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第1話

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 「優作! おいで!」
 「バウッ!」

 真っ白でモフモフの大型犬、グレート・ピレニーズが桃子に向って突進して来る。
 この犬の名前は「優作」。
 優作は桃子の手前で急ブレーキをかけると、ちぎれんばかりに尻尾を振って桃子に甘えた。

 「バウバウ、バウバウ」
 「わかったわかった。よしよし、よしよし。優作はかわいいね? 大好き」

 桃子は優作のふさふさとした首回りを抱き締めた。


 「優作のこのモフモフ、たまんない!」
 「バウバウ!」
 「はい、おやつ」

 優作は松坂牛の大腿骨をバリバリと齧った。

 グレート・ピレニーズの歴史は古く、紀元前7,000年から8,000年にさかのぼるといわれている。
 非常に賢く勇敢ゆうかんで、熊や狼から家畜を守った。

 ピレニーズという名はバスク地方にあるピレネー山脈に由来する。
 チベットがその原産らしいが、西欧人に侵略され、ヨーロッパ全土に牧羊犬として広まった山岳犬がルーツだ。

 ルイ14世からも寵愛ちょうあいされ、マリー・アントワネットの護衛犬でもあり、英国のビクトリア女王にも愛された犬だった。

 優作は今年で7歳になる。
 人間で言うと桃子と同じ、35歳になるだろうか?

 この犬に「優作」と名付けたのは桃子だった。
 それは七年前に死んだ、桃子の最愛の恋人、矢島優作の名前だった。

 山登りが大好きだった優作は冬山で遭難して死んだ。
 桃子はショックのあまり生きる気力を失い、家に引き籠る生活を続けていた。

 桃子は広告代理店の営業をしていたが、会社は桃子を不憫ふびんに思い、休職扱いにしてくれた。
 そんな桃子を見かねた両親が、優作を桃子にプレゼントしたのだった。

 桃子はその犬に「優作」と名付けてかわいがり、次第に元気を取り戻して行った。

 優作と桃子はまるで恋人のようにいつも一緒だった。

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