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第2話

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 宮殿の真鍮磨きをしているアンドレにサファイアはを付けた。


 「ちょっとアンドレ、レイモンド卿は巨乳好きだなんて一言も言っていないって言ってたわよ!
 私のような貧乳が好きなんですって!
 出鱈目を言うのもいい加減にして頂戴!」

 するとアンドレは少女漫画に出て来る憧れの男子のような顔でサファイアに振り向くと、

 「そうですか? 男爵様がそう仰るのならそうなんでしょうね?」

 と、さらりと言ってのけると再びブラスワークを続けた。

 「何よその言い方。ムカつくー!
 謝りなさいよ! 「巨乳好きという嘘を吐いてすみませんでした」って!」
 「なぜ私があなたに謝らなければならないのですか?」
 「あんたねえー、ちょっとくらいハンサムでジャニーズ顔だからっていい気になっているんじゃないわよ!
 普通の女子ならいざ知らず、わたくしを誰だと思っているの!
 私はレイモンド様一筋なんですからね!
 そんな輝く眩しい白い歯で笑ってもダメよ! 何よその金髪サラサラヘアは!
 誰があんたみたいなイケメンに抱かれたいなんて思うもんですか!
 バカにしないでちょうだい! それは・・・、それはちょっとはステキかもしれないけど、アンタなんかに抱かれたいと思うほど、わたくしはオバサンではなくてよ!」
 
 サファイアは通常モードではドSだったが、ベッドではドMだったので、そっけないアンドレの態度に胸キュンとなるのを必死に抑えていた。

 「侯爵令嬢。お褒めの言葉に預かり光栄至極にございます」
 「だからー、謝れってんだよ、このイケメン黒執事!」

 するとアンドレはその輝く金髪を、ちびまる子ちゃんの花輪君のように跳ね上げてこう言った。

 「謝りませんよわたくしは。それは事実だからです。
 ご主人様のご正室はバスト120cmの巨乳。
 そして他の側室たちも、あなた様以外は全てバスト90cm以上でございます。
 しかも男爵様のご趣味は、牛舎のホルスタインの毎朝の乳搾り。
 いえ、正確にはそのまま直にお乳を召し上がっておいでです。
 チューチューと卑猥な音を立てながら。
 旦那様の愛された女性で慎ましやかなオッパイ、78cmのブラいらずのバストは、もはやオッパイとは申しませません。
 それは板、胸板と言うのですよサファイア様」
 「くうーっつ! 言わせておけば良くもわたくしが一番気にしていることをいけシャアシャアと!
 誰か、誰か斬鉄剣を持って来て頂戴!
 このイケメンの首をサロメのように叩き切ってお盆に載せてあげるから!
 ついでにアベサダみたいにコイツのデカチンコもチョン切っちゃうからあ!」
 「サファイア様、ではこう考えてはいかがでしょうか? 貧乳でも愛されている私は凄いと」
 「んっ? ま、まあ、そうとも言えるかもしれないわね?」
 「ただもうひとり、男爵様からご寵愛をいただいてる貧乳、というより胸板の者もおりますゆえ、その者とサファイア様は恋のライバルでございますね? 負ける気はしませんが」
 「んっ? 今なんて言った? なんかどさくさに紛れて凄いこと言っちゃってくれたような気が。
 負ける気がしないって、アンタまさか? レイモンドとBL関係なの! 男爵様が執事のアンタと?!」
 「では次の仕事がございますので失礼いたします」

 気になる。執事のアンドレがレイモンドの愛人? ラ・マン?
 そんなのイヤ! 絶対にイヤ!
 でも確かに信長と森蘭丸の関係もあるしなー。
 前田利家も男色だったと言うし、強い戦国武将は美男子がお好きだというわよね?
 そしてレイモンドもそうなの?

 イヤイヤ、絶対にそれはイヤ!
 見てらっしゃい、アンタみたいな女よりも美しいオトコになんか負けるもんですか!
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