未完成交響曲

菊池昭仁

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第22話

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 バイクやクルマを持っている上級生も多かった。
 ホンダCB、Kawasaki Z400、クルマは箱型ブルーバードや三菱ギャランGTOなどが人気だった。

 学生数が少なく、広いキャンパスは絶好の「自動車教習所」だった。

 ジャニーズみたいなイケメンの先輩たちが敷地内をノーヘルで、風を受けてバイクで疾走していた。
 私もいつかバイクに乗りたいと漠然と考えていた。

 原チャリの免許を取るのが流行りだった。だがバイクは危険なので18才までは禁止だった。
 もちろんクルマも4年生になってからだったと思う。


 
 部活でランニングをしていると、いつの間にか立山連峰が白く雪を被っていた。
 北陸の秋は早く、冬は長い。

 一年生の時は大雪だった。
 雪が降ると「雪掻き校用」があった。
 学校には雪を掻くための除雪機、ローダーがあったが、寮は一年生が人力でこれにあたる。
 寮内の放送で、「達する! 雪掻き校用! 一年生はすぐに1寮棟の前に集合! シカトすんじゃねえぞ!」

 汗だくで雪掻きをした。

 

 二年生になり、家畜から奴隷に昇格した。
 後輩が入って来て、少し気分的にも肉体的にもラクになった。

 私たちは上級生になっても一年生を虐める奴はいなかった。
 別に申し合わせた訳では無いが、下級生に同じことをするのははばかれた気がする。

 二年生になると専門教科が増えた。
 何人かは留年し、あるいは学校を去った。
 三年生に上がれなかった上級生が同級生になった。
 特別なことではなかった。別にめずらしいことではない。
 
 歴史、国語、代数幾何、解析Ⅰ、物理、化学、地学、倫理社会、英語Ⅰ、応用力学、電気、電子工学、商船概論、航海法規、運用学、航海学などのカリキュラムが加わり、より高度な授業になった。

 風呂掃除や雪掻き校用、上級生のお使いからは開放されたが、一年生の失態は二年生の責任となるので気は抜けなかった。


 学校から歩いて5分ほどのところに『森』というお好み焼き屋があった。
 安くて旨い店だった。憩いの場だった。
 自分たちで勝手に焼くスタイルで、上級生は殆ど来なかった。
 天丼もやっていた。蓋が閉まらないほどの大盛りを出してくれた。
 ボウルでやって来る特大お好み焼きと大盛り天丼を食べた時は死ぬかと思った。
 穏やかで物静かな老婆がひとりでやっている店だったが、お客の殆どはウチの学生たちだった。

 雨の日に行くと、瓶ビールを1本をサービスしてくれた。
 高校生になったら酒もタバコも不純異性交遊も当たり前だった。青春であった。
 そんなのんびりとした時代だった。

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