12 / 21
第12話 約束
しおりを挟む
「あー、お腹空いたー、何にしようかなー?」
楓はうれしそうに回転寿司のタッチパネルを眺めていた。
友理子の代わりに楓を学校に迎えに来た私は、楓を回転寿司に誘ったのだ。
「パパは何がいい?」
「俺か? じゃあ縁側とタコ、それとコハダを頼む」
「了解。私はマグロとサーモン、それから唐揚げもいい?」
「この店の皿、全部食べてもいいぞ」
「それではお言葉に甘えて、茶碗蒸しもいい? パパも食べる?」
「俺も頼む」
楓はウキウキしながらパネルをタッチした。
やがて目の前のレーンに新幹線の形をした台車に寿司が乗せられて運ばれて来た。
「来た来た、はいパパの縁側と私のサーモン、そして茶碗蒸し」
楓は私の皿を取り、そして自分の皿を取ると旨そうにそれを頬張った。
「おいしー、美味しくて死んじゃいそう! 美味しいね? パパ」
楓は何度もパパを連発した。
私はそれがうれしくもあり、切なくもあった。
楓は父親の愛情に飢えていたのだ。
「ねえねえ、パパが今まで行ったところで何処が一番良かった?」
「それは国内でか?」
「うん、取り敢えず」
「神戸だな? 神戸は港町の中でも飛び抜けてエレガントな街だ。
外国の文化がいい意味で根付いている。
街も綺麗で、美味しい物もたくさんある。
それにお洒落な服もたくさんあるしな?」
「いいなあ、神戸かあ。行ってみたいなあ」
「じゃあ行くか? 家族で神戸に」
家族で・・・。
私はつい迂闊なことを言ってしまったと後悔した。
「えっ、いいの? 約束だよ、パパ!」
「ああ、行こうな? 神戸」
「やったー、そうしたらまた、神戸で三人で寝ようよ」
そう言ってはしゃぐ楓を見ていると、心が軋んだ。
私はこんな何気ない日常が欲しかったのかもしれない。それを人生の終わりに差し掛かって気付くとは、皮肉なものだ。
家に着くと、楓は友理子に興奮気味にその話をした。
「ママー! パパがね、今度、神戸に連れて行ってくれるんだって!」
「いいのあなた? 楓とそんな約束をして?」
「今度は家族で旅行しようと思ってな?
楓が春休みになったら出掛けるか? 神戸に」
「よかったわね? 楓」
「うん、楽しみだなー、神戸。
何を着て行こうかなー」
楽しそうに笑う友理子と楓を見て私は思った。
(神様、桜の咲く季節まで、どうか私を生かしておいて下さい)
私は神に祈った。
楓はうれしそうに回転寿司のタッチパネルを眺めていた。
友理子の代わりに楓を学校に迎えに来た私は、楓を回転寿司に誘ったのだ。
「パパは何がいい?」
「俺か? じゃあ縁側とタコ、それとコハダを頼む」
「了解。私はマグロとサーモン、それから唐揚げもいい?」
「この店の皿、全部食べてもいいぞ」
「それではお言葉に甘えて、茶碗蒸しもいい? パパも食べる?」
「俺も頼む」
楓はウキウキしながらパネルをタッチした。
やがて目の前のレーンに新幹線の形をした台車に寿司が乗せられて運ばれて来た。
「来た来た、はいパパの縁側と私のサーモン、そして茶碗蒸し」
楓は私の皿を取り、そして自分の皿を取ると旨そうにそれを頬張った。
「おいしー、美味しくて死んじゃいそう! 美味しいね? パパ」
楓は何度もパパを連発した。
私はそれがうれしくもあり、切なくもあった。
楓は父親の愛情に飢えていたのだ。
「ねえねえ、パパが今まで行ったところで何処が一番良かった?」
「それは国内でか?」
「うん、取り敢えず」
「神戸だな? 神戸は港町の中でも飛び抜けてエレガントな街だ。
外国の文化がいい意味で根付いている。
街も綺麗で、美味しい物もたくさんある。
それにお洒落な服もたくさんあるしな?」
「いいなあ、神戸かあ。行ってみたいなあ」
「じゃあ行くか? 家族で神戸に」
家族で・・・。
私はつい迂闊なことを言ってしまったと後悔した。
「えっ、いいの? 約束だよ、パパ!」
「ああ、行こうな? 神戸」
「やったー、そうしたらまた、神戸で三人で寝ようよ」
そう言ってはしゃぐ楓を見ていると、心が軋んだ。
私はこんな何気ない日常が欲しかったのかもしれない。それを人生の終わりに差し掛かって気付くとは、皮肉なものだ。
家に着くと、楓は友理子に興奮気味にその話をした。
「ママー! パパがね、今度、神戸に連れて行ってくれるんだって!」
「いいのあなた? 楓とそんな約束をして?」
「今度は家族で旅行しようと思ってな?
楓が春休みになったら出掛けるか? 神戸に」
「よかったわね? 楓」
「うん、楽しみだなー、神戸。
何を着て行こうかなー」
楽しそうに笑う友理子と楓を見て私は思った。
(神様、桜の咲く季節まで、どうか私を生かしておいて下さい)
私は神に祈った。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
★ランブルフィッシュ
菊池昭仁
現代文学
元ヤクザだった川村忠は事業に失敗し、何もかも失った。
そして夜の街で働き始め、そこで様々な人間模様を垣間見る。
生きることの辛さ、切なさの中に生きることの意味を見つけて行く川村。
何が正しくて何が間違っているか? そんなことは人間が後から付けた言い訳に過ぎない。
川村たちは闘魚、ランブルフィッシュのように闘い生きていた。
★【完結】ダブルファミリー(作品230717)
菊池昭仁
恋愛
結婚とはなんだろう?
生涯1人の女を愛し、ひとつの家族を大切にすることが人間としてのあるべき姿なのだろうか?
手を差し伸べてはいけないのか? 好きになっては、愛してはいけないのか?
結婚と恋愛。恋愛と形骸化した生活。
結婚している者が配偶者以外の人間を愛することを「倫理に非ず」不倫という。
男女の恋愛の意義とは?
★【完結】ペルセウス座流星群(作品241024)
菊池昭仁
現代文学
家族を必死に守ろうとした主人公が家族から次第に拒絶されていくという矛盾。
人は何のために生きて、どのように人生を終えるのが理想なのか? 夫として、父親としてのあるべき姿とは? 家族の絆の物語です。
★【完結】恋ほど切ない恋はない(作品241118)
菊池昭仁
現代文学
熟年離婚をした唐沢は、40年ぶりに中学のクラス会に誘われる。
そこで元マドンナ、後藤祥子と再会し、「大人の恋」をやり直すことになる。
人は幾つになっても恋をしていたいものである。
★【完結】小さな家(作品240305)
菊池昭仁
現代文学
建築家の宮永新一は、海が見える小高い丘の上に、「小さな家」の建築を依頼される。
その依頼主の女はその家にひとりで暮らすのだという。
人間にとって「家」とは、しあわせとは何かを考える物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる