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第2話 突然の告白

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 冴島は今までに付き合ったことのないタイプの男性だった。
 身のこなしがスマートで、スーツとネクタイの趣味がとても素敵だった。

 そして彼が最も優れていたのが、人の気持ちを読み取る能力だった。
 今思えば私の冴島に対する想いは、初めて出会った時から見透かされていたのかもしれない。
 


 冴島たちとの仕事の打ち合わせも終わり、会議室を出ようとした時、冴島から呼び止められた。


 「君島チーフ、今週の金曜日、お時間はありますか?
 実はウチの部で飲み会があるんですよ。
 いつも君島チーフにはお世話になっているので、そのお礼と言っては何ですが、いかがでしょう? 内輪の飲み会なんですが参加していただけませんか?
 新人の村井が君島チーフのファンでして、是非、君島チーフのカラオケをお聴きしたいと言うものですから。
 もちろん私も君島チーフのファンです。いかがでしょう?」
 「村井君も面白い子ですね? こんなおばさんとカラオケがしたいなんて」

 悪い気はしなかった。だが取引先との飲み会には気が引けた。

 「おばさんだなんてとんでもない、チーフはとても素敵な女性ですよ」
 「冴島さん、それってセクハラですよ。うふっ」
 「これは失礼。でも本当に美しいと思います、君島さんは」

 社内のつまらない飲み会には付き合いで仕方なく参加していたが、冴島たちに持ち上げられての飲み会は少し惹かれた。

 「じゃあ、ウチの綺麗どころも誘ってもいいですか? イケメン大好物なんです、私たち」
 「それはうれしいなあ。イケメンかどうかは別として、あいつらも喜ぶと思います。
 時間と場所については後日メールをさせていただきます。
 では、失礼いたします」



 帰り際のロッカールームで私は自分の引き立て役として、お局の早苗と部下の知子を誘うことにした。

 「今週の金曜日なんですけど、おふたりのご予定は?
 五菱商事の冴島部長さんから「部の飲み会があるのでどうですか?」ってお誘いがあったんですけど、参加しません?」

 案の定、すぐに知子が食い付いて来た。知子は村井に気があるからだ。

 「チーフ、村井君も来ます?」
 「来るそうよ」
 「私、村井君のことを前から狙っていたんですよ。商社マンのイケメン君だし。
 行きます行きます! 絶対に行きます!」

 そして早苗も、

 「しょうがないわねー、あなたたちだけでは不安でしょうから、このおばさんが引率係ということで付いていくしかなさそうね?」

 早苗はアラフォーではあるが、まだ結婚願望を捨ててはいない。
 かなり高額の婚活会社にも入会しているという噂だった。


 「ありがとうございます係長。
 冴島部長も喜ぶと思います」
 「でも本当にいいのかしら、こんなおばさんが参加しても?」
 「おばさんだなんて係長、どうします? お持ち帰りなんかされちゃったら?」
 「ないない、それはないわよ」

 (おばさんだからいいのよ)

 早苗も知子もやる気満々だった。




 一次会はスペインレストランだった。

 「いかがですか君島チーフ? ここのパエリアは最高でしょう?
 サフランが効いていて、僕、大好きなんですよここのパエリア。
 だから是非一度、君島さんにも食べていただきたくて。
 今日の幹事は僕から立候補しました!」

 村井君はジャニーズのようなカワイイ男の子だったが、私は年下には興味がなかった。

 「本当においしいわ、知ちゃん、美味しいわよね?」

 私は知子に村井君との会話を繋いであげた。

 「はい! すっごく美味しいですう!
 さすがは村井君、私、グルメな人大好き!」

 知子は人前ではぶりっ子キャラだが馬鹿ではない。
 横浜のお嬢様大学を優秀な成績で卒業した知子は、ウチに入社して来た強者だ。
 わざと男に付け入る隙を見せるテクニックには、かなり場慣れした感がある。

 早苗には冴島が付いていた。
 彼は早苗のご機嫌を取りながら、上手にエスコートしている。


 「そうなんですか? 江崎さんは帰国子女だったんですね?
 どうりで振る舞いが日本人離れしていると思っていました。
 アメリカはどちらに?」
 「父の仕事の関係で、小学生まではニューヨークにおりました。
 そして中学はウエストコーストのサンディエゴでしたので、私、日本語が少しおかしくありませんか?」
 「いいえ、とても綺麗な日本語ですよ。女子アナさんみたいに。
 私も2年ほどロスに駐在しておりましたので、サンディエゴにも行ったことがあります。
 軍港の街ですよね? 動物園も行ったかなあ? すごいスケールですよね、アメリカは」
 「懐かしいわあ、私もよく両親と出掛けました、サンディエゴ動物園。中学生でしたけどね? うふふ」

 タイプだった冴島におだてられ、早苗は会社にいる時とは違い、かなり饒舌だった。


 今日はとても気分の良い飲み会だった。
 私は久しぶりにお酒を飲んだせいか、少し酔いが早く回った。

 
 「では、宴もたけなわですが、これから渋谷でカラオケ大会になりますので、みなさんタクシーに乗り合わせてご移動をお願いしまーす」

 私たちはそれぞれタクシーに分乗した。
 
 「君島さーん、このタクシーにどうぞ」

 私は冴島と同じタクシーに乗った。


 「君島さん、おかげさまで今日はとても楽しい飲み会になりました。ありがとうございます。
 あなたとお酒が飲めるなんて最高ですよ」
 「いつもお上手ですね? 冴島部長さんは。
 そうやって、何人の女性を口説いたんですか?」
 「とんでもない。そんな風に見えますか? 私?
 これでも結構一途なんですけどね?」
 「そんな風には見えませんよ、プレイボーイにしか」


 タクシーがウインカーを出して、右に曲がろうとした時、私の体が冴島にしだれ掛かった。
 その時、私の耳元で冴島が囁いた。

 「君島さんのことが好きです」

 私は冴島に体を預けたまま、返す言葉を失っていた。

 (冴島さんは酔っているのよ、真剣に受け止めるなんてバカよ)

 私はもうひとりの自分にそう言い聞かせた。 
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