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第1話
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フランツ・シューベルトの交響曲第7番ロ短調。未完成交響曲。
チェロとコントラバスから始まる物悲しい旋律に、よりそうように続く弦楽器たち。ホルンから変わる微かな希望。
シューベルトには他にも5つの未完成交響曲があるが、この7番が有名だ。
第二楽章までしか完成しておらず、第三楽章の20小節目で終わっている。
32年という短い生涯で、およそ1,000曲もの作品を残したシューベルト。
ベートーヴェンからもその才能を認められたにも関わらず、彼は五線紙すらも買うことが出来ない貧困の中で、持ち前の明るい性格から友人たちにも支えられ、作曲を続けた。
2万人以上が参列したというベートーヴェンの葬儀の帰り、シューベルトは友人たちと酒場で献杯をした。
「この中で最も早く死にゆく者のために。献杯」
そしてそれがシューベルト自身になろうとは、彼は考えもしなかった筈だ。
一説にはレストランで食べた魚料理による腸チフスが原因だとか、梅毒だった女中が治療薬として服用していた水銀が体内に蓄積したことが死因だとかが噂されているが、定かではない。
シューベルトについては小学校の音楽室に貼られた肖像画の記憶でしかない。
銀縁の眼鏡を掛けた天然パーマのその横顔は、音楽家としての知性に満ちた品格が備わっていた。
「音楽が出来るなんて、いいとこのお坊ちゃんだったんだろうな?」
と、私は冷めた目で彼を見ていた。
音楽の授業で『鱒』や『野ばら』を歌わせられた時、
(何だよ? 鱒の歌って?)
小学生だった私は歌うことを拒否した。
「歌曲の王」彼はそう呼ばれていた。
1797年、シューベルトはウィーン郊外にあるリヒテンタールで生まれた。
父親のフランツ・テオドールはドイツ系移民の農夫の息子で、教区の教師をしていた。
母親のエリーザベト・フィッツは結婚前、民間人のコックをしていたらしい。
子沢山の12人兄弟の末っ子。
貧しい中、父、テオドールは子どもたちに音楽を教えた。
奨学金を受けながらシューベルトは音楽を学んだ。
当時、師事していたサリエリからはハイドンやモーツァルトの真似だとシューベルトを酷評したが、かなりシューベルトには積極的に指導をしたという。
満足して死ねる人間は極一部の限られた人間だけだ。
殆どの人間は夢半ばで死んでゆく。それが定めだ。
偉人と呼ばれる人間でも、あっけなく死んでしまう。
思えば私の人生もそうだった。
だが私は自分の人生に後悔はない。
誰も見舞いには来ない白い病室で、私はひとり、自分の人生を静かに振り返った。
人生は未完成だから尊いのだ。
死を身近に感じる時間がある私は幸福だった。
辿ってみよう、私の『未完成交響曲』を。
チェロとコントラバスから始まる物悲しい旋律に、よりそうように続く弦楽器たち。ホルンから変わる微かな希望。
シューベルトには他にも5つの未完成交響曲があるが、この7番が有名だ。
第二楽章までしか完成しておらず、第三楽章の20小節目で終わっている。
32年という短い生涯で、およそ1,000曲もの作品を残したシューベルト。
ベートーヴェンからもその才能を認められたにも関わらず、彼は五線紙すらも買うことが出来ない貧困の中で、持ち前の明るい性格から友人たちにも支えられ、作曲を続けた。
2万人以上が参列したというベートーヴェンの葬儀の帰り、シューベルトは友人たちと酒場で献杯をした。
「この中で最も早く死にゆく者のために。献杯」
そしてそれがシューベルト自身になろうとは、彼は考えもしなかった筈だ。
一説にはレストランで食べた魚料理による腸チフスが原因だとか、梅毒だった女中が治療薬として服用していた水銀が体内に蓄積したことが死因だとかが噂されているが、定かではない。
シューベルトについては小学校の音楽室に貼られた肖像画の記憶でしかない。
銀縁の眼鏡を掛けた天然パーマのその横顔は、音楽家としての知性に満ちた品格が備わっていた。
「音楽が出来るなんて、いいとこのお坊ちゃんだったんだろうな?」
と、私は冷めた目で彼を見ていた。
音楽の授業で『鱒』や『野ばら』を歌わせられた時、
(何だよ? 鱒の歌って?)
小学生だった私は歌うことを拒否した。
「歌曲の王」彼はそう呼ばれていた。
1797年、シューベルトはウィーン郊外にあるリヒテンタールで生まれた。
父親のフランツ・テオドールはドイツ系移民の農夫の息子で、教区の教師をしていた。
母親のエリーザベト・フィッツは結婚前、民間人のコックをしていたらしい。
子沢山の12人兄弟の末っ子。
貧しい中、父、テオドールは子どもたちに音楽を教えた。
奨学金を受けながらシューベルトは音楽を学んだ。
当時、師事していたサリエリからはハイドンやモーツァルトの真似だとシューベルトを酷評したが、かなりシューベルトには積極的に指導をしたという。
満足して死ねる人間は極一部の限られた人間だけだ。
殆どの人間は夢半ばで死んでゆく。それが定めだ。
偉人と呼ばれる人間でも、あっけなく死んでしまう。
思えば私の人生もそうだった。
だが私は自分の人生に後悔はない。
誰も見舞いには来ない白い病室で、私はひとり、自分の人生を静かに振り返った。
人生は未完成だから尊いのだ。
死を身近に感じる時間がある私は幸福だった。
辿ってみよう、私の『未完成交響曲』を。
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