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第14話 小次郎の決意

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 「またウチの売人が如月組にやられました」
 「またやられました? それで?」
 「一応、ご報告をと思いまして・・・」

 紅虎組の組長、佐竹は突然テーブルの上にあったギヤマンの灰皿を壁に投げつけた。
 大きな音を立てて、ガラスの破片が辺りに飛び散った。


 「お前、それでも極道か! ヤラれてそのまま帰ってくるヤクザがどこにいる?
 背広着た使えねえリーマンじゃあるまいし、お前、何年極道やってんだ! 冷てえ水で顔洗って来いや!
 殺れ! そいつのタマ取って来いや!
 ドラマでも言ってんだろ? やられたらやり返せ、倍返しだってな!」
 「でもオヤジ、相手はあの小次郎ですぜ、戦争になりますよ」

 佐竹は若頭の後藤を睨み付けた。

 「いいじゃねえか? 戦争。
 ワクワクするじゃねえか、取ったの取られたのってよ。
 いつまでもチンタラやってるわけにはいかねえんだよ。
 もう小銭稼いでヘイコラしている時代じゃねえんだ。
 小次郎みてえなボランティアヤクザなんて目障りなんだよ!
 小次郎のタマ、取って来いや!」

 佐竹と小次郎は暗黒街の双璧をなしていた。
 小次郎は「風の小次郎」として一目置かれ、そして佐竹は「般若の佐竹」と恐れられていたのだ。

 小次郎はその義理堅い温厚な人柄で、そして佐竹はその残忍な恐怖でヤクザ者たちを束ねていた。

 10年前、佐竹は自分の兄貴分たちを小次郎に皆殺しにされた怨みがあった。

 (小次郎。アニキたちの仇、討たせてもらうぜ)

 佐竹は小次郎との抗争の準備に取り掛かった。
 携帯を取り、白蛇会の諸橋会長に電話を入れた。

 「会長、佐竹です。
 はい、そろそろやりましょうよ。はい、小次郎は俺が沈めますんで」



 その頃、小次郎たちは新宿に向かってクルマを走らせていた。

 「今日、真昼間からウチのシマでシャブを捌いていた紅虎のチンピラを1人、掃除しておきました」
 「佐竹か? シノギがキツイんだろうなあ? 紅虎は」
 「益々ウチが目障りでしょうね?
 若、紅虎組の連中、ウチを何て呼んでいるかご存知ですか?」
 「知らないな」
 「闇の清掃会社だそうです」

 小次郎と若頭の佐伯、そして運転手の村田の3人は笑った。

 「ウケるなそれ、中々いいセンスしているじゃないか? あはははは」
 
 小次郎がタバコを咥えると、佐伯が黒のダンヒルのライターで火を点けた。

 「若、気を付けて下さい。アイツら若を狙っていますから」

 小次郎は静かに目を閉じた。

 10年前の抗争では多くの血が流れた。
 やられる、そしてまたやり返す。
 報復の連鎖は止まらなかった。
 憎しみの連鎖は永遠に続く。

 俺たちヤクザはいつから任侠の道から外れてしまったのだろう。
 弱い者を助け、強い悪を倒す。
 それがいつの間にか、金儲けと権力闘争に溺れた政治屋と同じ存在にまで成り下がってしまった。

 雪乃を利紗と同じ目に遭わせるわけにはいかない。
 もう二度とあんな思いはしたくはないと小次郎は思った。

 小次郎は苦悩していた。

 ただの愛欲だけの遊びならいいが、小次郎の雪乃への想いはすでに恋から愛へと変わりつつあった。
 引き返すなら今しかない。

 小次郎を乗せた黒のベントレーは、新宿歌舞伎町のネオンの河に流れて行った。
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