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第17話

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 オレンジは頬杖をついて、物憂げにクリームソーダのアイスが溶けていくのを眺めていた。
 少し痩せたオレンジがボクの目の前にいる。
 ボクは今すぐにでもそんなオレンジを、強く抱き締めてあげたかった。


 「メシ、ちゃんと喰ってんのか?」

 ボクがやっと思いついた言葉がこれだった。

 「食べてるよ、ちゃんと・・・」
 「そうか」
 「・・・たくさん、ジュンにはたくさん嫌な想いをさせちゃったね?・・・」
 
 オレンジは俯いて泣いた。

 「ジュン、いいのよ、私の事、笑っても。
 思い切り笑って、ううん、ぶって、いっぱいぶって欲しい!
 哀れな女でしょ? 私って・・・。
 いっぱい私のことを愛してくれたジュンを裏切って、あんなオジサンを好きになって・・・。
 あの人、私以外にも女がいてね? 私はただ遊ばれただけだったの。バカみたい。
 奥さんや子供さんも苦しめてしまった。
 私、今すごく惨め。
 後悔しているの、ジュンと別れてしまったこと・・・」

 ボクは黙ってオレンジの話を聞いていた。

 「なあ、柑奈。
 どうしてこのトマトジュースにはタバスコが付いてくるんだろう?
 これって必要なのかな? このトマトジュースに?
 でも不思議だよな? タバスコを入れるとトマトジュースに深みが出る。
 甘味が増すのか、とてもいい味になる。
 俺、何も怒っていないよ。だって俺、タバスコ入りのトマトジュース、嫌いじゃないから」
 「私、ジュンにたくさんタバスコ掛けちゃったんだよ、それでも赦してくれるの?」
 「俺、それでも柑奈のことが好きだから」

 オレンジはテーブルの上のボクの手に、自分の手を重ねた。

 「本当にジュンを苦しめた私を許してくれるの?」
 「許すって何を? 
 どんなことがあっても、俺の柑奈に対する想いは変わらないよ。
 だからもう泣くな、すべては終わったことだから。
 俺、3月に卒業したらアフリカに行くことにしたんだ」
 「ノンから聞いた。それでいつ帰ってくるの?」
 「わからない。行ってみないと」
 「私、待ってるから。
 ジュンが帰ってくるまでずっと待っているから。
 私もジュンのこと、待たせちゃったから」
 「いつになるかわからないぞ、それでもいいのか?」
 「ずっとずっと待ってる。ジュンのこと」



 店を出ると、外は羽毛のような雪が降っていた。
 ボクはオレンジと手を繋ぎながら、雪の中を歩いた。
 ボクとオレンジの熱い想いが、降り積もる雪を溶かしていくようだった。

 確実にボクたちに春は近づいていた。
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