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第3話 帰って来た男
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その昔、「東北のシカゴ」と恐れられた歓楽街に私は戻って来た。
西日の強い会長室。
逆光で井岡会長の表情を読み取ることは出来なかった。
「会長、ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」
「神崎、無断で休むなんておめえらしくもねえな?
いったい何があった? 言ってみろ」
「ちょっと体調を崩しまして・・・。すみませんでした」
「体調を崩した? 竜聖会の若頭と命の遣り取りまでしたお前が体調が悪い?」
井岡はタバコの煙をユックリと吐いた。
「会長、ここを辞めさせて下さい」
「何だ? いきなり藪から棒に。
何があったのか、俺に正直に話してみろ。ラクになれ神崎」
すると井岡は近くの冷蔵庫を開け、缶ビールを取出すとそれを私の前に置いた。
「飲んで少し落ち着け。この一週間で何があった?」
「いただきます」
私は缶ビールを開け、ゴクリと一口だけビールを飲んだ。
「先日、医者に行きました。心筋梗塞だと言われました。
私の心臓は50%しか機能していないそうです。
会長からお預かりしている大切な店に、迷惑を掛けるわけにはいきません。
ですからお暇をいただきたいのです」
すると井岡は椅子から立ち上がり、腕を抜き、和服の上を開けて見せた。
そこには数カ所の銃創や切り傷、刺し傷があり、腹には十文字の縫合跡もあった。
「これがこの暗黒街で生きて来た証よ。
俺もいつかは死ぬ、殺されるかもしれねえ。
それは10年後かも知れねえし、この5分後かもしれねえ。
それは誰にもわかりゃあしねえ。
道を歩いていて交通事故で死んじまうかもしれねえんだ。
神崎よ、一寸先は闇だ。わかるな?
その命、俺に預けろ、悪いようにはしねえ。
身体がキツイときは無理をするな、そのかわり連絡だけは入れろ、いいな?」
私は会長から貰ったまだビールが残ったビール缶を持ち、立ち上がった。
「これ、いただいていきます。喉が渇いているので」
「神崎、辛れえのはおめえだけじゃねえ、みんな同じだ」
私は井岡会長に頭を下げ、会長室を後にした。
缶ビールを飲みながら店に向かって歩いていると、後ろからミュウに声を掛けられた。
「おっはよ! 神崎部長。
お久しぶりだね? どうしたの? 一週間もいなくなっちゃって。
女と一緒だった? なんか瘠せたね? 大丈夫?」
「心配かけたな?」
「ううん、別にー。
ただ寂しかっただけ」
ミュウは店の稼ぎ頭で、気配りと洞察力のある女だった。
「これから同伴なんだ。
今日、お店が終わったらサブちゃんのお店で焼肉ごちそうしてよ、ミュウちゃんを心配させた罰だかんね?」
「ああわかった、気を付けてな」
「じゃあお店でね? バイチャ。うふふふふ」
ミュウたちは初め、私を受け入れようとはしなかった。
彼女たちは大人を信用してはいないのだ。
子供の頃から虐待され、虐められて大人になった子が殆どだったからだ。
彼女たちはいつも愛情に飢えていた。
彼女たちが本当に欲しいのは金ではなく、愛情だったのだ。
久しぶりに店に出ると、彼女たちは笑顔で私を迎えてくれた。
「支配人、お帰りなさーい!
どうしたの? 連絡もくれないでー」
「すまなかった。俺の留守中、何かあったか?」
「いつもとおんなじだよ、スケベ客のお相手してたよ、あはははは」
「そうか? じゃあ朝礼を始めるぞ」
「はーい!」
クラブ『ジュリエット』の幕が開いた。
西日の強い会長室。
逆光で井岡会長の表情を読み取ることは出来なかった。
「会長、ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」
「神崎、無断で休むなんておめえらしくもねえな?
いったい何があった? 言ってみろ」
「ちょっと体調を崩しまして・・・。すみませんでした」
「体調を崩した? 竜聖会の若頭と命の遣り取りまでしたお前が体調が悪い?」
井岡はタバコの煙をユックリと吐いた。
「会長、ここを辞めさせて下さい」
「何だ? いきなり藪から棒に。
何があったのか、俺に正直に話してみろ。ラクになれ神崎」
すると井岡は近くの冷蔵庫を開け、缶ビールを取出すとそれを私の前に置いた。
「飲んで少し落ち着け。この一週間で何があった?」
「いただきます」
私は缶ビールを開け、ゴクリと一口だけビールを飲んだ。
「先日、医者に行きました。心筋梗塞だと言われました。
私の心臓は50%しか機能していないそうです。
会長からお預かりしている大切な店に、迷惑を掛けるわけにはいきません。
ですからお暇をいただきたいのです」
すると井岡は椅子から立ち上がり、腕を抜き、和服の上を開けて見せた。
そこには数カ所の銃創や切り傷、刺し傷があり、腹には十文字の縫合跡もあった。
「これがこの暗黒街で生きて来た証よ。
俺もいつかは死ぬ、殺されるかもしれねえ。
それは10年後かも知れねえし、この5分後かもしれねえ。
それは誰にもわかりゃあしねえ。
道を歩いていて交通事故で死んじまうかもしれねえんだ。
神崎よ、一寸先は闇だ。わかるな?
その命、俺に預けろ、悪いようにはしねえ。
身体がキツイときは無理をするな、そのかわり連絡だけは入れろ、いいな?」
私は会長から貰ったまだビールが残ったビール缶を持ち、立ち上がった。
「これ、いただいていきます。喉が渇いているので」
「神崎、辛れえのはおめえだけじゃねえ、みんな同じだ」
私は井岡会長に頭を下げ、会長室を後にした。
缶ビールを飲みながら店に向かって歩いていると、後ろからミュウに声を掛けられた。
「おっはよ! 神崎部長。
お久しぶりだね? どうしたの? 一週間もいなくなっちゃって。
女と一緒だった? なんか瘠せたね? 大丈夫?」
「心配かけたな?」
「ううん、別にー。
ただ寂しかっただけ」
ミュウは店の稼ぎ頭で、気配りと洞察力のある女だった。
「これから同伴なんだ。
今日、お店が終わったらサブちゃんのお店で焼肉ごちそうしてよ、ミュウちゃんを心配させた罰だかんね?」
「ああわかった、気を付けてな」
「じゃあお店でね? バイチャ。うふふふふ」
ミュウたちは初め、私を受け入れようとはしなかった。
彼女たちは大人を信用してはいないのだ。
子供の頃から虐待され、虐められて大人になった子が殆どだったからだ。
彼女たちはいつも愛情に飢えていた。
彼女たちが本当に欲しいのは金ではなく、愛情だったのだ。
久しぶりに店に出ると、彼女たちは笑顔で私を迎えてくれた。
「支配人、お帰りなさーい!
どうしたの? 連絡もくれないでー」
「すまなかった。俺の留守中、何かあったか?」
「いつもとおんなじだよ、スケベ客のお相手してたよ、あはははは」
「そうか? じゃあ朝礼を始めるぞ」
「はーい!」
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