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第6話

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 モロゾフ大尉とキューピー桃次郎さんは表参道ヒルズでツトム君と茜ちゃんが来るのを待ち構えていました。 

 「桃次郎、準備はよいな?」
 「大丈夫、私の腕を信じて下さいよ、モロゾフ大尉」
 「よろしい、絶対に外すでないぞ!」
 「わかってますって。ほら来た来た」
 「よし、ツトム君と茜ちゃんが遭遇するまであと8秒!」
 「ラジャー!」

 キューピー桃次郎は背中の矢筒から桃色のハートの矢を引き抜くと、弓を構えました。

 きりりりり

 「3、2、1、今だっ! 桃次郎!」

 茜ちゃんの心臓にズッキューン! 見事に桃次郎の愛の矢が突き刺さりました。

 「やった! やったな桃次郎!」
 「えっへん! どうです大尉、愛の名射手、桃次郎の腕前は?」
 「見事じゃ! 見事ですぞ! 桃次郎!」
 「ほら、もう茜ちゃん、ツトム君にうっとりしちゃってますよ」
 「本当だ! 凄いぞ桃次郎!」

 茜ちゃんはツトム君に熱い視線を送りました。

 「なんて素敵な人なの!
 あのー、劇団四季の俳優の方ですか? それともジャニーズの人?
 私と付き合って下さい! 今すぐ私を抱いて!」
 「だ、誰ですか? あなたは? 新手の風俗詐欺ですか? デリヘルの人?
 それとも痴女さんですか?」
 
 突然の出来事にツトム君はびっくりして目を丸くしています。
 ツトム君は辺りを見渡しました。
 
 「これってテレビのどっきりか? YouTubeの番組企画か何かですか?」
 「違います! ビビッと来ちゃったんです、私」
 「聖子ちゃんがジェフ君に感じたみたいにですか? この僕に?」
 「そうなんです! 私じゃダメですか? 貧乳はお嫌い?」
 「いえ、巨乳も貧乳も大好きです。
 でも、いいんですか? 僕で?」
 「あなたがいいんです! あなたじゃなきゃダメ!
 どうしてなのか分からないけど好きです、私と結婚して下さい!
 あっ、私、白鳥茜って言います。
 茜って呼んで下さい!
 あなた、お名前は?」
 「ツトムです。城山勉」
 「ツトム君ね? じゃあとりあえず、お近づきの印として一発やりましょうか?
 なにはともあれ、男女のカラダの相性は一番大事ですからね? 話はそれから、ささ、早く行きましょう! ラブホにGO!」

 茜ちゃんはツトム君の手を強引に掴むと、タクシーを停め、ラブホテルに直行しました。

 「道玄坂のラブホまでお願いします」
 「あいよ、いいねー、若い人たちは。真っ昼間からおっぱじめるんですかい? ヒッヒッ」

 白髪のおじいちゃん運転手はいやらしそうにバックミラーを覗き込みました。
 タクシーは猛スピードで幾つもの赤信号を無視して、道玄坂のラブホ街へと猛ダッシュをしました。

 実はこのタクシーの運転手は、天界から追放された堕天使、サタンの変装だったのです。

 (こいつかあ? あの『ガンバ隊』の一押しって奴は?
 そうはさせないぜ、こいつは地獄に引き摺り込んでやる。
 たっぷり地獄でおもてなしをしてやろうじゃないか。ヒッヒッヒッ)

 サタンは赤い舌を出して笑いました。
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