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第11話 出来ない約束

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 小次郎はまるで別人のように雪乃を抱いた。
 時には羽毛のようにやさしく、またある時は荒れ狂うドラゴンのように雪乃を求めた。

 雪乃はイッた回数すら数えることが出来ず、今までに味わったことのないような快感が、雪乃のカラダを何度も貫いた。

 そして遂にクライマックスの中で雪乃は叫んだ。

 「小次郎! そのまま出して! 私の中に! お願い!
 あなたの赤ちゃんが欲しいの!」

 だが、雪乃のその願いは聞き入れてはもらえなかった。
 小次郎はそれを寸前で抜き取ると、雪乃の胸にそれを出し、果てた。
 雪乃は落胆した。

 (結婚なんて望まない、でも小次郎の子供が欲しい・・・)

 雪乃は初めて「愛のあるSEX」に満たされていた。
 愛欲の果てのそれではなく、アダムとエヴァがかつてそうであったように、行為を終えた後、とても神聖な気持ちになっていた。

 年齢的にも子供を授かることは限界だった。
 雪乃の本能がそれを要求したのだ。

 エクスタシーの余韻が、まだ雪乃を捉えたまま離さなかった。
 小次郎は雪乃の髪を優しく撫でた。

 「小次郎、私、今、すごくしあわせよ・・・」
 「俺もだよ、雪乃。
 約束してくれ、俺は雪乃を愛してしまった。
 もう一度言う、俺はヤクザだ、ヤクザには死が常に付き纏う。
 雪乃、もし俺にその時が訪れてもお前は悲しんではいけない。
 そして俺のことは忘れてくれ。
 雪乃、人は悲しむために生まれたんじゃない、人生を無駄にはするな」
 「私、約束なんかしない。そんな約束なんて出来ない。
 小次郎のいない人生なんて私には生きる意味がないもの」

 小次郎がベッドから起き上がり、タバコを咥えようとすると、雪乃がライターでそれに火を点けた。
 仕事柄、それが雪乃の習性になっていた。
 小次郎はタバコの煙をスーッと吐き出すと、話し始めた。

 「あの時、海で初めて雪乃を見た時、俺は自分がヤクザであることを呪った。
 どれだけ俺は普通のサラリーマンに憧れたか知れない。
 朝、会社に出掛けて仕事を終え、家に帰る。
 するとエプロン姿の雪乃が俺を出迎えてくれて、ふたりは古いイタリア映画のようにパンとワイン、そしてチーズを食べながら、今日、お互いにあったどうでもいい話をするんだ。
 テーブルには雪乃の活けた花が飾られてある。
 そして週末にはふたりで近くの公園を散歩するんだ、手を繋いでね。
 それが俺の妄想だった」
 「妄想なんかじゃないわ、そうなるの、そうするのよ私たち。
 私も同じ、小次郎と一緒に居るだけでいいの。
 パンもワインも、そしてチーズもいらない、私は小次郎がいるだけでいいの、それが私のしあわせなの」

 小次郎のタバコの先が赤く灯った。

 「もう悲しい恋はたくさん。
 もしもあなたが私より先に死んだら、私もあなたと一緒に死ぬわ。
 だからお願い、絶対に私よりも先に死なないで、死んじゃ嫌。
 小次郎、私と約束して、絶対に私より先には死なないと。
 そしてもっともっと私を愛して。
 私ももっともっとあなたを愛することを誓うわ」

 雪乃は小次郎の胸に頬を乗せ、嗚咽した。

 雪乃をやさしく抱きしめながら、小次郎は思った。

 それは出来ない約束だと。
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