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第14話
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12月28日。クリスマスを終えた師走の慌ただしさの中、純喫茶『都』が休みの日、ある話し合いが持たれたらしい。
その翌日、ボクが店に出勤すると、明美さんはボクを店の片隅に呼んだ。
「夕べは大変だったのよ。昨日、この店で家族会議があったの」
「誰の家族ですか?」
ボクはイヤな予感がした。
「沢村さんと柑奈ちゃん、そして奥さんと沢村さんのお兄さんよ。
ほら、沢村さんのお兄さんはこのビルの楽器店の重役だから。
ジュン君も知っているでしょう? いつもお店に来ていたあの白髪の人。
そしてマスターと花山さんの私たち三人もオブザーバーとして参加したわけなのよ」
ボクは愕然とした。
(まさかここでそんなことが?)
それは沢村が柑奈と一緒になるために、家族を捨てるということを意味していた。
「それがね? 柑奈ちゃんと奥さんの直接対決になったのよ」
「・・・」
ボクは更に驚いた。
奥さんと沢村だけならまだしも、そこに柑奈までがいたことに。
「そして奥さんが柑奈ちゃんにこう言ったの、「お願いだから主人と別れて」って。
でもね、柑奈ちゃんはきっぱりと言ったのよ、
「別れられない」
別れたくないんじゃなくて、「別れられない」って。
私たちも奥さんもびっくりして、何も言えなかった。
奥さん、かわいそうに泣いていたわ」
「それで沢村は何て?」
「アイツは男の、いえ人間のクズよ!
ただ黙って見ているだけだった。まるで他人事みたいに」
ボクはまた沢村のことを殴ってやりたいと思った。
いや、もしもアイツが今、ボクの目の前にいたら、殺していたかもしれない。
そんな奴に奥さんも子供も、そしてオレンジもしあわせにすることなんか出来るはずがない。
ボクは怒りに震えた。
「でもね? 私は柑奈ちゃんの気持ちが分かる気がしたの。
周りから何と言われても、たとえ非難されようとも自分の想いに正直でいることに。
ジュン君、悪いのは柑奈ちゃんじゃないわ。奥さんも誰も悪くはない。みんな被害者なのよ。
悪いのはあの男だけ。
だから柑奈ちゃんのことは責めちゃだめ、許してあげて」
「そんなのおかしいですよ! 柑奈だって沢村のことが好きなんだから同罪でしょう!」
ボクは冷静さを失い、興奮気味に明美さんにそう言った。
「ジュン君、それはね? これからわかるわ。
柑奈ちゃんが夢から覚めた時に」
ボクにはその時、明美さんの言葉の意味がまだよく分からなかった。
お正月の三が日が開けて店が始まった。
「みなさん、新年あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします!」
ボクはお店のみんなに元気よく新年の挨拶をした。
晴れ着姿の明美さんはとても綺麗だった。
「ジュン君、あけましておめでとう。
でもおめでたくないニュースもあるの。あのひと、奥さんと離婚したそうよ」
ボクの心は秋風に揺らぐコスモスのように揺れていた。
そして最悪の新年が明けたのだった。
その翌日、ボクが店に出勤すると、明美さんはボクを店の片隅に呼んだ。
「夕べは大変だったのよ。昨日、この店で家族会議があったの」
「誰の家族ですか?」
ボクはイヤな予感がした。
「沢村さんと柑奈ちゃん、そして奥さんと沢村さんのお兄さんよ。
ほら、沢村さんのお兄さんはこのビルの楽器店の重役だから。
ジュン君も知っているでしょう? いつもお店に来ていたあの白髪の人。
そしてマスターと花山さんの私たち三人もオブザーバーとして参加したわけなのよ」
ボクは愕然とした。
(まさかここでそんなことが?)
それは沢村が柑奈と一緒になるために、家族を捨てるということを意味していた。
「それがね? 柑奈ちゃんと奥さんの直接対決になったのよ」
「・・・」
ボクは更に驚いた。
奥さんと沢村だけならまだしも、そこに柑奈までがいたことに。
「そして奥さんが柑奈ちゃんにこう言ったの、「お願いだから主人と別れて」って。
でもね、柑奈ちゃんはきっぱりと言ったのよ、
「別れられない」
別れたくないんじゃなくて、「別れられない」って。
私たちも奥さんもびっくりして、何も言えなかった。
奥さん、かわいそうに泣いていたわ」
「それで沢村は何て?」
「アイツは男の、いえ人間のクズよ!
ただ黙って見ているだけだった。まるで他人事みたいに」
ボクはまた沢村のことを殴ってやりたいと思った。
いや、もしもアイツが今、ボクの目の前にいたら、殺していたかもしれない。
そんな奴に奥さんも子供も、そしてオレンジもしあわせにすることなんか出来るはずがない。
ボクは怒りに震えた。
「でもね? 私は柑奈ちゃんの気持ちが分かる気がしたの。
周りから何と言われても、たとえ非難されようとも自分の想いに正直でいることに。
ジュン君、悪いのは柑奈ちゃんじゃないわ。奥さんも誰も悪くはない。みんな被害者なのよ。
悪いのはあの男だけ。
だから柑奈ちゃんのことは責めちゃだめ、許してあげて」
「そんなのおかしいですよ! 柑奈だって沢村のことが好きなんだから同罪でしょう!」
ボクは冷静さを失い、興奮気味に明美さんにそう言った。
「ジュン君、それはね? これからわかるわ。
柑奈ちゃんが夢から覚めた時に」
ボクにはその時、明美さんの言葉の意味がまだよく分からなかった。
お正月の三が日が開けて店が始まった。
「みなさん、新年あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします!」
ボクはお店のみんなに元気よく新年の挨拶をした。
晴れ着姿の明美さんはとても綺麗だった。
「ジュン君、あけましておめでとう。
でもおめでたくないニュースもあるの。あのひと、奥さんと離婚したそうよ」
ボクの心は秋風に揺らぐコスモスのように揺れていた。
そして最悪の新年が明けたのだった。
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