何とか言いなさいよ」
「お金は借りているだけです。私が働いて必ず返します」
「べつに返してもらわなくてもいいわよ。お父さんはそういう人だから。お父さんの働いたお金だし。
お金はどうでもいいの、人助けだから。
でもね? 父にはもう会わないで欲しいの。
父は私のお父さんだから」
(私のお父さん・・・)
その言葉の重みに遥は打ちのめされた。
遥は返す言葉が見つからなかった。
遥には「はい」とも「イヤです」とも言う勇気がなかった。
「あんなオッサンのどこがいいの?」
「全部です」
「全部? あんたファザコンなの?」
「そうかもしれません。私の父は仕事仕事の毎日で、家にもあまり寄り付きませんでしたから。
私は父親が欲しかったんだと思います。
父は会社経営に失敗して自殺しました。
私には父との良い思い出が殆どありません。
毎日毎日、家には債権者の人たちが押し寄せ、私と母は玄関のチャイムの音が鳴る度に、家の電気を消して布団を被って震えていました。
もう限界でした。
私と母は電車に飛び込んで死のうとしました。
そして電車がホームに入って来た時、あなたのお父さんに母は腕を掴まれました。
生きる希望をあなたのお父さんに与えて貰ったんです」
「そうだったんだ。・・・アンタも苦労したんだね? そんな風には見えないけど」
華蓮は再びポテトを食べた。
そしてストローを咥え、コーラを飲んで言った。
「私はね? ずっと父が嫌いだった。
私の兄もそう。何でだか分かる?
それは父が浮気ばかりして、母と私たちを放っておいたからよ。
父は家族を捨てたんだと思った。
私たちはそんな父をずっと無視していたわ。
あんな人、家族じゃないと思ってた。
この前の記者会見を見るまではね?
でもあの時の父を見て思ったの。やっぱり私たちのお父さんは凄い人なんだって。
自分のことより、みんなのことなんだなあってね?
そしてやっと私たちは家族に戻れた気がした。
あなたたちのことは母から聞いたの。
でもそんな事情があるなんて知らなかった。
お父さんのお金だけが目当てだと思ってた。
でも父は私たち家族の物だから、返して欲しいと思った」
「ごめんなさい」
「どうして謝るの? 好きなんでしょう? お父さんのことが?」
「あなたのお父さんのことが好きです。
私と母がこうして今生きていられるのも、あなたのお父さんのお陰だから。
精神的にも金銭的にも支えて貰っています。
私、そんな大人に会ったことが無かったから。
いい気になってゴメンなさい。
もう、お父さんとは会いません。
もちろん母にもそう伝えます」
華蓮はじっと店の外を眺めていた。
目の前をいろんな人が通り過ぎて行った。
「遥って正直だよね?」
「本当は私も母もあなたのお父さんを諦めたくはありません。
あなたたちから杉田さんを奪おうとは思いません。でも、少しでいい、少しの時間でもいいからあなたのお父さんと一緒に居たかっ・・・」
遥は泣いた。
「じゃあそうすればいいじゃない」
「えっ?」
「あの人は私のお父さんで、遥の「パパ」でいいよ」
(パパ?)
「いいよ、遥なら。
お父さんのファンクラブに入れてあげる。
でも会長は私だよ。分かった?」
「ファンクラブ?」
「お兄ちゃんもいるから遥は3番目ね? 会員番号3番。それでもいい?」
「ありがとう。私何番目でもいい」
「遥。LINE交換しようよ」
「うん」
「それから私のことは「華蓮」でいいからね?」
「わかったわ、華蓮」
「遥はこれから私の妹よ。いいわね?」
「妹?」
「そう。私たち、ダブルファミリーだから」
「ダブルファミリー?」
「後はエロ親父の愛人たちだけだから、もうひとつの家族は遥のところだけよ」
遥と華蓮は笑った。
まるで本当の姉妹のように。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
私はただ一度の暴言が許せない
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。
花婿が花嫁のベールを上げるまでは。
ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。
「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。
そして花嫁の父に向かって怒鳴った。
「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは!
この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。
そこから始まる物語。
作者独自の世界観です。
短編予定。
のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。
話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。
楽しんでいただけると嬉しいです。
※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。
※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です!
※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。
ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。
今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、
ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。
よろしくお願いします。
※9/27 番外編を公開させていただきました。
※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。
※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。
※10/25 完結しました。
ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。
たくさんの方から感想をいただきました。
ありがとうございます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、
今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきます。
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
★【完結】ストロベリーチョコレート(作品231203)
菊池昭仁
恋愛
同居人としての夫婦関係 それでも満足している精神を病んでいる夫と 人生のリノベーションを決意する妻
大人の恋はストロベリーチョコレートのように甘いのか?
恋人に捨てられた私のそれから
能登原あめ
恋愛
* R15、シリアスです。センシティブな内容を含みますのでタグにご注意下さい。
伯爵令嬢のカトリオーナは、恋人ジョン・ジョーに子どもを授かったことを伝えた。
婚約はしていなかったけど、もうすぐ女学校も卒業。
恋人は年上で貿易会社の社長をしていて、このまま結婚するものだと思っていたから。
「俺の子のはずはない」
恋人はとても冷たい眼差しを向けてくる。
「ジョン・ジョー、信じて。あなたの子なの」
だけどカトリオーナは捨てられた――。
* およそ8話程度
* Canva様で作成した表紙を使用しております。
* コメント欄のネタバレ配慮してませんので、お気をつけください。
* 別名義で投稿したお話の加筆修正版です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる