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第11話

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 挙式を終え、私たちはラッセルスクエアを散策していた。
 ロンドンは北海道よりも緯度が高く、冬場は昼が短い。
 夕暮れの街の灯りはノスタルジックだった。
 クリスマスも近く、街にはイルミネーションが輝き、賑わっていた。

 私の右手は娘の華に、そして左手はリサと繋がれていた。
 リサの家族に受け入れられた喜びに、私は独り浸っていた。



 「ふたりとも買物はいいのかい?」
 「特に欲しい物はないなあ。新しいパパも出来たし」

 私は胸が熱くなった。
 

 「お買物はパリでするからロンドンは見るだけでいいわ。
 だってパリの方がお洒落でいい物がありそうだから」
 「えっ、パパとママ、パリにも行くの? いいなあ」
 「華も一緒においでよ」

 私はこの時、「華ちゃん」とは言わずに、敢えて「華」と呼び捨てにした。
 それは華の父親になることを密かに宣言するためだった。
 それについて華もリサも何も言わなかったが、無言の喜びが彼女たちからも窺えた。
 私たちは本当の家族になった。


 「いいの? 私までママたちのハネムーンに一緒について行っちゃっても?」
 「当たり前じゃないの、家族なんだから」
 「ヤッター! 今、パリは「ソルド」でしょう? ママ、お洋服買って!」
 「それはパパにおねだりしなさい。ねえ、パパ?」
 「ああ、デパートごと買ってあげるよ」

 私は思った。
 子供がいるということは、こういうことなのかと。
 私は冴子さえいればそれでいいと思っていたが、家族とは2人より3人、3人より4人と、幸せが何倍にもなることを今さらながら知った。
 冴子にはこの光景が憧れだったのだ。


 
 食事を終え、私たちはホテルに戻った。

 「ママ。今夜は大学のレポートを書くから一人で寝るね?
 明日は何時に出掛けるの?」

 華は私たちに気を利かせたようだった。


 「ヒースローまではここから20分だから、10時に出れば午後のフライトには十分間に合うはずだ。
 9時にホテルのレストランで朝食にするとしよう」
 「わかった。それじゃおやすみなさい、パパ、ママ」
 
 華は両手を出し、私たちはそれぞれにその手を握った。

 「おやすみ、華」
 「華、あんまり遅くまでがんばらないでね? 明日は飛行機だから」
 「うん、わかった」
 
 華は自分の部屋に消え、私たちも部屋に戻った。



 部屋に入るなり、リサがいきなりキスをして来た。

 「あなたと出会えて本当に良かった。
 すごく素敵な結婚式だったわ。あのドレスを着てもう一度、挙式したいくらい」
 「何度でもするといい。でも、相手は俺だけにして欲しいな?」
 「もちろんよ。それに娘の華のことも、本当にありがとう。
 華のあんなにうれしそうな顔、随分忘れていたわ。
 あなたのことが本当に大好きで良かった。
 褒めていたわよ、あなたのこと。
 「やさしそうなひとで良かったね? ママ」だって。
 ふつつかな嫁ですが、これからもよろしくお願いします」
 「俺もこんな爺さんだけど、よろしく。
 リサ、愛しているよ」

 私はリサを強く抱き締めた。

 「さあ、シャワーを浴びて、二度目の新婚初夜をしましょうよ」
 「それじゃあ一緒ににシャワーを浴びようか?」


 私たちは服を脱ぎ捨て、シャワールームに歩き出そうとすると、リサが急に立ち止まった。
 
 「シャワーの前に一度ベッドでしてからにしましょうよ」
 「いいけどあまり声は出さないでくれよ、隣で華が勉強しているんだから」
 「なんだかそれも燃えるわね? 無言のセックス。あはっ」

 私とリサはそのままベッドで行為を始めた。
 自分の手で口を押え、声を押し殺そうとするリサ。
 私もなるべくベッドが軋まないように律動を繰り返した。

 「んっ、んっつ、はぁはぁ・・・」

 私はリサが眉を顰め、快感に耐えるその表情に欲情した。



 結局、シャワーを浴びたのは2回戦が終わってからだった。

 「2回も出しちゃったね? うふっ」
 「何だか燃えたよ、リサ。あはははは」

 私たちは抱き合い、笑った。



 翌朝、私たちは朝食を食べ終え、ヒースローからパリのド・ゴールへと飛んだ。

 機内では窓際には華が座り、通路側にはリサ、そして真ん中に私が座った。
 パリへのフライトの間、私はふたりの女神にずっと手を握られていた。

 ロンドンとパリのフライトはあまりにも短かすぎた。
 ユーロスターにすれば良かったと、私は少し後悔した。

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