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第2話

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 「寺田、忘れ物はない?」
 「はい、大丈夫です」
 「アンタいつもそう言って忘れんだからさー。
 坂巻社長への手土産、月亭の『栗羊羹』は?」
 「あっ、忘れてました! 桃子先輩、知っててそう言うのはちょっと意地悪ですよ」
 「アンタねー、その羊羹を買うのに朝から2時間も並んだんでしょう? どうしてそれを忘れるかなあー? 
 仕事以前の話でしょ」
 「ごめんなさい」
 「寺田、お前、今いくつ?
 小学生じゃないんだからさあー、しっかりしてよ!」
 「すみません」
 「いいから早く取って来なさい」


 すると同僚の紀香が羊羹の袋を持って駐車場に走って来た。

 「寺田君、これ忘れてどうすんのよー、まったく。
 顔はジャニーズなのに残念。社会人なんだからさあ、もっとちゃんとしなさいよ。
 桃も大変ね? 寺田君みたいな後輩ちゃんを持つと」
 「ありがとう紀香。今、取りに行かせるところだったのよ」
 「寺田君、桃子お姉ちゃんに迷惑かけちゃダメよ。
 今日の商談は重要なんだから。
 そのデザイン画を作るのに何日掛かったと思うの」
 「すみません、ごめんなさい」
 「じゃあ行くわよ。紀香、今日、商談が上手くいったらいつものところで女子会ね?」
 「了解。がんばってね?」
 「行って来るねー」



 桃子の仕事はいつも完璧だった。
 今のところ、勝率は8対2といったところだろうか?
 チャーミングな容姿とルックス。綿密な調査に基づくタイムリーな提案には定評があった。


 「・・・というご提案になります。いかがですか? 坂巻社長」

 坂巻はすでに桃子の企画に決めてはいたが、ちょっとした下心があった。

 「君の言いたいことはよく分かった。
 どうかね? 今夜、ワシと食事でもしながらこのプロジェクトについての打ち合わせでも?」
 「はい、喜んで! お肉ですか? それともお寿司ですか?」
 「霧島君の好きな物でいいよ」
 「わかりました。それではまずこちらの契約書にサインを頂けますでしょうか?」
 「食事の時ではダメかね?」
 「ゆっくりと楽しくお食事がしたいので、出来れば今だとうれしいです。うふっ」
 「わかった、わかった」

 坂巻はその契約書にゴム印と代表者印を押した。

 「ありがとうございます、坂巻社長!
 では何時にどちらへ伺えばよろしいでしょうか?」
 「19時にホテル・シャインの鉄板焼きの店ではどうかね?
 そこで松坂牛でもご馳走しようじゃないか?」
 「うわー、松坂さん大好きです!」

 坂巻はちらりと寺田の方を見た。
 言いたいことは分かっている。桃子はそれをすぐに察知し、坂巻の思いを代弁した。

 「寺田にはまだ松坂牛は早いので、今日は私だけごちそうになります」
 「そうか? 残念だねえ。
 じゃあ寺田君は次回ということで」
 「畏れ入ります」




 帰りのクルマの中で寺田が言った。

 「大丈夫ですか? ホテルで食事だなんて」
 「しょうがないでしょう? これも営業の仕事の内なのよ。
 女の武器は最大限に活用しないとね?
 キャバクラの同伴だと思えば気楽なものよ。こんなのいつものことだから。
 高いお金を払うんだから、私もセットということなのよ」
 「枕営業? ですか?」
 「アンタ馬鹿なの? そんなことするわけないでしょう?
 あんなハゲオヤジ! 私は風俗嬢じゃないんだから。
 男なんて一度やらせたらおしまいなの。すぐに自分の女みたいな顔をする。
 それにそんなことばかりしていたらいずれ自滅するわよ」
 「流石です、桃子先輩は」
 「後でホテルまで送ってね?」
 「わかりました」
 「紀香にLINEしなくちゃ」


       ゴメン 契約にはなったけど 
       エロ社長にゴハン 誘われちゃったの
       また今度ね


                         ラジャー おめでとう!
                         気をつけてね         




 桃子は1,000万円の契約が獲れたことにホッとしていた。

 だが寺田は内心、その坂巻との食事に違和感を感じていた。

 (嫌な予感がする。なんとかして桃子先輩を守らなきゃ)

 寺田は密かに桃子に憧れていた。

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