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第1話
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長い秋雨もあがり、目が眩むような白い朝を迎えた。
三日分のゴミを出しに家を出た時、急激な温度変化に心臓が萎縮し、軽い息切れがした。
ゴミ出しを終え、部屋に戻ると心臓喘息の発作が表れ、息が苦しい。
ベッドに横になろうとしたが苦しくて断念した。
私はデレクターズ・チェアに座り、症状が安定するのを待った。
腎臓病と糖尿病を抱えている私には心臓の薬は使えない。
一度、腹膜炎になりかけて手術、入院した時、冠状動脈の狭窄が見つかり、医師からカテーテル治療を勧められた。
「狭窄している血管を拡張しても、壊死している心筋は蘇生しませんよね?」
「でも今よりは楽にはなりますよ」
「だったら結構です、心筋梗塞で私の心臓は今、30%しか機能していないわけですよね? それに私は隻眼です、このまま死を待ちます」
「では治療拒否ということでよろしいですね?」
私は医者を見ずに軽く頷いた。
死ぬのは怖くなかった。映画のようなドラマチックな人生に後悔はない。
世界中を周って懸命に働き、美食や酒に溺れ、多くの女と戯れた。
ただなるべく人に迷惑をかけるような死に方だけはしたくはなかった。
死んで誰にも発見されずに腐敗が進み、ウジが湧いてハエがびっしりと集った、吐きそうな私の腐乱死体を検死することは申し訳ない。ただでさえ多忙な警察関係者にも迷惑が掛かってしまい、アパートの大家さんにも多大な損害を与えてしまうことになる。
私はいつ死んでもいいように、殆どの物は捨てた。
アルバムなどの写真類もすべて処分した。
故人の想い出の品は、後の人が処分に困るからだ。
過去の想い出に浸るほど、私は弱くはない。
別れた女房、子供たちは今どこに住んでいるのかは教えてもらってはいない。
着信拒否にこそされてはいなかったが、子供たちの誕生日に電話やメールをしても応答はなかった。
元家族に変わりはないかと月に一度、電話で女房に安否を確かめる程度だった。
元家族にも病気のことは伝えてあるが、向こうから連絡が来ることはない。
それだけ私は家族から嫌われていた。
だが私が死んで多少の生命保険金を元家族たちに残してやれたらそれでいいと思っている。
以前関係のあった女たちは「一緒に暮らして傍にいたい」とは言ってはくれるが、財産も失った私には彼女たちに何もしてあげることが出来ない。そんな何もない、今の私の世話をさせるわけにはいかない。
「娘さんは何て言っているの?」
「娘とはここ数年会っていないし、電話で話もしていない。
俺は娘に嫌われているからな?」
「そんなことはないと思う、娘にとって父親は特別な存在だから。
私にも父がいるからそれは分かる」
「娘はお前とは違うよ」
いつ倒れて病院に搬送されてもいいようにと、私はいつも清潔な下着を身につけ、いつも身ぎれいにしていた。
そしてもし道端で倒れた場合、救急車を呼んでもらった人にお礼として、封筒にメモと一万円をポケットに入れて持ち歩いていた。
救急車を呼んでいただきありがとうございました。
これはその御礼です、遠慮なくお納め下さい。
家には入院した場合の必要品と重要書類等がバッグにまとめて置いてあり、万が一のことも考えて遺書も入れてある。
死への準備は万全だ。
だが雨の夜になると、ふとこのまま家を出て、誰にも発見されないような森か海へ行き、自らの命を断つことも考えてしまいそうになることもある。
俺は強い人間のはずなのに。
やっと喘息も収まり、呼吸も安定してきた。
淀んだ部屋の空気を一掃するため、私はすべての窓を開け、朝の爽やかな秋の風を部屋に招き入れた。
私は膝から崩れ落ち、さめざめと泣いた。まるで女のように。
死ぬ勇気もなく、ただ流されて生きる毎日。
何もかもが中途半端だった。
三日分のゴミを出しに家を出た時、急激な温度変化に心臓が萎縮し、軽い息切れがした。
ゴミ出しを終え、部屋に戻ると心臓喘息の発作が表れ、息が苦しい。
ベッドに横になろうとしたが苦しくて断念した。
私はデレクターズ・チェアに座り、症状が安定するのを待った。
腎臓病と糖尿病を抱えている私には心臓の薬は使えない。
一度、腹膜炎になりかけて手術、入院した時、冠状動脈の狭窄が見つかり、医師からカテーテル治療を勧められた。
「狭窄している血管を拡張しても、壊死している心筋は蘇生しませんよね?」
「でも今よりは楽にはなりますよ」
「だったら結構です、心筋梗塞で私の心臓は今、30%しか機能していないわけですよね? それに私は隻眼です、このまま死を待ちます」
「では治療拒否ということでよろしいですね?」
私は医者を見ずに軽く頷いた。
死ぬのは怖くなかった。映画のようなドラマチックな人生に後悔はない。
世界中を周って懸命に働き、美食や酒に溺れ、多くの女と戯れた。
ただなるべく人に迷惑をかけるような死に方だけはしたくはなかった。
死んで誰にも発見されずに腐敗が進み、ウジが湧いてハエがびっしりと集った、吐きそうな私の腐乱死体を検死することは申し訳ない。ただでさえ多忙な警察関係者にも迷惑が掛かってしまい、アパートの大家さんにも多大な損害を与えてしまうことになる。
私はいつ死んでもいいように、殆どの物は捨てた。
アルバムなどの写真類もすべて処分した。
故人の想い出の品は、後の人が処分に困るからだ。
過去の想い出に浸るほど、私は弱くはない。
別れた女房、子供たちは今どこに住んでいるのかは教えてもらってはいない。
着信拒否にこそされてはいなかったが、子供たちの誕生日に電話やメールをしても応答はなかった。
元家族に変わりはないかと月に一度、電話で女房に安否を確かめる程度だった。
元家族にも病気のことは伝えてあるが、向こうから連絡が来ることはない。
それだけ私は家族から嫌われていた。
だが私が死んで多少の生命保険金を元家族たちに残してやれたらそれでいいと思っている。
以前関係のあった女たちは「一緒に暮らして傍にいたい」とは言ってはくれるが、財産も失った私には彼女たちに何もしてあげることが出来ない。そんな何もない、今の私の世話をさせるわけにはいかない。
「娘さんは何て言っているの?」
「娘とはここ数年会っていないし、電話で話もしていない。
俺は娘に嫌われているからな?」
「そんなことはないと思う、娘にとって父親は特別な存在だから。
私にも父がいるからそれは分かる」
「娘はお前とは違うよ」
いつ倒れて病院に搬送されてもいいようにと、私はいつも清潔な下着を身につけ、いつも身ぎれいにしていた。
そしてもし道端で倒れた場合、救急車を呼んでもらった人にお礼として、封筒にメモと一万円をポケットに入れて持ち歩いていた。
救急車を呼んでいただきありがとうございました。
これはその御礼です、遠慮なくお納め下さい。
家には入院した場合の必要品と重要書類等がバッグにまとめて置いてあり、万が一のことも考えて遺書も入れてある。
死への準備は万全だ。
だが雨の夜になると、ふとこのまま家を出て、誰にも発見されないような森か海へ行き、自らの命を断つことも考えてしまいそうになることもある。
俺は強い人間のはずなのに。
やっと喘息も収まり、呼吸も安定してきた。
淀んだ部屋の空気を一掃するため、私はすべての窓を開け、朝の爽やかな秋の風を部屋に招き入れた。
私は膝から崩れ落ち、さめざめと泣いた。まるで女のように。
死ぬ勇気もなく、ただ流されて生きる毎日。
何もかもが中途半端だった。
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