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第13話 神崎の秘密
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「すみません、お花を下さい」
「はい、贈り物ですか? それともお家に飾るお花でしょうか?」
「贈り物です、神崎さんとあなたへの」
「失礼ですけど主人とはどんな?」
「愛人です」
「えっ・・・」
「嘘ですよ、神崎さんのキャバクラで働いているキャバ嬢です。
いつも神崎さんには良くしていただいています。
あなたが友理子さん?
なんだか安心しました。美人でやさしそうで。
私、ミュウっていいます。よろしくね?
神崎さん、結婚したなんてひとことも言わないからびっくりしちゃいました。
ずっと独身だと思っていたし、本人もそう言っていたんですよ、「俺は誰とも結婚はしない」って。
会長から聞いたんです、友理子さんのこと」
「そうでしたか? いつも主人がお世話になっています」
「主人かあ? 私も言ってみたかったなあー、「ウチの主人」って神崎さんのことを。
本当はね? 私も神崎さんに憧れていたんです。素敵な人ですよね? 神崎さんって。
でもいつも自分のことは言わない。ただ黙って聞いてくれるだけ。
不思議と神崎さんには何でも話しちゃうんですよね? 神崎さんにだけは。
片想いで終わっちゃいましたけどね、私の恋は。
でも友理子さんなら諦めます。
今日、少しお時間ありますか?
神崎さんのことでどうしても奥さんに伝えたいことがあるんです」
「わかりました。では17時30分にアーケードにあるフルーツパーラーで」
「じゃあ、お花はその時に持って来て下さい」
ミュウはそう言って1万円を置いて店を出て行った。
約束の17時30分を少し遅れて、友理子が大きな花束を抱えて店にやって来た。
「いらっしゃいませ」
「アイスティを下さい」
「かしこまりました」
走って来たらしく、友理子は息が上がっていた。
「ごめんなさいね? 仕事が少し長引いてしまって。
これ、お花とレシートです」
「レシートはいりません」
ミュウは友理子から花束を受け取ると、再びそれを友理子に渡した。
「ご結婚、おめでとうございます」
「ありがとうございます。何だか変ですね? 自分で作った花束を、自分が受け取るなんて。
私、お花を貰ったのってミュウさんが初めてでした。凄くうれしいです」
「女って、お花を貰うとうれしいですよね?」
友理子は愛おしそうに、ミュウからプレゼントされた自分の作った花束を抱いた。
「いい香り」
「友理子さん、神崎さんをよろしくお願いします。
私は本当の父を知らずに育ったので、神崎さんは私の父親のような人なんです。
いつも他人のことばっかり気にして、自分の事はいつも後回し。
そんな人ですよね? 神崎さんって?」
「わかります。あの人といるとホッとしますよね? 癒されるというか、素直な自分でいられます」
「神崎さんを甘えさせてあげて下さい。
神崎さん、自殺しようとしたんです。半年前に」
突然、友理子からさっきまでの笑顔が消えた。
「その話って本当ですか?」
「おそらくですけど、本当だと思います。
私には分かるんです、なんとなくですけど。
その時の神崎さん、無断でお店を1週間ほどお休みしたんです。
そして戻って来た時、聞いたんです「どこに行っていたんですか?」って。
そうしたら酷く寂しい顔をして、「富山に海を見に行ってた」って。
だから友理子さん、神崎さんを守ってあげて下さい、神崎さんを死なせないで下さい。
神崎さん、今、とってもしあわせそうなんで」
友理子は運ばれて来たアイスティーにストローを刺し、飲んだ。
ミュウの突然の告白に、喉の渇きが潤されてゆく。
「そうでしたか・・・、あの人が自殺を・・・」
友理子は深い闇の中に、ひとり取り残されたような気がした。
家に帰ると楓が花束を見て驚いていた。
「ママ、どうしたの? その綺麗なお花!」
「パパの会社の人からいただいたのよ、作ったのはママだけどね?」
「そうだったんだ。良かったね? ママ?」
もちろん楓にはあの話は出来なかった。
友理子はその花を花瓶に活けると、深いため息を吐いた。
(きっとそれはミュウさんの思い違いよ)
だが、友理子の気持ちは晴れなかった。
一抹の不安を消すかのように、カサブランカの甘い香りが室内を包み込んでいた。
「はい、贈り物ですか? それともお家に飾るお花でしょうか?」
「贈り物です、神崎さんとあなたへの」
「失礼ですけど主人とはどんな?」
「愛人です」
「えっ・・・」
「嘘ですよ、神崎さんのキャバクラで働いているキャバ嬢です。
いつも神崎さんには良くしていただいています。
あなたが友理子さん?
なんだか安心しました。美人でやさしそうで。
私、ミュウっていいます。よろしくね?
神崎さん、結婚したなんてひとことも言わないからびっくりしちゃいました。
ずっと独身だと思っていたし、本人もそう言っていたんですよ、「俺は誰とも結婚はしない」って。
会長から聞いたんです、友理子さんのこと」
「そうでしたか? いつも主人がお世話になっています」
「主人かあ? 私も言ってみたかったなあー、「ウチの主人」って神崎さんのことを。
本当はね? 私も神崎さんに憧れていたんです。素敵な人ですよね? 神崎さんって。
でもいつも自分のことは言わない。ただ黙って聞いてくれるだけ。
不思議と神崎さんには何でも話しちゃうんですよね? 神崎さんにだけは。
片想いで終わっちゃいましたけどね、私の恋は。
でも友理子さんなら諦めます。
今日、少しお時間ありますか?
神崎さんのことでどうしても奥さんに伝えたいことがあるんです」
「わかりました。では17時30分にアーケードにあるフルーツパーラーで」
「じゃあ、お花はその時に持って来て下さい」
ミュウはそう言って1万円を置いて店を出て行った。
約束の17時30分を少し遅れて、友理子が大きな花束を抱えて店にやって来た。
「いらっしゃいませ」
「アイスティを下さい」
「かしこまりました」
走って来たらしく、友理子は息が上がっていた。
「ごめんなさいね? 仕事が少し長引いてしまって。
これ、お花とレシートです」
「レシートはいりません」
ミュウは友理子から花束を受け取ると、再びそれを友理子に渡した。
「ご結婚、おめでとうございます」
「ありがとうございます。何だか変ですね? 自分で作った花束を、自分が受け取るなんて。
私、お花を貰ったのってミュウさんが初めてでした。凄くうれしいです」
「女って、お花を貰うとうれしいですよね?」
友理子は愛おしそうに、ミュウからプレゼントされた自分の作った花束を抱いた。
「いい香り」
「友理子さん、神崎さんをよろしくお願いします。
私は本当の父を知らずに育ったので、神崎さんは私の父親のような人なんです。
いつも他人のことばっかり気にして、自分の事はいつも後回し。
そんな人ですよね? 神崎さんって?」
「わかります。あの人といるとホッとしますよね? 癒されるというか、素直な自分でいられます」
「神崎さんを甘えさせてあげて下さい。
神崎さん、自殺しようとしたんです。半年前に」
突然、友理子からさっきまでの笑顔が消えた。
「その話って本当ですか?」
「おそらくですけど、本当だと思います。
私には分かるんです、なんとなくですけど。
その時の神崎さん、無断でお店を1週間ほどお休みしたんです。
そして戻って来た時、聞いたんです「どこに行っていたんですか?」って。
そうしたら酷く寂しい顔をして、「富山に海を見に行ってた」って。
だから友理子さん、神崎さんを守ってあげて下さい、神崎さんを死なせないで下さい。
神崎さん、今、とってもしあわせそうなんで」
友理子は運ばれて来たアイスティーにストローを刺し、飲んだ。
ミュウの突然の告白に、喉の渇きが潤されてゆく。
「そうでしたか・・・、あの人が自殺を・・・」
友理子は深い闇の中に、ひとり取り残されたような気がした。
家に帰ると楓が花束を見て驚いていた。
「ママ、どうしたの? その綺麗なお花!」
「パパの会社の人からいただいたのよ、作ったのはママだけどね?」
「そうだったんだ。良かったね? ママ?」
もちろん楓にはあの話は出来なかった。
友理子はその花を花瓶に活けると、深いため息を吐いた。
(きっとそれはミュウさんの思い違いよ)
だが、友理子の気持ちは晴れなかった。
一抹の不安を消すかのように、カサブランカの甘い香りが室内を包み込んでいた。
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