★未完成交響曲

菊池昭仁

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第12話

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 この先生はとても優秀な先生だった。
 まだ小学校3年生の子供たちに新聞を読ませ、興味のある記事を切り抜かせてスクラップにしてノートに貼らせたり、毎週木曜日には漢字の書き取りテストを実施し、80点未満の生徒にはその間違った漢字を1,000字書かせて翌日の金曜日までに提出させた。

 夜の10時過ぎまでその宿題をやっている私を見て母は言った。

 「まったくあの先生は何を考えているのかしら! 小学生にこんな遅くまで宿題なんて!」

 と憤慨していた。
 だがその御蔭で私は大人になっても漢字で苦労することが少なかった。


 5年生になった時、そのクラスにまた転校生がやって来た。
 だがその生徒は少し変わっていた。
 急に授業中にわめいてみたり、席を離れて勝手に教室を歩き回ったりと、感情の起伏が激しかった。

 そしてその同級生の家に数人で遊びに行った時、その子の母親がとても嬉しそうに、私たちに苺のショートケーキをふるまい、「うちの子と仲良くしてね?」と言った。

 その子の部屋で遊んでいる時、私は恐怖を抱いた。
 それは彼がいきなり、アメリカのカウボーイが使うような大きなナイフを持ち出し、薄笑いを浮かべてこう言ったからだ。

 「ボクはいつでも人を殺せるんだ」

 

 私は次の日、学校でそれをみんなに話した。

 「アイツ、ちょっとヘンだよな?」
 「うん、僕もそう思うよ」
 「なんかおかしいよな? 〇〇君って」

 
 そしてその日の放課後、私を除いたそれを話していた数人がその女性担任にビンタをされたと聞いた。
 私はその日、家に早く帰ったのでビンタは免れたが、次の日、担任に呼び出された。

 「お前、〇〇のことを「おかしなやつ」と言ったらしいな?
 どうしてそんなことを言った?」

 私は若い女性担任にその子の家に行った時の話をした。
 教師は怒らず私の話を静かに聞いていた。
 そして私が話終えると彼女は言った。

 「あの子はね、心の病気なの。分かるわよね?
 だから仲間外れにするのはやめなさい」

 彼は自閉症だった。

 私は放課後、罰として1階から4階までの校舎の階段の雑巾掛けを往復5回、させられた。

 その後、彼は特殊学級へと移って行った。

 
 
 私が泳げるようになったのは、当時、大学を出てすぐ担任を持った女性教諭のおかげだった。
 それまで私はプールに目をつぶって顔をつけるのが精一杯で、クロールなどはまるで犬が溺れているようなものだった。
 それには理由があった。幼稚園の時、幼なじみのターちゃんと、父に魚釣りに連れて行ってもらった時、ターちゃんが足を滑らせて川に滑り落ちてしまい、慌てた父がすぐに川に入り、ターちゃんを救い出したことに由来する。

 (ターちゃんが死んじゃったらどうしよう・・・)

 私はその時から水が怖くなったのだ。


 体育の水泳の時間、その女性教師はプールサイドに私を呼んだ。


 「菊池、ちょっと来てみろ。プールの中に何かいるぞ」
 
 私がプールを覗き込んだその瞬間、その教師は私の頭をいきなりプールの中に沈めた。
 私は驚いて思わずプールの中で目を開けてしまった。
 とてもきれいなアクアマリーンの世界に私は魅了された。

 (なんてキレイなんだろう・・・)

 それから私は泳げるようになった。
 

 
 転校して体育の水泳の時間、先生から言われた。

 「菊池、水泳クラブに入らないか?」
 

 私はあまり水泳に興味はなかったが、ハマった。
 クロールは身長があり、腕や手の平、足が大きい方が有利だと思った。
 バタフライは出来ないし、背泳ぎは地味。
 そこで私は平泳ぎを選択した。

 水泳の顧問の先生の指導もあり、タイムが上がって行くのが楽しかった。

 「菊池、お前はツー・ストローク、ワン・ブレスではなく、ワンストローク・ワンブレスの方がいい。
 それでやってみろ」

 私は更にタイムを上げた。

 その当時、荒立小学校という水泳の全国強豪校があり、そこには水泳の全国大会で入賞する生徒もいた。

 「荒立小って冬でも氷を割って泳いでいるらしいぜ」

 というスパルタ訓練の噂が、よく水泳クラブの話題になっていた。
 今なら全国ニュースにもなって、モンスターペアレンツの格好の餌食になったことだろう。


 会津若松市の水泳大会に出場することになった。
 予選では1コースになった。
 私は声援にうれしくなり、一生懸命に泳いだ。

 すると本選では真ん中のコースになり、応援が遠くなるとがっかりしたが、プールでは造波抵抗が出来るために、予選のタイムを元に、早い順から中央のコースになることすら私は知らなかった。

 おかげで私は会津若松市の水泳大会の平泳ぎの部で三位になった。

 私は中学に入ったら水泳を続けるつもりだった。
 
 
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