2 / 26
第2話 突然の告白
しおりを挟む
冴島は今までに付き合ったことのないタイプの男性だった。
身のこなしがスマートで、スーツとネクタイの趣味がとても素敵だった。
そして彼が最も優れていたのが、人の気持ちを読み取る能力だった。
今思えば私の冴島に対する想いは、初めて出会った時から見透かされていたのかもしれない。
冴島たちとの仕事の打ち合わせも終わり、会議室を出ようとした時、冴島から呼び止められた。
「君島チーフ、今週の金曜日、お時間はありますか?
実はウチの部で飲み会があるんですよ。
いつも君島チーフにはお世話になっているので、そのお礼と言っては何ですが、いかがでしょう? 内輪の飲み会なんですが参加していただけませんか?
新人の村井が君島チーフのファンでして、是非、君島チーフのカラオケをお聴きしたいと言うものですから。
もちろん私も君島チーフのファンです。いかがでしょう?」
「村井君も面白い子ですね? こんなおばさんとカラオケがしたいなんて」
悪い気はしなかった。だが取引先との飲み会には気が引けた。
「おばさんだなんてとんでもない、チーフはとても素敵な女性ですよ」
「冴島さん、それってセクハラですよ。うふっ」
「これは失礼。でも本当に美しいと思います、君島さんは」
社内のつまらない飲み会には付き合いで仕方なく参加していたが、冴島たちに持ち上げられての飲み会は少し惹かれた。
「じゃあ、ウチの綺麗どころも誘ってもいいですか? イケメン大好物なんです、私たち」
「それはうれしいなあ。イケメンかどうかは別として、あいつらも喜ぶと思います。
時間と場所については後日メールをさせていただきます。
では、失礼いたします」
帰り際のロッカールームで私は自分の引き立て役として、お局の早苗と部下の知子を誘うことにした。
「今週の金曜日なんですけど、おふたりのご予定は?
五菱商事の冴島部長さんから「部の飲み会があるのでどうですか?」ってお誘いがあったんですけど、参加しません?」
案の定、すぐに知子が食い付いて来た。知子は村井に気があるからだ。
「チーフ、村井君も来ます?」
「来るそうよ」
「私、村井君のことを前から狙っていたんですよ。商社マンのイケメン君だし。
行きます行きます! 絶対に行きます!」
そして早苗も、
「しょうがないわねー、あなたたちだけでは不安でしょうから、このおばさんが引率係ということで付いていくしかなさそうね?」
早苗はアラフォーではあるが、まだ結婚願望を捨ててはいない。
かなり高額の婚活会社にも入会しているという噂だった。
「ありがとうございます係長。
冴島部長も喜ぶと思います」
「でも本当にいいのかしら、こんなおばさんが参加しても?」
「おばさんだなんて係長、どうします? お持ち帰りなんかされちゃったら?」
「ないない、それはないわよ」
(おばさんだからいいのよ)
早苗も知子もやる気満々だった。
一次会はスペインレストランだった。
「いかがですか君島チーフ? ここのパエリアは最高でしょう?
サフランが効いていて、僕、大好きなんですよここのパエリア。
だから是非一度、君島さんにも食べていただきたくて。
今日の幹事は僕から立候補しました!」
村井君はジャニーズのようなカワイイ男の子だったが、私は年下には興味がなかった。
「本当においしいわ、知ちゃん、美味しいわよね?」
私は知子に村井君との会話を繋いであげた。
「はい! すっごく美味しいですう!
さすがは村井君、私、グルメな人大好き!」
知子は人前ではぶりっ子キャラだが馬鹿ではない。
横浜のお嬢様大学を優秀な成績で卒業した知子は、ウチに入社して来た強者だ。
わざと男に付け入る隙を見せるテクニックには、かなり場慣れした感がある。
早苗には冴島が付いていた。
彼は早苗のご機嫌を取りながら、上手にエスコートしている。
「そうなんですか? 江崎さんは帰国子女だったんですね?
どうりで振る舞いが日本人離れしていると思っていました。
アメリカはどちらに?」
「父の仕事の関係で、小学生まではニューヨークにおりました。
そして中学はウエストコーストのサンディエゴでしたので、私、日本語が少しおかしくありませんか?」
「いいえ、とても綺麗な日本語ですよ。女子アナさんみたいに。
私も2年ほどロスに駐在しておりましたので、サンディエゴにも行ったことがあります。
軍港の街ですよね? 動物園も行ったかなあ? すごいスケールですよね、アメリカは」
「懐かしいわあ、私もよく両親と出掛けました、サンディエゴ動物園。中学生でしたけどね? うふふ」
タイプだった冴島におだてられ、早苗は会社にいる時とは違い、かなり饒舌だった。
今日はとても気分の良い飲み会だった。
私は久しぶりにお酒を飲んだせいか、少し酔いが早く回った。
「では、宴もたけなわですが、これから渋谷でカラオケ大会になりますので、みなさんタクシーに乗り合わせてご移動をお願いしまーす」
私たちはそれぞれタクシーに分乗した。
「君島さーん、このタクシーにどうぞ」
私は冴島と同じタクシーに乗った。
「君島さん、おかげさまで今日はとても楽しい飲み会になりました。ありがとうございます。
あなたとお酒が飲めるなんて最高ですよ」
「いつもお上手ですね? 冴島部長さんは。
そうやって、何人の女性を口説いたんですか?」
「とんでもない。そんな風に見えますか? 私?
これでも結構一途なんですけどね?」
「そんな風には見えませんよ、プレイボーイにしか」
タクシーがウインカーを出して、右に曲がろうとした時、私の体が冴島にしだれ掛かった。
その時、私の耳元で冴島が囁いた。
「君島さんのことが好きです」
私は冴島に体を預けたまま、返す言葉を失っていた。
(冴島さんは酔っているのよ、真剣に受け止めるなんてバカよ)
私はもうひとりの自分にそう言い聞かせた。
身のこなしがスマートで、スーツとネクタイの趣味がとても素敵だった。
そして彼が最も優れていたのが、人の気持ちを読み取る能力だった。
今思えば私の冴島に対する想いは、初めて出会った時から見透かされていたのかもしれない。
冴島たちとの仕事の打ち合わせも終わり、会議室を出ようとした時、冴島から呼び止められた。
「君島チーフ、今週の金曜日、お時間はありますか?
実はウチの部で飲み会があるんですよ。
いつも君島チーフにはお世話になっているので、そのお礼と言っては何ですが、いかがでしょう? 内輪の飲み会なんですが参加していただけませんか?
新人の村井が君島チーフのファンでして、是非、君島チーフのカラオケをお聴きしたいと言うものですから。
もちろん私も君島チーフのファンです。いかがでしょう?」
「村井君も面白い子ですね? こんなおばさんとカラオケがしたいなんて」
悪い気はしなかった。だが取引先との飲み会には気が引けた。
「おばさんだなんてとんでもない、チーフはとても素敵な女性ですよ」
「冴島さん、それってセクハラですよ。うふっ」
「これは失礼。でも本当に美しいと思います、君島さんは」
社内のつまらない飲み会には付き合いで仕方なく参加していたが、冴島たちに持ち上げられての飲み会は少し惹かれた。
「じゃあ、ウチの綺麗どころも誘ってもいいですか? イケメン大好物なんです、私たち」
「それはうれしいなあ。イケメンかどうかは別として、あいつらも喜ぶと思います。
時間と場所については後日メールをさせていただきます。
では、失礼いたします」
帰り際のロッカールームで私は自分の引き立て役として、お局の早苗と部下の知子を誘うことにした。
「今週の金曜日なんですけど、おふたりのご予定は?
五菱商事の冴島部長さんから「部の飲み会があるのでどうですか?」ってお誘いがあったんですけど、参加しません?」
案の定、すぐに知子が食い付いて来た。知子は村井に気があるからだ。
「チーフ、村井君も来ます?」
「来るそうよ」
「私、村井君のことを前から狙っていたんですよ。商社マンのイケメン君だし。
行きます行きます! 絶対に行きます!」
そして早苗も、
「しょうがないわねー、あなたたちだけでは不安でしょうから、このおばさんが引率係ということで付いていくしかなさそうね?」
早苗はアラフォーではあるが、まだ結婚願望を捨ててはいない。
かなり高額の婚活会社にも入会しているという噂だった。
「ありがとうございます係長。
冴島部長も喜ぶと思います」
「でも本当にいいのかしら、こんなおばさんが参加しても?」
「おばさんだなんて係長、どうします? お持ち帰りなんかされちゃったら?」
「ないない、それはないわよ」
(おばさんだからいいのよ)
早苗も知子もやる気満々だった。
一次会はスペインレストランだった。
「いかがですか君島チーフ? ここのパエリアは最高でしょう?
サフランが効いていて、僕、大好きなんですよここのパエリア。
だから是非一度、君島さんにも食べていただきたくて。
今日の幹事は僕から立候補しました!」
村井君はジャニーズのようなカワイイ男の子だったが、私は年下には興味がなかった。
「本当においしいわ、知ちゃん、美味しいわよね?」
私は知子に村井君との会話を繋いであげた。
「はい! すっごく美味しいですう!
さすがは村井君、私、グルメな人大好き!」
知子は人前ではぶりっ子キャラだが馬鹿ではない。
横浜のお嬢様大学を優秀な成績で卒業した知子は、ウチに入社して来た強者だ。
わざと男に付け入る隙を見せるテクニックには、かなり場慣れした感がある。
早苗には冴島が付いていた。
彼は早苗のご機嫌を取りながら、上手にエスコートしている。
「そうなんですか? 江崎さんは帰国子女だったんですね?
どうりで振る舞いが日本人離れしていると思っていました。
アメリカはどちらに?」
「父の仕事の関係で、小学生まではニューヨークにおりました。
そして中学はウエストコーストのサンディエゴでしたので、私、日本語が少しおかしくありませんか?」
「いいえ、とても綺麗な日本語ですよ。女子アナさんみたいに。
私も2年ほどロスに駐在しておりましたので、サンディエゴにも行ったことがあります。
軍港の街ですよね? 動物園も行ったかなあ? すごいスケールですよね、アメリカは」
「懐かしいわあ、私もよく両親と出掛けました、サンディエゴ動物園。中学生でしたけどね? うふふ」
タイプだった冴島におだてられ、早苗は会社にいる時とは違い、かなり饒舌だった。
今日はとても気分の良い飲み会だった。
私は久しぶりにお酒を飲んだせいか、少し酔いが早く回った。
「では、宴もたけなわですが、これから渋谷でカラオケ大会になりますので、みなさんタクシーに乗り合わせてご移動をお願いしまーす」
私たちはそれぞれタクシーに分乗した。
「君島さーん、このタクシーにどうぞ」
私は冴島と同じタクシーに乗った。
「君島さん、おかげさまで今日はとても楽しい飲み会になりました。ありがとうございます。
あなたとお酒が飲めるなんて最高ですよ」
「いつもお上手ですね? 冴島部長さんは。
そうやって、何人の女性を口説いたんですか?」
「とんでもない。そんな風に見えますか? 私?
これでも結構一途なんですけどね?」
「そんな風には見えませんよ、プレイボーイにしか」
タクシーがウインカーを出して、右に曲がろうとした時、私の体が冴島にしだれ掛かった。
その時、私の耳元で冴島が囁いた。
「君島さんのことが好きです」
私は冴島に体を預けたまま、返す言葉を失っていた。
(冴島さんは酔っているのよ、真剣に受け止めるなんてバカよ)
私はもうひとりの自分にそう言い聞かせた。
10
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
裏切りの代償
志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。
家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。
連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。
しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。
他サイトでも掲載しています。
R15を保険で追加しました。
表紙は写真AC様よりダウンロードしました。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる