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第6話

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 そんなことや、あんなこともして、私とローレライは更に仲良しになった。

 女子高だったのでよく女子から告白されたけど、その頃は男に夢中でヤリまくりだったからなあ。
 もしもあの時、女の良さを知っていたら相良直美か勝間和代になっていたかも。
 ローレライは私を妹のように可愛がってくれた。


 「サファイア、ダージリンのお替わりはいかが?」
 「ありがとうローレライ、いただくわ」
 「ねえ、この後、森へ野イチゴを摘みに行かない?」
 「野イチゴ? 歩くのヤダなあ、疲れるし、ダルイしー」
 「ダメよ、たまには運動しないと」
 「運動してるじゃん、いつもベッドでローレライと」
 「もう、サファイアったら。ふふっ。
 イチゴをたくさん獲って来て、苺ジャムを作りたいのよ。
 私のおいしい苺ジャム、サファイアにも食べさせてあげたくて」
 「ジャムなら『成城石井』で買えばいいじゃん」
 「食べ物はね、ただ口に入れればいいという物ではないわ。
 たまにはそれを作って下さる作り手のご苦労を感じることも大切なのよ。
 ひとつのおにぎりだってそう。セブンイレブンで買うあのおにぎりだって、どれだけ多くの人たちが関わっているか? サファイアは考えたことある?」
 「そもそも私、コンビニって生まれて今まで行ったことがないし、そういう食べ物があるのは知っているけど食べたことないもん」
 「たとえばの話よ、たとえばの話。
 いいこと、サファイア。ひとつのおにぎりを作るのに、まずお米を作るでしょう? 農家の人たちが苗を植えてお米を作る。
 雨の日も風の日も嵐の日も熱中症になってしまいそうな夏の炎天下でもお米を作って下さるの。 
 ゴールデン・ウイークだってディズニー・シーにも行かずに、ダッフィーちゃんやシェリー・メイちゃんとの握手も出来ずに家族総出で田植えをし、そして秋には稲刈り。
 あの一個のおにぎりを作るためにお風呂一杯分のお水がいるそうよ。
 そしてその収穫したお米を精米して、今度は時給850円のパートのおばちゃんや年金暮らしのお爺ちゃんたちがおにぎりを工場で作ってドライバーさんがコンビニへ運ぶの。
 おにぎりに巻く海苔だってそう。たくさんの手間がかかっているわ。
 鮭のおにぎりなんて、漁師さんたちが「獲ったどー!」ってよい子の浜口みたいに叫んで獲って来てくれた物よ。  
 命がけでね?
 だから何でも感謝して食べないといけないわ」
 「でもさー、森まで歩いて行くのイヤだよー、疲れるし日焼けしちゃうしー」
 「それなら大丈夫、セグウェイで行くから。
 それにメイドのキャンディもつれて行くから」
 「それなら行ってもいいけど。でも苺は獲らないわよ、手が汚れちゃうから」
 「もー、サファイアったら。あはははは」

 そう言ってローレライは口に手を当て、鈴が鳴るような声で笑った。




 サファイアとローレライ、そしてメイドのキャンディの3人は、セグウェイで森へ向かった。
 

 「はじめましてサファイア様、メイドのキャンディです!」
 「こんにちはキャンディ。よろしくね?」

 メイド服の似合うキャンディはとてもチャーミングな女の子だった。しかも巨乳。
 この宮殿には巨乳しかいないのかっつーの! まったくもう!

 
 「キャンディはね? アキバのメイドカフェで私がスカウトして来たの。かわいいでしょ?」
 「ええまあね。私よりは劣るけど」
 「あら妬いているの? サファイア?」
 「そ、そんなことないわよ、ただ事実を言ったまでよ」
 「そんなサファイア、好きよ」



 ようやく野苺の群生地に辿り着いた。
 眼下に広がる見事な野イチゴ。


 「わー、凄く甘いイチゴの香りー!」

 私は息を飲んだ。

 「ねっ? 凄いでしょ? それじゃあ私とキャンディはイチゴを摘んでくるからサファイアはここで待っていて頂戴」
 「やっぱり私も一緒に行くーっ!」



 一粒、イチゴを頬張ると、眼の前がピンクに染まるほどの甘さが口いっぱいに広がった。
 そしてなんていういい香り!
 私は夢中でイチゴを食べては摘み、摘んでは食べた。

 「たくさん獲れたわね? さあ、お城に帰って苺ジャムを作りましょう」



 するとそこに、何やらイチゴを夢中で食べている大きな象亀がいた。

 「ウマい! なんてうまいイチゴなんじゃ! ムシャムシャ」
 「亀さんもイチゴ好きなの?」
 「イチゴが嫌いな奴などおらんわい! ムシャムシャ」
 「そうね? 私もイチゴ大好き!」


 ローレライはその亀とは知り合いのようだった。

 「亀次郎さん、お久しぶり。あの時は本当にお世話になりました。お元気そうで何よりですわ」
 「おお、これはこれはローレライ様、ご機嫌うるわしゅうございます。
 その後、お変わりはござらんか?」
 「おかげさまで息災です」
 「それはよかった。して、あの嫁いびりの酷かった姑の奥方は今どうしておられます?」
 「特別養護老人ホームで楽しくカラオケをして暮らしているようですわ。Z-JAPANとかを歌って」
 「酷いお姑でしたからのう? あのお人は」
 「もうお願いすることはないとは思うけど、その時はまたお願いしますね?」
 「はい、いつでもお申し付け下され。
 ただし、私も今年で1,287歳になる老亀ですゆえ、いつお迎えが来ますやら。
 そしてこのとおりの「のろい亀」ですのでご了承下され」
 「わかっているわ「呪いの亀次郎さん」、ではごきげんよう」
 「ごきげんよう、ローレライ様」

 呪いの亀次郎? 私はローレライに尋ねた。

 「ねえローレライ、さっきのゾウガメはなんなの?」
 「呪術師の亀次郎さんのことかしら? あの亀次郎さんに呪われたら最後、無事でいられた者は誰もいないの。
 『呪のゴルゴ亀次郎』とも呼ばれているわ」
 「呪術師? あの亀爺が?」
 「サファイア、言葉を慎みなさい。
 あのゴルゴ亀次郎は凄い人なのよ。
 ケネディ大統領も宮迫博之も森喜朗もみんなあの人の仕業で窮地に追い込まれたのよ。
 まあ、頼まないのには越したことはないけど。
 でもどうしても殺したい奴っているものでしょう? サファイア」

 ローレライの笑っていない眼に私はゾクッとした。
 
 (こんなやさしい彼女にも、殺したいほど憎い人間がいるってことなのかしら?)


 するとローレライはお姑さんに呪をかけることを亀次郎に依頼したことになる。
 このやさしいローレライがそこまでするにはおそらく、マリアナ海溝よりも深い理由があったはずだ。

 サファイアは『ゴルゴ亀次郎』に興味を持った。 
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