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第9話

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 「いやあ、エリーゼの「萌え萌え、キュンキュン」は最高だったよなあ。
 キャンディ、明日も来ようよ、ね、いいでしょう?」
 「またあ? もういいわよ、お金が勿体ないわよ、ジュニア」
 「キャンディ様、私もまた来たいです!
 私もあのエレガントな床の掃き方、私はあのジルバちゃんに惚れましたー!
 誰から褒められるでもなく、ただひたすらに床を這いずり回るあのお姿! なんと健気けなげ、何という奥ゆかしさ! ああ、ジルバ!」
 「あんたたち、頭おかしいんじゃないの?」



 JR萌え萌え駅を通りかかると、オーロラビジョンにはダ・サイタマ国王と、『国民がいちばんの党』の女性党首、オバ・タリアンがテレビ討論をしている模様を実況中継していた


 「あれ? ガガ王女のパパじゃないかしら?」

 ベテラン人気MCの、みの・もん太郎がスムーズな司会進行をしていた。


 「では国王、あなたはいつでも『国民がいちばんの党』にダ・サイタマ国の実権を明け渡してもいいと仰るのですね?」
 「もちろんじゃ。ワシは国民がそれを望むのであれば、いつでも国王の座を譲っても構わん。
 王の座を争ってまで、国民が血を流すのは望んではおらん。
 平和のためだと王国を混乱させ、人民の尊い命が失われてはならんのじゃ」

 すると『国民がいちばんの党』の党首が言った。

 「このカントリーはペリーの来航により、アトミック・ボムが落とされ、多くの国民が死に絶え、巨大なメリケン帝国の植民地となってしまいました。
 日本がジパングに改名させられ、市町村合併により、この限界集落だった海もないダ・サイタマも王制となり、くじ引きでYouが国王になった。
 すぐに辞めるべきだったのよ!
 今すぐお辞めなさい! Now!」
 「確かにワシは10年前まではただの小松菜栽培の農家じゃった。
 だがこのダ・サイタマをワシは愛しておる。
 ワシは自分の生活費は自分が育てた小松菜を売った収入でまかなっておる。税金は1円も使ってはおらん。
 ロイヤルホストにすら行ったこともない。
 たまに行くのは回転寿司の『寿司ジロー』くらいなものじゃ。しかも109円皿しか食わん。
 あなたのようにザギン王国の『十兵衛』で、大トロとウニ、イクラ、ノドグロしか食べん党首とは違うのじゃ」

 それを暴露された党首、オバ・タリアンは黙ってはいなかった。

 「そ、それがどうしたのよ、レジェンドの私に逆らうの!
 王様はこの国を豊かにしようとしないじゃないの!
 築地マルシェの移動にも反対したわよね!
 放射性廃棄物処理場もダメ、飛行場もダメ、高速道路も新幹線も止まらない、メイドカフェもHなお店もない!
 そんな王国にヤングは定着しないと言っていっているのよ!
 アキバ王国を少しは見習いなさい! アニメにメイド、それにエッチなお店とAKB37であんなに栄えたじゃないの!
 おまけに成田エクスプレスまである!
 アンタは無能な王様、パンツしか履いていない「裸の王様」なのよ!」

 すると王様は静かに言った。

 「安心してくれ、ワシはパンツは履いておる。
 よし分かった。すまんがADさん、私の王の椅子をここへお願いします」

 ふたりのADがいっちらおっちら玉座をスタジオに運んで来た。

 「ゼイゼイ(息が上がっている)、国王、これでよろしいですか?」
 「結構、ではオバ・タリアン党首、ここに座りたければ座るがよい。ホレ、遠慮はいらんぞ」
 「な、何のマネよ! こんな危険な椅子に誰が座るもんですか! アホ、ボケ、短足、包茎!」

 みのもん太郎が驚いて言った。

 「こ、これはあの有名な伝説、「ダモクレスの剣」ですね!
 まさか王様の玉座にもあったとは!」
 「そうじゃ、これがワシの国王の椅子じゃ。
 この一本の馬のシッポの毛で吊るされた、大剣の下にいつもワシは座っておる。
 王とはこういうものなのじゃ。
 欲しければいつでもくれてやるぞ。
 ワシがアキバ国のように風俗エッチ文化を許可しないのは、それにより若者の生活が乱れるのを危惧しておるからじゃ。
 本当にダ・サイタマ国を愛してくれる者だけがここにいてくれればそれでよい。
 便利になってカネ儲けをすることだけが幸福ではないのじゃ。
 ワシはこの緑の小松菜畑の広がるダ・サイタマが好きなんじゃ!
 しあわせはお金だけでは得ることは出来ん。
 本当の幸福は愛なのじゃ。愛こそすべてなのじゃ」

 するとそこへガガ王女とアカサカ王国のヨシキ王子がやって来た。

 「王様、私はガガ王女とこの国とアカサカ国をまとめて見せます。
 華やかさとこの長閑のどかな田園地帯を共存させて、本当に豊かな王国を作ってご覧にいれてみせます」
 「ヨシキ王子、ガガ・・・」
 「パパ、カッコ良かったわよ! パパ大好き!」

 コメンテーターのミッツ・マングローブの叔父さんも号泣していた。
 これでガガ王女とヨシキ王子の結婚式の司会で、ガッポリとギャラが入るからだ。
 湧き上がる国民の拍手とシュプレヒコール!

 みの・もん太郎がガラスのグランドピアノを引き摺って来た。

 うんしょ うんしょ

 「それでは歌っていただきましょう! ヨシキ王子とガガ王女、デュエット『エンドレス・ラブ』です、どうぞ!」


 出っ歯のマチャミとチビ太郎・田中も『ザ・王国SHOW 極み』で「わんこそば」を食べながら泣いていた。
 いつの間にか小池、じゃなかったオバ・タリアン党首はどこかへいなくなっていた。

 「2番じゃダメなの!」

 と捨て台詞を残して。



 曲が終わり、ガガがカメラに向かって叫んだ。

 「キャンディ! ジャスティン王子としあわせになるのよ! 私たちも絶対しあわせになるから!」


 キャンディは号泣し、オーロラビジョンの前で泣き崩れた。

 「ガガ王女、私も絶対にしあわせになりたい!」

 その小さな肩には白いフクロウのペドウィッグ.Jrと、周りをせっせと掃き掃除をしながらプリウスがキャンディを慰めていた。

 不思議そうにそこをゾンビの集団が通っていった。
 まもなくハロウィンが始まろうとしていた。

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