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第11話

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 新居には海の見える汐留のタワーマンションを義父が買い与えてくれた。

 「碧ちゃん、この段ボールはどこに置けばいいの?」
 「それはキッチン、そしてこの段ボールは私の部屋へ持っていけ」
 「はい、わかりました」


 碧が早川の部屋を覗くと、たくさんのヱヴァンゲリヲンのフィギュアが見えた。


 「なんだこれ? おまえ小学生か?」

 碧が綾波レイのフィギュアを掴んだ時、早川が叫んだ。

 「僕のレイちゃんに触らないで!」
 「だったら鍵でもかけておけ! この変態ドMブタ!」


 碧はそれを早川に向かって投げつけた。

 慌ててそれをキャッチする早川に碧は呆れた。



 掃除や食材の買い出し、食事の後片付けはすべて早川にさせたが、料理と洗濯だけは碧が自分でした。

 料理に何を入れられるかわからないし、洗濯は下着などを早川に触らせたくはなかったからだ。

 もちろん寝室は別々。リビングは碧が占領し、早川は6帖の自室に籠っていた。


 碧はこのタワマンが気に入っていた。
 東京駅や銀座にも近く、新橋、ゆりかもめにも便利で、都庁への通勤へも楽だったからだ。
 職場の同僚も比較的少ないこともあり、碧にとっては都合がよかった。



 臨月になり、碧の出産が近づいていたが初産ということもあり、予定日からはすでに1週間が経過していた。
 碧は多少の運動も兼ねて自室の片づけをしていると、突然陣痛に襲われた。
 すぐにタクシーで病院へ向かった。


 一応、早川にはラインをし、母には電話をした。


 「お母さん、これから病院に行くね?」
 「そう、がんばるのよ碧、私たちもすぐに行くからね!」

 早川も息を切らせて病院にやって来た。


 「碧ちゃん大丈夫! 痛いよね? 痛いよね?」
 「痛いに決まってんだろう! お前が代われよ! このブタ野郎!」



 破水するまでにはかなりの時間を要したが、碧は無事、男の子を出産をした。
 早川の喜びようは異常なほどだった。

 「かわいいね、かわいいね!
 ありがとう、碧ちゃん! 産んでくれて、本当にありがとう・・・、ううううう」

 そう言って早川はわが子を抱いて泣いた。

 
 「とてもきれいな顔の赤ちゃんね? バアバとジイジですよー。
 早く一緒にお散歩しましょうねー?」

 初孫ということもあり、両親もとてもうれしそうだった。



 晴子もすぐに来てくれた。

 「すっごくかわいいねー⁉ ジャニーズに入れちゃおうよ、碧。
 ああ~、私も早く子供が欲しくなっちゃった!」
 「結婚すればいいじゃない、あのハイスペックな彼と」
 「それがさあ、色々とあるのよ私たちも。
 ウチの親が中々許してくれなくってねー。
 彼、弁護士志望で未だに司法浪人中でしょう? 
 就職もしないでバイト生活だから、私の親の受けが悪いのよ。
 結婚したら私が彼を養ってあげて、司法試験に集中出来るようにしてあげたいんだけどね?」

 晴子は真面目にそう言った。



 翌日、義母の麗子もおっとり刀でやって来た。

 麗子は真っ先に子供の小さな指に触れ、うっとりとしてこう言った。


 「まだ小さいけれどいい指をしているわ、これはピアニストの指よ」

 名前を智樹と名付けたのは義母の麗子だった。

 
 「孫の名前はもう決めていますからね?
 大事な早川家の跡取りですから、智之の智と大樹のような大物に育つようにとの願いを込めて、智樹にしましたから異存はないわね? 碧さん?」

 麗子は「智樹」と書かれた命名書を息子である早川に渡した。


 碧は名前などどうでもよかった。
 ただうれしかった。自分の子供が無事に生まれて来てくれたことに。
 碧はそれを承諾した。


 「智樹、私がママよ」

 智樹を抱いた碧は、慈愛に満ちた母親の顔になっていた。

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