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第6話 再会

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 マネージャーの木島は言った。
 
 「以前、鳥越の親分さんから聞いた話ですが、5,000人近くの構成員を有していると言われる、あの広域指定暴力団「如月組」の組長のご子息が、オダギリジョーに似た男で、自分の組の子分を殺された仇討ちに、バズーカ砲に手榴弾、ダイナマイトに日本刀、サブマシンガンを持ってたったひとりで対抗する組を壊滅させたという伝説のヤクザがいると。
 そしてその男の背中には日本の至高と言われる彫師、銀天が彫ったという雌雄の双龍があり、怒りに震えると、その二頭の龍が体から離脱して、疾風を巻き起こすという伝説があり、それが「風の小次郎」と呼ばれる所以だそうです。
 さくらママ、あのお方にだけは近づかない方が身のためです」
 「そう、それで如月組ってどこにあるの?」
 「聞いてどうするんです?」
 「お金を返しに行くのよ、貰いすぎたから」
 「お止め下さい! どうしてもというのであれば、私が返しに行って参ります」
 「あなたはいいわ、私がひとりでいくから場所を教えて」



 如月組の本家は街外れの小高い丘の上にあり、それはまるで戦国時代の山城のように堅牢な屋敷だった。
 四方を白い土塀で囲まれ、外からは中を窺い知ることは出来なかった。

 見事な正門には、20代位の若者がふたり、ノーネクタイのまま立っていた。


 「小次郎さんにお金を返しに来たんだけど、いらっしゃるかしら?」
 「姐さん、お名前は?」
 「雪乃って言ってもらえばわかるわ」

 もう一人の若い男が携帯電話で、何やら小声で話していた。

 すると木戸口から先日店にやって来た男が出て来た。

 「若がお会いになるそうです。どうぞこちらへ」

 屋敷の中に入ると、ドーベルマンたちが一斉に雪乃を注視したが吠えることはなかった。

 「めずらしいこともあるもんだ、こいつらが吠えなかったのはアンタが初めてだぜ」

 男は笑って言った。


 そこには広大な庭園が広がり、滝の流れ落ちる池には宝石のような錦鯉が泳いでいた。


 雪乃は紫の絨毯が敷かれた長い廊下の奥にある、大広間に通された。

 小次郎は庭を背にして立っていた。

 「わざわざおいでいただかなくても良かったんですよ。
 ただの迷惑料ですから」

 若くてかわいらしいメイドがお茶を運んで来た。

 「どうぞお掛け下さい。先日、知り合いからマルコポーロをいただいたので、ご一緒にいかがですか?
 紅茶はお好きですか?」
 「ええ、好きです」

 雪乃は圧倒された。
 大きな屋敷にも増して、あまりにも多いその蔵書の量に。
 大広間の本棚は、まるで図書館のように本で埋め尽くされていたからだ。

 小次郎は雪乃のその表情を見て微笑んだ。

 「おかしいでしょう? 読書好きなヤクザなんて。
 みんなから笑われるんですよ、インテリヤクザだって。
 父がこの仕事だったので、私には友だちが出来ず、本が唯一の友だちでした」

 雪乃はバッグから袱紗に包んだ札束を取出すと、それをテーブルの上に置いた。

 「先日はありがとうございました。私、嫌いなんです、あの議員さん。
 丁度良かったんです、出禁に出来て。
 またお店に来て下さい、みんな待っていますから」

 小次郎は紅茶を啜った。
 ソーサーとカップを持って紅茶を飲む所作は、英国貴族のようでもあり、とても一人で対立する組を全滅させた男には見えなかった。

 「本当はあの日、行こうかどうか迷ったんです。
 でももう一度あなたに会いたかった。
 そして結果的にあんなことになってしまい、ご迷惑をお掛けしました。
 どうぞお金は納めて下さい。それがこの世界のしきたりなので」

 すると雪乃は意外にもあっさりとそのカネをバッグに仕舞った。
 雪乃には策略があった。
 もう一度、小次郎に会うための口実が。

 「では、このお金で私と同伴して下さいませんか?
 そしてその後、改めてお店で接待させて下さい。貸し切りで。
 百万円分、たっぷりとサービスさせていただきます」

 小次郎は外人のように両掌を軽く広げ、観念したというように微笑んだ。

 「あなたは面白い人だ。いいんですか? 私のような人間がまたお店にお邪魔しても?」
 「もちろんです。では一緒に来て下さい、まずは美味しいイタリアンをご馳走しますから。
 もっとも小次郎さんのこのお金でですけどね? うふっ」

 庭のねむの木が、やさしく風に揺れていた。
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