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第8話 突き抜ける悲しみ
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金曜日の夜、聡はいつものように遥のアパートに向かった。
だが、今日の聡の足取りは鉛のように重かった。
聡は駅前のケーキ屋で遥の好物のニューヨークスタイルのレアチーズケーキを買った。
聡はいつものように遥から渡されている合鍵でドアを開けた。
遥は聡の足音を聞き付け、すでに狭い玄関で両手を広げて聡を待っていた。
「お帰り聡! すっんっごく会いたかったよ!」
遥は聡に抱き付き熱いキスをした。
「ご飯出来てるけど先にお風呂にする?
私はもう先に入って、ほらね、聡のお気に入りのピンクのフリルパンツだよ」
そう言って、遥は笑ってスカートをたくし上げて見せた。
いつもならすぐに遥に抱き付いてくるはずの聡は冷静だった。
「これ、遥の好きな駅前の店のレアチーズ」
「わあ、ありがとう!
丁度食べたいと思ってたんだ、以心伝心だね?」
聡はそのままテーブルの前に座った。
テーブルの上には聡の好きなカツオの刺身と鶏の唐揚げが用意されていた。
「ビール? それともワインにする?」
「じゃあビールを貰おうかな?」
遥は冷蔵庫から缶ビールを2本取り出し缶ビールを開け、聡のグラスに注いだ。
「洗うの面倒だから私はこのままでいいや、それじゃ今日もお仕事お疲れ様でした、かんぱーい!
どれどれ、ケーキちゃんはどんなカンジかな?」
遥はケーキの包みを開けた。
「わあー、美味しそうー。
ではちょっとだけお味見を」
遥はケーキに添えられたプラスチックのスプーンでそれを少し口にした。
「うーん最高! 聡も食べてみる?」
聡は首を横に振った。
「どうしたの? 元気がないみたいだけど何か嫌な事でもあった?」
「遥、落ち着いて聞いて欲しいことがあるんだ」
「何よ、そんな改まって」
「結婚できなくなったんだ、遥と・・・」
遥からさっきまでの笑顔が一瞬で消えた。
「嘘でしょ? 何? エイプリルフールはまだ先だよ?」
「子供が出来たんだ」
「誰の?」
「僕の子供だ」
「誰との?」
「政治家の大山光三の娘との・・・」
その瞬間、遥は目の前のケーキを鷲掴みにすると聡の顔や頭にそれをゆっくりと塗り付けた。
聡は抵抗しなかった。
「どう? 美味しい? 私のお気に入りのレアケーキ。
子供が出来たですって?
私とはあんなに気をつけていたのに?
良かった? その子とのセックス?
中にするくらいだからよっぽど素敵な女なんでしょうね?
どんなふうにしたの? 言いなさいよ、ほら早く」
遥は今度は飲みかけの缶ビールを掴むと聡の頭にそれを注いだ。
ビールが聡の髪に音を立てて滲み込んでゆき、聡の顔を濡らした。
「ごめん、遥・・・」
聡は背広の内ポケットから100万円の入った茶封筒をテーブルの上に置いた。
それは父親から渡された手切れ金だった。
遥は封筒から札束を取出し帯封を切ると、思い切り聡の顔にそれを投げつけた。
紙幣が部屋に散らばった。
「馬鹿にしないで!
私はこんな安い女じゃないわ!」
そして遥は台所にあった果物ナイフを自分の喉元に当てた。
聡はあわててそれを止めようとした。
「やめろ、遥!」
刃先が少しだけ遥の喉元に触れ、一筋の赤い糸のように血が遥の白い胸元に流れていった。
「来ないで! 来たら死ぬから!
私がどれだけ聡を愛していたか、今から証明してあげるからよく見ていなさい!
毎日毎日、聡の事ばっかり考えてた! コンビニであなたの好きなエビマヨのおにぎりを見たり、街であなたと同じコートの人を見掛けるだけで胸が熱くなった。
子供が出来たから別れてくれですって?
おまけにお金まで付けて・・・。
これ、手切れ金のつもりなの?
聡、教えてよ、これから私、どうやって生きていけばいいの?
こんなにも聡を愛してしまったこの私は?
さあ教えてよ! 私はこれからどうやって生きていけばいいのか!
黙ってないで答えなさいよ! 今すぐに!」
遥はナイフを床に落とし、その場に泣き崩れた。
聡はそんな遥を抱き締めようとした。
「近寄らないで! そんな女を抱いた汚れた手で私に触らないで!
今すぐ消えて! 私の前から今すぐに!
顔も見たくない! 二度とここに来ないで! 出て行って! 早く!」
遥は玄関に聡を追いやりドアを開け、聡を外へ突き飛ばした。
そして聡の靴を投げつけ玄関の鍵を掛けた。
聡はズボンのポケットから合鍵の付いたキーホルダーを取り出すと、ドアポストにそれを投じた。
鍵がポストに落ちた冷たい金属音がした。
それが聡と遥の恋の終わりを告げた。
部屋の中から泣き叫ぶ遥の声が聞こえていた。
聡はその声が小さくなって消えるまで、放心したままそこに立ち竦んでいた。
とても寒く長い夜だった。
だが、今日の聡の足取りは鉛のように重かった。
聡は駅前のケーキ屋で遥の好物のニューヨークスタイルのレアチーズケーキを買った。
聡はいつものように遥から渡されている合鍵でドアを開けた。
遥は聡の足音を聞き付け、すでに狭い玄関で両手を広げて聡を待っていた。
「お帰り聡! すっんっごく会いたかったよ!」
遥は聡に抱き付き熱いキスをした。
「ご飯出来てるけど先にお風呂にする?
私はもう先に入って、ほらね、聡のお気に入りのピンクのフリルパンツだよ」
そう言って、遥は笑ってスカートをたくし上げて見せた。
いつもならすぐに遥に抱き付いてくるはずの聡は冷静だった。
「これ、遥の好きな駅前の店のレアチーズ」
「わあ、ありがとう!
丁度食べたいと思ってたんだ、以心伝心だね?」
聡はそのままテーブルの前に座った。
テーブルの上には聡の好きなカツオの刺身と鶏の唐揚げが用意されていた。
「ビール? それともワインにする?」
「じゃあビールを貰おうかな?」
遥は冷蔵庫から缶ビールを2本取り出し缶ビールを開け、聡のグラスに注いだ。
「洗うの面倒だから私はこのままでいいや、それじゃ今日もお仕事お疲れ様でした、かんぱーい!
どれどれ、ケーキちゃんはどんなカンジかな?」
遥はケーキの包みを開けた。
「わあー、美味しそうー。
ではちょっとだけお味見を」
遥はケーキに添えられたプラスチックのスプーンでそれを少し口にした。
「うーん最高! 聡も食べてみる?」
聡は首を横に振った。
「どうしたの? 元気がないみたいだけど何か嫌な事でもあった?」
「遥、落ち着いて聞いて欲しいことがあるんだ」
「何よ、そんな改まって」
「結婚できなくなったんだ、遥と・・・」
遥からさっきまでの笑顔が一瞬で消えた。
「嘘でしょ? 何? エイプリルフールはまだ先だよ?」
「子供が出来たんだ」
「誰の?」
「僕の子供だ」
「誰との?」
「政治家の大山光三の娘との・・・」
その瞬間、遥は目の前のケーキを鷲掴みにすると聡の顔や頭にそれをゆっくりと塗り付けた。
聡は抵抗しなかった。
「どう? 美味しい? 私のお気に入りのレアケーキ。
子供が出来たですって?
私とはあんなに気をつけていたのに?
良かった? その子とのセックス?
中にするくらいだからよっぽど素敵な女なんでしょうね?
どんなふうにしたの? 言いなさいよ、ほら早く」
遥は今度は飲みかけの缶ビールを掴むと聡の頭にそれを注いだ。
ビールが聡の髪に音を立てて滲み込んでゆき、聡の顔を濡らした。
「ごめん、遥・・・」
聡は背広の内ポケットから100万円の入った茶封筒をテーブルの上に置いた。
それは父親から渡された手切れ金だった。
遥は封筒から札束を取出し帯封を切ると、思い切り聡の顔にそれを投げつけた。
紙幣が部屋に散らばった。
「馬鹿にしないで!
私はこんな安い女じゃないわ!」
そして遥は台所にあった果物ナイフを自分の喉元に当てた。
聡はあわててそれを止めようとした。
「やめろ、遥!」
刃先が少しだけ遥の喉元に触れ、一筋の赤い糸のように血が遥の白い胸元に流れていった。
「来ないで! 来たら死ぬから!
私がどれだけ聡を愛していたか、今から証明してあげるからよく見ていなさい!
毎日毎日、聡の事ばっかり考えてた! コンビニであなたの好きなエビマヨのおにぎりを見たり、街であなたと同じコートの人を見掛けるだけで胸が熱くなった。
子供が出来たから別れてくれですって?
おまけにお金まで付けて・・・。
これ、手切れ金のつもりなの?
聡、教えてよ、これから私、どうやって生きていけばいいの?
こんなにも聡を愛してしまったこの私は?
さあ教えてよ! 私はこれからどうやって生きていけばいいのか!
黙ってないで答えなさいよ! 今すぐに!」
遥はナイフを床に落とし、その場に泣き崩れた。
聡はそんな遥を抱き締めようとした。
「近寄らないで! そんな女を抱いた汚れた手で私に触らないで!
今すぐ消えて! 私の前から今すぐに!
顔も見たくない! 二度とここに来ないで! 出て行って! 早く!」
遥は玄関に聡を追いやりドアを開け、聡を外へ突き飛ばした。
そして聡の靴を投げつけ玄関の鍵を掛けた。
聡はズボンのポケットから合鍵の付いたキーホルダーを取り出すと、ドアポストにそれを投じた。
鍵がポストに落ちた冷たい金属音がした。
それが聡と遥の恋の終わりを告げた。
部屋の中から泣き叫ぶ遥の声が聞こえていた。
聡はその声が小さくなって消えるまで、放心したままそこに立ち竦んでいた。
とても寒く長い夜だった。
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